新入社員や就活生向けに役立つ本をテーマ別で紹介している短期連載・第3回目は「考える力」と「発表のしかた」がテーマ。

業務に関わる話ではしっかりした「中身」が求められます。話がうまくて面白ければ人気者になれるのは学校でも会社でも同じですが、中身が伴わなければ「話はうまいが、社会人としては薄っぺらい」とネガティブな評価につながりかねません。

そこで「中身を作るための考える力」と、それを伝える「発表資料の作り方」の体得に役立つ本を紹介するとともに、ポイントを簡単に解説します(各書影をクリックすると、Amazonに遷移します)。

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「意見・事実・暗黙の了解」を区別して、自分なりに考える

『「自分で考える力」の授業』(狩野みき 著)

近年は、入社1年目であっても会議で自分の意見を発表するように求められることがあるため、若いうちから「考えて、自分の意見を作る習慣」をつくることは非常に大事です。

本書は「TED×Tokyo teachers」での講演経験もある狩野みきさんが、ハーバード大などで行われている「考えて、自分なりの意見をつくるメソッド」を解説したものです。その方法の一部を、本書の内容をもとにみてみましょう。

自分の意見を作るために、深く掘り下げて考える

仮にあなたが、「語彙やヒアリング能力などの英語力が、聞くだけで飛躍的にアップする新規音声商品」の企画提案者から意見を求められ、その背景として以下のような答えが返ってきたとします。

  1. 30代前後を中心に、英語を学びたいと思うビジネスパーソンは多い
  2. 英語教育の専門家が『ヒアリングさえできれば日本人の総合的英語力は確実にアップする』と言っていた
  3. 内容がよければ10年以上売れる教材も多い。この商品もロングヒットが見込めるだろう

企画に対する賛否はともかく、あなたはこれを聞いてどのような意見を組み立てられるでしょうか? 一つひとつ考えてみましょう。

1. 「顧客が本当に身につけたいもの」は英語力でいいの?

自分の意見を組み立てるときに役立つ方法として「他人の視点になりきって考えてみる」があります。ここでは、この商品のメインターゲットである「30代のビジネスパーソン」になりきって考えてみましょう。

30代では交渉事やさまざまなアウトプットを求められます。英語を学びたがる以上「英語での交渉やアウトプットができるようになりたいから買う」という購入動機も当然考えられます。そうなると「語彙やヒアリング能力だけでは不十分では?」「英語で交渉するコツも覚えられる方がいいのでは?」など、企画の原案には欠けているものが見えてきます。

2. 専門家が言っていたのは事実? それともただの意見?

専門家の発言ならば、とすんなり受け入れてしまう人が多いですが、しっかり考えるには「それが事実なのか、それとも意見に過ぎないのか」を深いレベルで検討しなければなりません。たとえば、この専門家は発言の根拠として「1万人を対象に、ヒアリング力向上の前後でTOEICを受けてもらったところ、向上後のスコアはその前にくらべて平均30%伸びていた」というデータを挙げていたとしましょう。

これだけ聞くと、専門家は事実を述べてると思う人もいるでしょう。

一方で、TOEICはあくまで「数ある検定試験の一つ」でしかなく、高得点を取るための“攻略法”も少なからず存在するので「TOEIC高得点=総合的な英語力がある、と証明するものではない」と解釈する人もいます。その観点でみれば、専門家が述べたのは「TOEICのスコアが30%上がった」というデータから解釈した一意見にすぎないという見方も成立し得ます。

最終的にこの発言をどう捉えるは受け手の自由ですが、いずれにせよ、事実と意見の区別をつけるのはとても大事なことです。

3. 本当に10年売れるのか?

他社商品には確かにロングセラーが多数ある様子。でも、そこから「うちの商品も10年売れる」と言い切れるでしょうか? こういうときは根拠と結論の図式化による「暗黙の前提の検討」をするとよいでしょう。

人の意見にはたいてい背景や思い入れ、葛藤、本人にとっては当り前だからこそあえて口にしない前提など、目には見えない多くのものが含まれています。この中で特に見えづらいのが前提です。

背景や思い入れ、葛藤は、よい質問をしていくうちに見えてくることがけっこうありますが、前提は、本人にとっては当り前のことだからこそ見えづらいのです。このような前提のことをクリティカル・シンキングなどでは「暗黙の前提」と呼びます。

(『「自分で考える力」の授業』P.141より)