今回も、それと同じであろう。黒田日銀総裁は量的・質的金融緩和の導入を行ない、その後も随時、国債やETF、REITの買入額を増額したりしたものの、デフレは大きく改善しなかった。

量的・質的金融緩和は失敗に終わったが、日銀としてそれを認めることができないため、今度は「イールドカーブ・コントロール」という奇手を出してきたというわけだ。ガダルカナル島の戦いで旧日本軍が敗れた際に、大本営が「撤退」という言葉を使わずに「転進」と言ったのと同じである。

整理すると、日本は2000年以降、量的緩和、ゼロ金利政策、量的・質的金融緩和、マイナス金利というように、ありとあらゆる金融政策を講じてきたが、かれこれ16年が過ぎてもなお、デフレから本格的に脱却できずにいて、イールドカーブ・コントロールという奇手を出してきたものの、それが2%の物価上昇率を実現できるかどうかはまったくわからない、というのが現状だ。

こうなると、2%という物価上昇率の目標値を達成するために残された打ち手は、限られてくる。そのなかで、おそらくこれは間違いなく効果があると思われるのが、ビル・ボナーがいう中央銀行のデフレ対抗手段の最終段階、すなわち「ヘリコプターマネー」なのである。

ヘリコプターマネーは究極のデフレ対応策

これまで日銀が行なってきた国債の買い入れは、新たに発行された国債を、日銀が直接買い付けるのではなく、まず銀行が新規発行された国債を買い付けた後、債券市場で売却したものを日銀が買い付ける、という流れになっている。

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そうであれば、「そんなまどろっこしいことをせずに、日銀が財務省から直接、新規発行された国債を買い付ければいいのではないか」と考える人もいるだろう。まさに、この「財務省から直接、新規発行された国債を買い入れる」ことを、ヘリコプターマネーという。

つまりは、中央銀行による国債の直接引受のことなのだが、それに「ヘリコプターマネー」という呼び名が付いているのは、米国の前FRB議長であるベン・バーナンキが、FRB理事に就任した直後の2002年に行なったスピーチからきている。

そのスピーチの内容は、「景気がもうどうにもならなくなったときは、ヘリコプターから金をばらまけば、景気は確実に浮揚する」というものであった。ちなみに、このときヘリコプターマネーを提唱したベン・バーナンキには、「ヘリコプター・ベン」というあだ名も付けられた。

ともあれ、いま日銀が行なっている国債の買い入れと、ヘリコプターマネーと呼ばれている国債の直接引受とでは、「あいだに銀行が介在するかどうか」という点が大きく違う。

最終的には日銀が、銀行が保有している国債を買い付けるわけだが、いまのしくみだとその前段階で、財務省が発行した国債を銀行が買うことになるため、形のうえでは、銀行が預金を通じて国民から調達した資金の範囲内で、国債を買い付けていることになる。つまり国民の貯蓄で国債をファイナンスしていると強弁できる。

しかし、国民の貯蓄で国債をファイナンスし続けるには、限界がある。2016年9月時点の個人金融資産は総額で1752兆円あり、このうち52.3%に相当する916兆円が現預金だ。