それから多くのコーチ達に出会い、指導を受けましたが、そのなかには組織に属さずに、独立して個人のクライアントのためのコーチ活動をする、という人もいました。彼らはパーソナルコーチとして、クライアントの人生そのものを良い方向に変えていく手助けをしていたのです。

そんな仕事や生き方に共感し、ますます惹かれるうちに、もともと持っていた独立志向が再び頭をもたげてきました。自分がコーチとして独立して、人の人生そのものに関わっていく明確なイメージと一緒に。

そして29歳の時、東京は狛江の古いアパートの一室で独立を果たしました。

クライアントの獲得に悪戦苦闘

独立した時のクライアントは、たまたま知り合った女性経営者一人。ほかに収入のあてがないので、アルバイトで生活費を稼ぎながらの独立でした。

ここからは悪戦苦闘です。コーチとして独立はしたものの、クライアントの獲得、つまり営業活動をどうやればいいのか、何も知らなかった。この時はコーチという職業のわかりにくさを痛感しました。よく言われたのは「いったい何ができるの?」ということ。税理士や社労士など、士業の方々にはないであろう苦労がありました。

しかし、この仕事を続けていくには、とにかくお客さんが必要です。かなり長い間、試行錯誤していくうちに、当時流行していたあるものに気づきました。それは、「社長ブログ」です。

当時、サイバーエージェントの藤田晋さんの著書『渋谷ではたらく社長の告白』(幻冬舎文庫)が契機となって、社長がブログを書いて経営観や仕事観について発信する、ということが流行っていたんです。実際に、サイバーエージェントが運営する「アメーバブログ」には、いろんなベンチャー企業の社長がブロガーとして参加していました。

起業家1000人にダイレクトメッセージ

私はこれを見て、「そうだ、起業家にコーチングしよう」と考えて、「アメブロ」の1000人の社長ブロガーに「無料でコーチングセッションを体験しませんか?」という内容のダイレクトメッセージを出したんです。エクセルでリストを作って、勢いで一気にやりました。

しかし驚いたことに、そのメッセージのレスポンス率は1000人中100人と、非常に高いものでした。起業するほどの熱意と能力がある人もじつは孤独に悩んでいるんだ、ということがその時わかりました。

結果として、返信があった80人の社長とセッションができて、最終的に20人のクライアントを獲得することができたのです。

また、それとは別に、企業向けの研修コーチとしてのお話もいただくようになり、少しずつ仕事は増えていきました。

しかし、まだまだ模索は続きます。なぜなら、世の中にコーチはたくさんいるから、クライアントにとっては、コーチは必ずしも私でなくてもいいわけです。私だけが提供できる「価値」とはなんだろうかと、自問する日々でした。

「続かない」のがクライアントの悩みだった

自分しかできない仕事や価値とは? と考えながらコーチングしていくなかで、ある時、多くのクライアントに共通する問題に気づくことになります。

それは、「何をやればいいかはノウハウ本に書いてあるからわかっている。それが続かないから困っているんだ」ということでした。

つまり、早起きしてジョギングして始業より1時間早く出社して……、そうすれば人生はいまより良くなるとは思う。だけど、それがどうしても続かない。自分が意志の弱い人間に思えてきてイヤになるんだ、と。

また、企業研修においても、研修で学んだことは、その直後はモチベーションが高いから実行できるが、日常業務にまぎれていつの間にかやらなくなる。もっと続けることができれば、社員も経営も良くなるのに、そこが悩みなんだとよく聞かされました。

そこで私は、「続ける」ということだけに特化して、それを形式知化することを考えました。具体的には次のようなことです。