トラブルが起きて初めて「そこにリスクが潜んでいた」ことに気づくのはよくある話です。しかし、事業を継続していくには、まだ表面化していないリスクを予測し、備えることが大事です。会社の日常業務に潜むリスクと、その対応策を弁護士・種池慎太郎氏が解説します。
※本記事は月刊「企業実務」の連載・「まさか!」に備える総務のリスクマネジメントを転載したものです。本連載のバックナンバーはこちら
兼業・副業といわれるものには、フリーランスのような「業務委託」による働き方のほか、複数の会社と労働契約を締結し労働者として勤務するという働き方があり、最近ではスキマバイトなどのスポットワークといわれるものも増えています。
このように会社と労働契約を締結し、兼業・副業を行なう人は「労働者」として、労働関係法令が適用されることになります。
従業員の兼業・副業については、これまで、本業への専念や機密保持などを理由に一律に禁止している企業が多くありました。一方、裁判例においては、労働者が就業時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であり、例外的に制限ができるのは、次の場合とされています。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
したがって、企業が従業員の兼業・副業を一律に禁止することや、兼業・副業の禁止に違反したとして懲戒処分(解雇)を行なうことは、不法行為に基づく損害賠償責任が認められたり、解雇無効と判断されるリスクがあります。
政府も2017年に働き方改革の一環として兼業・副業を普及促進する方針を示して以降、ガイドラインを策定するなどして兼業・副業に関する環境整備を推進しています。こうした流れを受け、企業側の姿勢にも変化が起きており、多様な働き方の実現や従業員のモチベーション向上を目的として、兼業・副業を容認、または容認を予定している企業は増加する傾向にあります。
兼業・副業を巡るこのような状況を踏まえると、企業としては従業員の兼業・副業を認め、また兼業・副業人材を受け入れることを検討すべきでしょう。
兼業・副業の促進手順
(1) 就業規則の整備
まずは、就業規則に兼業・副業に関する規定を盛り込む必要があります。就業規則で兼業・副業を禁止している企業はもちろんのこと、すでに兼業・副業を認めている企業、禁止・容認を明記していない企業についても、
- 兼業・副業を認めること
- 労務提供上の支障がある場合などには兼業・副業が禁止・制限されること
さらには兼業・副業内容および時間の把握のために、
3. 兼業・副業に従事することを届け出ること
を内容とする規程を整備することが必要となってきます。
(2)兼業・副業内容および時間の把握
従業員の兼業・副業を認めるとして、企業はその内容や労働時間を把握する必要があります。従業員の行なう兼業・副業が就業規則において禁止や制限される内容かどうかはもちろんのことですが、後記のとおり、当該従業員の労働時間を兼業・副業先の企業と通算して管理する必要があるためです。
企業が具体的に把握する必要がある事項としては、下表のようなものが考えられます。企業は従業員が兼業・副業を行なうに当たり、これらの事項についての届出を求めるほか、兼業・副業の開始後も、定期的に実労働時間の報告を求める必要があります(下表7,8)。
なお、兼業・副業の内容および時間の把握の必要性については、兼業・副業人材を受け入れる側の企業についても同様のことがいえますので、採用時に確認書の提出を求めることなどが考えられます。
割増賃金未払いリスクに注意
労働基準法(以下「労基法」)では、労働時間については、「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とされています(労基法38条1項)。
ここでいう「事業場を異にする場合」には、同じ使用者の異なる事業場だけでなく、異なる使用者の異なる事業場も含まれるとされています(労働基準局長通達、昭和23年5月14日付け基発第769号)。
たとえば、A社のI支店とJ工場で勤務するような場合だけでなく、A社のI支店とB社のK工場で勤務するような場合についても、労働時間に関する規定(法定労働時間と時間外労働のうち、時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件)が通算されることになります。
このような労働時間の通算は、
1. 所定労働時間の通算(労働契約の締結順で行ないます)
2. 所定外労働時間の通算(実際に労働が行なわれた順で行ないます)
の順で行ない、通算の結果、法定外労働時間が発生する場合は、時間外労働に対する割増賃金の支払いが必要となります。
兼業・副業先の労働時間の把握を怠ってしまうと、じつは法定外労働時間が発生していたにもかかわらず、割増賃金が支払われていなかったということになりかねません。なお、従業員の兼業・副業が、労基法が適用されないようなかたち(フリーランス、起業など)で行なわれる場合には、兼業・副業先との労働時間の通算は行なわれません。
企業にとって、兼業・副業に対する取組みは、もはや避けることのできない課題です。他方、兼業・副業には、一律禁止としている場合のほか、兼業・副業を認めていた場合であっても、割増賃金の未払いをはじめとするさまざまなリスクが生じます。
そのようなリスクを低減させるためにも、自社従業員および新規採用者に対する兼業・副業の有無を確認するだけでなく、兼業・副業の内容および労働時間を継続的に把握することが重要です。
執筆者:鳥飼総合法律事務所弁護士・種池慎太郎
早稲田大学大学院法務研究科修了。2014年9月、司法試験合格。警察庁勤務を経て、2022年12月、弁護士登録。2023年1月に鳥飼総合法律事務所入所。








