大阪のガンコ社長が新入社員に叩き込んだ、リーダーになるための教えとは?
実話にもとづくビジネスストーリー『苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた「上に立つ人」の仕事のルール』の1話から3話を限定公開します! 
最終回の第3話は「皆を巻き込め」。
(第1話「出会い」、第2話「あえてダメを出せ」はこちら)

営業日報や週報が社内でまったく共有されていないことに気づいたボクは、情報共有化のための仕組みを考え、自信満々で皆に提案した。しかしなぜか、全員の猛反対にあってしまう。彼らの意識の低さを批判するボクに、オヤジのカミナリが落ちた──。
厳しくも温かい「オヤジ」と期待に応えようと奮闘する「ボク」の、実話を元にしたちょっと懐かしいビジネスストーリーです。

STORY 03  皆を巻き込め

正しい提案をしたはずなのに……

あるとき、ボクは、社内の営業情報が正しく共有されていないことに気がついた。
当時、日報や週報は、手書きで仕上げて回覧するのが一般的だった。
何しろパソコンは、とても高価だった。本体だけで数十万円もして、しかもワープロや表計算のソフトは別売りだ。一人一台までは、普及していなかったのだ。

ボクは、休日にさまざまなビジネス書を読んで、どういう報告書を書き、どう回覧すれば、迅速に営業情報が共有できるかを考えた。そして、他社の事例を参考に報告書のフォーマットを作り、運用のマニュアルを作った。
(よし、できた。なかなかいい仕上がりだ)
ボクは、一人ほくそ笑んだ。

「ご提案があります」
ある日、それをオヤジに提出して内容を説明した。
ボクは、頭の中で褒められるシーンを想像していた。「なかなかええ提案やないか」と言ってくれると思っていたのだ。

ところが、返ってきた反応は、真逆だった。
「何を満足げな顔をしとるんじゃ。アホ。まさかと思うけど、こんなんで仕事したと思ってないやろな?」
いきなりのカウンターパンチだ。
予想を裏切るこの言葉を聞き、動揺して返事ができなかった。

「こういう仕組みを作ろうと思ったことは、とてもええ。自ら考えてそれを提案するお前の姿勢もすばらしい。これは、褒めてやる。
しかしな、勘違いしたらあかんぞ。この程度の提案は、何冊か本を読んだら誰にでも書ける。違うか?」
「おっしゃる通りです」
「新しい仕組みを浸透させるには、強い情熱と粘りが必要や。まずこれを皆に理解させ、『やろう』と思わさなあかん。さらに実際にやってみて、提案の不備を修正せなあかん。やらないやつは、どついてでもやらさなあかん。できへんやつを励まし、全員ができるようにせなあかん。
提案を考えて書類に仕上げるより、実際に皆にやらすほうが千倍以上も大変や」
(う~ん。そうかもしれない)
提案を作るだけで満足していたボクは、何も言えなかった。