大阪のガンコ社長が新入社員に叩き込んだ、リーダーになるための教えとは?
実話にもとづくビジネスストーリー『苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた「上に立つ人」の仕事のルール』の1話から3話を限定公開します! 

第2話となる今回は「あえてダメを出せ」。
(第1話「出会い」、第3話「皆を巻き込め」)

会社案内の製作をまかされた「ボク」は、張り切って案をつくった。会社の幹部たちも絶賛するほどの出来栄えだったが、「オヤジ」はろくに見もせずに「全然あかん。やり直せ」という。それも、何度も。まったくもって腹の立つオヤジだけど、そのダメ出しにはオヤジなりの理由があった──。

厳しくも温かい「オヤジ」と期待に応えようと奮闘する「ボク」の、実話を元にしたちょっと懐かしいビジネスストーリーです。

STORY 02 あえてダメを出せ

「お前の若い発想でうちの会社案内を作ってくれ」

入社して数カ月が経ったある日、オヤジからこう言われた。会社には、文字だけの古臭い会社経歴書しかなかった。そこで新しくパンフレットを作ろうというのだ。
(よ~し。頑張るぞ)
初めて自分が責任を持って取り組む仕事だ。ボクは、張り切った。

当時、インターネットは普及しておらず、資料を集めるのは図書館だった。ボクは、図書館に通ったり、さまざまな企業の会社案内を取り寄せたりして、案を詰めていった。

複数の広告代理店から一社を選び、制作会社を決定した。その会社の担当者と打ち合わせを重ね、デザインを決め、写真を撮影し、文章を作成して、案が完成した。写真をふんだんに使い、今どきのデザインに仕上がった。
(これなら皆も喜んでくれるだろう)
そう思って稟議書を上げた。どの幹部も口をそろえて絶賛してくれた。

「お前はアホか。もう1回やり直せ」

最終決裁は、オヤジだ。
「会社案内の案が完成しました。ご確認ください」
「おう」

そう言ってオヤジは、案を受け取った。そして、数秒パラパラとページをめくったかと思うと、眉間に深いしわを寄せ、厳しい顔をして冷たく言い放った。
「全然あかん。やり直せ」
苦労して作った案をまともに読もうともせず、いきなり却下したのだ。

ボクは、身体がカッと熱くなるのを感じた。
(チェッ、なんだよ)
心の中で舌打ちをしたボクは、イライラしながら質問した。
「恐れ入ります。どこがダメなんでしょうか?」
「全部ダメや」
「ですから、どこが……」
「パッと見てわからんか? カタカナが少ないんや」
「ええっ!」

ボクは、自分の耳を疑った。思わず、「そんなくだらない理由ですか?」と言いそうになった。オヤジは、会社案内の見開き1ページ目を指さし、ボクをにらみつけるように言った。
「これ見てみろ。お前が作った文は、漢字ばっかりや。読む人は頭が痛うなるわ」
「いや、しかし……」

「しかしもカカシもない。写真とデザインはこれでええから、文章はイチからやり直せ」
結局すべての文章をやり直すことになった。

(くそ~、見ていろよ)
ボクは意地になった。「トレンド」「アメニティ」など、横文字をたっぷり使って文章を書き、再び提出した。
「なんや、これは」
「ご指示に従って修正しました」
「お前はアホか。読むのは日本人やぞ。横文字が多すぎるわ。もう1回やり直せ」

再び修正して案を見せると、「声に出して読んでみろ。これではリズムがない」と叱られた。さらに修正したら、「一つひとつの文が長すぎる。すべて短文に直せ」と言われた。
(もう~、一度に言ってくれよ)
そう思いつつ、何度も修正を重ね、ようやく会社案内が完成した。