528ページという結構な厚さの本にもかかわらず、好調な売れ行きにより発売早々に増刷が決まった『教養としての「金融&ファイナンス」大全』。ただ、せいぜい200ページ台前半くらいの“一般的なビジネス書”と比べて2倍以上の厚さもあるため、手に取ること自体を躊躇する方もいるでしょう。そこで、本書がどういう本なのかを紹介すべく、「はじめに」の一部を抜粋しました。

これを読んで「意外にとっつきやすそうだな」と思われた方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。

疑問のないところに学びはない

「疑問のないところに学びはない」

量子物理学分野で、朝永振一郎氏とともにノーベル物理学賞を受賞したアメリカの物理学者リチャード・ファインマン氏の言葉です。理系や文系の領域を問わず、一方的に教えられる学問より、素朴な疑問から始まる学びのほうが理解の深さや満足度が格段に大きいと思います。また、疑問の答えから、さらなる疑問を持つことで学びはより掘り下げられるでしょう。

本書の執筆にあたって、この点を最も大切にしようと思いました。「さあ、金融を学んで教養を身につけよう」と思い立って、手にする入門書の数々は、お金の成り立ちから始まって、金融と経済との関係を解説されながら、金融機関の役割、株や債券などの金融商品の内容、そして金融危機などについて整然と読みこなすものが多いと思います。私がこれまで手掛けた金融の教科書も同様です。

また、タイトルが「金融」ではなく「ファイナンス」へと変わったとたんに、企業財務の世界に頭から飛び込んでしまうケースも多いでしょう。金融もファイナンスも言語の違いだけで意味は同じですが。

本書は、日々生活する中でお金にまつわる「素朴な疑問」に丁寧にお答えすることを念頭に置いています。

ただ最近は、情報技術の進歩、ネット空間における収益獲得機会の多様化、ソーシャルメディアを通じた情報発信を行うことに自己実現の価値を見出す皆さんの献身もあり、コストをかけるまでもなく、書店に足を運ぶ必要もなく、疑問の答えを獲得することができるようになりました。その利便性は極めて高いと私自身も評価しています。

しかし、残念ながらネット等で氾濫する情報には明らかに誤ったもの、見聞の転載、法的あるいは学問的根拠の希薄なものが存在することも事実です。そのため、せっかく本書を手に取っていただいたことに報いるため、明確な答えとその根拠をしっかりした法的視点や理論的枠組みをもって補強していく形でお示ししたいと考えています。

もちろん、政策の是非などに関しては絶対的に正しい解などは存在していませんので、判断が分かれる部分については個人的意見か客観的な傍証があるものなのかを明らかにします。

新型コロナ禍で経済や社会のあり方も変わりつつありますが、金融も例外ではありません。身近なところからは、キャッシュレス決済の進展があります。現金は扱うだけで衛生面のリスクを伴うので、非接触型の支払い手段は今後も重要な方法となります。また、世界的にCBDC(Central Bank Digital Currency)というデジタル通貨を中央銀行が発行する検討も行われていますので、現金のない世の中がそう遠くない将来に実現するかもしれません。

このように、お金にかかわる話題は常に新しい言葉とともに浮上してきます。新しい話ばかりでなく、「3時にシャッターが下りた後の銀行の中」的な昔ながらの疑問も読者の方はお持ちかもしれません。そこで、本書の特色として、「素朴な疑問」から始まる構成としています。

PART0では、30の疑問をリストアップしています。なかには「Suicaにチャージした現金は払い出せるか?」といった日常生活を送る中での疑問から、「金利が上がると株価が下がる理由は?」といった株式価値の本質に迫るものもあります。読者の皆さんが普段「?」を感じながらも、多忙な生活の中で埋もれてしまった疑問を探してください。

それぞれの疑問に対しては、それを解決するためのキーワードを示しています。そのうえで、一問一答方式で疑問に答えていきます。さらに、それぞれの疑問と回答の中で興味深いものがあれば、該当するページに飛んでいただくだけで詳細な説明を得られるしくみにしています。

このようなアプローチだけではなく、より体系的に金融・ファイナンスを学んでいただくために「金融のしくみ」「投資・運用の視点」「コーポレート・ファイナンスの視点」という大きなくくりで多面的に金融に光を当てる形にしています。

個人的な資産運用に力点を置かれる方は、金融のしくみをご一読いただいたうえでお金の出し手の視点を集中的にフォーカスされてもいいと思いますし、企業で財務戦略に携わる方は、「コーポレート・ファイナンスの視点」まで一足飛びに行かれてもいいと思います。


著者プロフィール:野崎浩成(のざき・ひろなり)

東洋大学国際学部グローバル・イノベーション学科教授。1986年慶應義塾大学経済学部卒。1991年エール大学経営大学院修了。博士(政策研究、千葉商科大学)。

埼玉銀行、HSBC、シティグループ証券マネジングディレクター、千葉商科大学大学院客員教授、京都文教大学総合社会学部教授などを経て現職。米国CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。2010年日経アナリストランキング総合1位(全産業)、日経アナリストランキング1位(銀行部門、2005年から2015年まで11年連続)、インスティテューショナル・インベスター誌1位(銀行部門、2013年まで10年連続)。2015年および2020年金融審議会専門委員。

著書に『超一流アナリストの技法』(日本実業出版社)、『消える地銀 生き残る地銀』『銀行』『バーゼルⅢは日本の金融機関をどう変えるか(共著)』(以上、日本経済新聞出版)などがある。