2016年の為替の値動きはまさしく「激動」といえるものでした。ドル円を例にみると、120円30銭で始まった相場は、2月上旬に110円台前半まで急落。さらに6月、Brexit投票時には瞬間的に99円08銭をマーク。その後11月まで100円台前半のボックス相場が続き、そのまま年を越すのかと思いきや、トランプ旋風によって118円台まで急騰――

……などと、99円~120円のレンジで激しい値動きをしたことで、株式市場・為替市場の参加者はもちろん、輸出入が業績を左右する企業活動にまで大きな影響を与えました。

さて、2017年の為替の動きはどう動くと予想できるのでしょうか。12月に『新版 本当にわかる為替相場』を上梓した、ソニーフィナンシャルホールディングス執行役員 兼 金融市場調査部長の尾河眞樹さんに話を訊いてみました。

たった1カ月で約16円……

これほどハイペースのドル高・円安を、一体誰が予想できたでしょうか。

正直なところ、大統領選以降の金融市場のポジティブな反応は、筆者にとっても予想をはるかに超えたものでした。トランプ次期大統領が選挙中に公約していた減税や、インフラ投資などの財政出動が米国経済を押し上げるとの期待から、米株価が上昇。2017年には米連邦準備理事会(FRB)による利上げペースも加速するのではないかとの憶測も広がるなか、米国の長期金利が上昇、ドル高が進行するという、いわゆる「トランプ・ラリー」が続いています。

トランプ氏は選挙中「メキシコとの国境に壁を!」「中国からの輸入品製品には一律45%の関税を!」「不法移民は国外退去を!」……と、どぎつい発言で注目を集めましたが、これらは選挙後にはすっかり影を潜めています。

加えて、次期財務長官に抜擢された元ゴールドマン・サックスグループのパートナー、スティーブン・ムニューチン氏がメディアでコメントするようになり、具体的に「減税の重要性」や「金融規制の緩和」などを述べるにつれて、市場参加者の間にも一段と安心感が広がってきました。12月に入ってからドル円の上昇が一段と加速したのはこのためです。

米国で初めてビジネス界から大統領が誕生したという話題性と、トランプ氏本人のキャラクターの濃さによる注目度の高さから、米国の話ばかりが注目を集めています。

実際、大統領選以降は、様々な通貨に対してドル高がすすむ、いわゆるドル全面高が続いていますが、実は、ドルに対してもっとも大きく下落したのは円である点は大事なポイントです。大統領選投票日の11月7日以降12月26日までで、円は対ドルで約11%下落。トランプ氏の勝利で大きく売られたメキシコペソでさえ約9%の下落ですから、円の下落がいかに大幅だったかがわかります。この現象の背景には、日銀の金融政策も一部影響しているのです。

日銀は2016年9月に、「イールドカーブ・コントロール」という新たな金融緩和の枠組みを発表しました。これにより、10年債利回りをゼロ%付近に維持するよう操作するとしています。その一方で、米国の10年債利回りは上昇傾向にあるのですから、日米の金利差は急速に拡大しました。これこそドルが円に対してもっとも大きく上昇した背景です。

12月の金融政策決定会合で黒田総裁が述べていたとおり、日銀の政策によって日本の金利水準が当面動かないとすれば、ドル高・円安基調は当面続きそうです。1月20日の大統領就任式のあと、トランプ次期政権の財政政策が具体的になるのが2月頃で、それまでは歓迎ムードが続きやすいことを踏まえれば、就任後1カ月程度はトランプ・ラリーは続き、ドル円は堅調地合いが続く可能性が高いでしょう。

春ごろには円高リスクも ――荒れる欧州