過半数代表者と労働組合の違い ―三六協定締結―

労基法をはじめとする労働関係法令において、「事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」に、労使協定の締結主体や意見聴取の相手方としての機能等が与えられています。

労基法制定当時は、時間外労働についての三六協定の締結主体及び就業規則の作成・変更時の意見聴取の当事者として過半数代表者制が規定されていましたが、過半数代表者制が用いられる場面は拡大し、今日では、多岐にわたる場面で過半数代表者制が法で定められています。

この過半数代表者制と労働組合は、どこが異なるのでしょうか。

まず、過半数代表者は、三六協定の締結、就業規則変更の意見聴取等の事項ごとに個別的に選出される一時的な主体であり、常設的機関ではありません。また、過半数代表者は労働組合と異なり、不当労働行為救済制度等による制度的保護が与えられているものではありません。

そのため、現行法上、過半数代表者は労基法等に定められた当該事項について意見陳述、同意、協議等を行う一過性の主体としての位置づけにすぎず、労働組合のような継続的な交渉主体としての性質は有していないのです。

過半数代表者制が規定される条文上、一次的には「過半数で組織される労働組合」を主体とし、二次的に「労働者の過半数を代表する者」が規定されているのは、過半数で組織される労働組合に比して、過半数代表者の交渉能力及び従業員の意思反映が劣後することに由来するものと考えられます。

労働者個人で加入できる労働組合もある

ここまで読まれて、「うちの会社に労組はないから関係ない…」と思った方もおられるでしょう。しかし、結論から述べると、労働組合が企業内に存在しないからといって労働組合問題が生じないというものではありません。

労働者が職場外の労働組合に1人で加入した場合であっても、その労働組合は会社に対して団体交渉申入れ権をはじめとする労働組合としての権利を行使することができるのです。

これまで日本における労働組合は、特定の企業で働く労働者によって組織された企業別労働組合が中心となり組織されてきました。しかしながら、労働組合の組織率は、1949年の55.8%をピークに下降傾向にあり、2019年時点では16.7%にまで低下しています(厚生労働省調査)。

一方、企業の外部に存在し、個人加入が許されている労働組合が存在するのをご存じでしょうか。このような形態の労働組合は、一般的に「合同労組」と呼ばれ、個人加入した従業員への残業代支払や解雇撤回などを求め、企業に対して団体交渉開催要求を行うことができます。

なぜ、職場外の合同労組であっても、団体交渉を求めることができるのでしょうか。

労働組合には、職業別組合産業別組合及び企業別組合などの形態があり、諸外国では前二者の職業別組合や産業別組合が労働組合の中心を占めています。一方、日本では、企業別組合が労働組合のスタンダードな形態として認知されているため、企業の外部に存在する合同労組が労働組合としての活動を行いうることについて、あまり認知されていない傾向にあります。

しかしながら、労組法は、労働組合を「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」で、企業の利益代表者の参加を許したり経費援助を受けていないものと定義しており(労組法第2条)、その企業の従業員のみで組織されなければならないとは規定されていません。

このように、企業内に労働組合が存在しない場合であっても、1人で外部の合同労組に加入することが認められているのです。

ただ昨今は、飲食物の配達員など業務委託契約による働き手が増加しており、必ずしも労基法や労働契約上の保護が及ばないケースも珍しくなくなってきました。「多様な働き方」をする労働者を対象とする労働組合の活動は、より盛んになっていくことが予想されます。


著者プロフィール:友永 隆太(ともなが りゅうた)

東京都出身。ドイツ(デュッセルドルフ)にて幼少期を過ごす。学習院大学法学部法学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。2016年弁護士登録。第一東京弁護士会。杜若経営法律事務所所属。経営法曹会議会員。団体交渉、残業代請求、労働災害や解雇事件等の労働問題について、いずれも 使用者側の代理人弁護士として対応にあたっている。特集記事や連載記事の執筆、労務セミナーを主催。