トラブルが起きて初めて「そこにリスクが潜んでいた」ことに気づくのはよくある話です。しかし、事業を継続していくには、まだ表面化していないリスクを予測し、備えることが大事です。会社の日常業務に潜むリスクと、その対応策を弁護士・小杉太一氏が解説します。
※本記事は月刊「企業実務」の連載・「まさか!」に備える総務のリスクマネジメントを転載したものです。本連載のバックナンバーはこちら
企業は、労働者との間で、期間の定めのない労働契約(以下、「無期労働契約」)を締結するケースと、期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」)を締結するケースがあります。
有期労働契約を締結するケースでは、企業は、労働契約の期間が満了する時に労働契約を更新せず、労働契約を終了させることができます。有期労働契約の期間満了時に労働契約を更新しないことを「雇止め」といいます。
しかしながら、労働契約を継続または更新したい労働者が雇止めの効力を争うことにより、紛争に至る事例が生じています。
雇止めが否定されるリスク
厚生労働省労働基準局の調査では、過去5年間に有期労働契約の期間満了時に雇止めをされた経験のある有期契約労働者のうち、雇止めをめぐって「トラブルになったことがある」割合は32・8%にのぼります。
トラブルの原因としては、「契約の継続( または更新)を希望していた」こと(82・5%)、「理由が納得できなかった」こと(42・2%)、「予告がなかった、または遅かった」こと(36・2%)が挙げられています(「令和3年有期労働契約に関する実態調査」より)。
仮に裁判で雇止めの効力が否定された場合、企業は、当該労働者との間で労働契約を継続しなければなりません。また、雇止め以降から判決確定の日までの賃金も支払うことになります。何よりも、裁判で労働契約終了の効力が争われることになれば、弁護士費用をはじめとする応訴の負担があるだけでなく、レピュテーションリスクも懸念されます。
このように後日紛争に至る可能性があることに留意し、有期労働契約を締結・終了する際には、法令に則った手続きと、労働者の納得を得ることが大切といえます。
有期労働契約における留意点
(1) 有期労働契約の上限期間
有期労働契約には、一定の上限期間があります。一部の例外を除き、3年を超えることはできません(労働基準法14条1項)。前出の調査によると、1回あたりの契約期間は、6か月超1年以内が62・3%、3か月超6か月以内が19・6%、1年超2年以内が10・2%を占めています。
(2) 契約締結時と更新時における雇用条件の明示
2024年4月1日から、新たに有期労働契約を締結するときおよび更新するときに、労働契約を更新する場合の基準に関する事項を明示することが義務付けられました(労働基準法施行規則5条1項1号の2)。
更新する場合がある有期労働契約を締結する場合は、契約期間を通算した期間を定めるときはその期間を、更新回数の上限を定めるときはその上限を明示することとなります。
たとえば、前者については「通算契約期間○年まで」、後者については「更新○回まで」と明示する必要があります。
(3) 無期労働契約への転換
1回以上更新をした有期労働契約の契約期間の通算が5年を超える場合、労働者が企業に対し、現在締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期労働契約の締結を申し込んだときは、企業はその申込みを承諾したものとみなされ、現在の契約期間満了日の翌日から、有期労働契約が無期労働契約へ転換されることとなります(労働契約法18条1項)。
企業としては、将来、労働契約を終了させる予定であったとしても、自動的に無期労働契約が成立してしまうため、十分な注意が必要です。
なお、有期労働契約の契約期間を通算した期間の5年間については、有期労働契約を締結していない期間が一定以上続いた場合、それ以前の有期労働契約の期間は契約期間の通算から除外されます。
たとえば、企業とその労働者との間で有期労働契約を締結しない期間が6か月以上あると、それ以前の有期労働契約の契約期間は通算から除外されることとなります。下図のケースでは、契約(1)の期間が契約期間の通算から除外されます。
2024年4月1日以降は、新たに、労働者に無期労働契約への転換を申し込む権利が発生する有期労働契約の更新時に、無期労働契約の申込みに関する事項および転換後の無期労働契約の労働条件を明示することが義務付けられました(労働基準法施行規則5条5項)。
たとえば、「本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約の締結の申込みをすることで、本契約期間の末日の翌日から期間の定めのない労働契約に転換することができる」としたうえで、無期労働契約の労働条件を明示することとなります。
有期労働契約の更新拒絶の可否
有期労働契約であっても、次の3つの要件を満たすときは、企業は更新を拒絶することができません(労働契約法19条)。
- 有期労働契約が過去に反復して更新され、その契約期間の満了時に契約を更新しないことにより契約を終了させることが社会通念上解雇と同視できること、または労働者にとって契約期間の満了時に契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること
- 労働者が、契約期間が満了する日までの間に更新の申込みをしたこと、または契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたこと
- 企業がその申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと
これらの要件のうち、特に問題となるのは1の要件です。1に該当するか否かについては、これまで多くの裁判例がありますが、
- 労働契約の臨時性・常用性
- 更新の回数
- 雇用の通算期間
- 契約期間の管理の状況
- 労働契約継続の期待をもたせる企業の言動の有無
などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されます。
1の要件の充足性を否定する事情としては、たとえば、更新回数に上限を設ける場合や、形式的な雇用条件の明示にとどまらず労働者に対して十分な説明を行ない、労働者に雇用条件を十分認識させていた場合などが挙げられます。
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労働者との将来の紛争を未然に防ぐためにも、また労働者の雇用の不安定を可能な限り解消するためにも、企業としては、法令に則った手続きを十分に履践する必要があります。
執筆者:鳥飼総合法律事務所弁護士・小杉太一
同志社大学法科大学院修了。2019年9月、司法試験合格。2020年12月、弁護士登録。2021年1月に鳥飼総合法律事務所入所。








