コロナ禍による市場環境の変化もあり、新事業の展開や業態転換を模索する中小企業が増えています。そんなときに頼りになるのが補助金や助成金といった支援制度ですが、情報不足のために有効活用できていない企業も多いとか。新事業へのチャレンジを考えているなら、まずは基礎知識からおさらいしておきましょう。
※本稿は『「事業再構築」を考えたときに読む本』(中野裕哲著)を一部抜粋、再編集しています。
「チャレンジ資金」はフル活用しよう
中小企業経営において、補助金や助成金をうまく活用できているかどうかは、経営者によってバラツキがあることの1つです。
うまく活用できれば、有利に経営を進めることができます。その理由はなんといっても、融資と違い、基本的に返済不要な資金であることです。効率的に補助金・助成金を活用できたなら非常に資金繰りも楽になります。
また、何か新しいことをするにあたって、補助金や助成金を活用すれば、チャレンジすることに対する心理的・資金的なハードルを下げ、リスクを低減することも可能です。
このことを表現するなら、補助金や助成金は、中小企業にとっての「チャレンジ資金」だといえるでしょう。ぜひとも、うまく活用できるように体制を構築して、不断の努力とチャレンジでどんどん上昇していく活気ある企業へと成長させましょう。
補助金・助成金・給付金はどう違う?
補助金・助成金とひとことで言っても、その種類や目的はさまざまです。同じような言葉で混同されがちですが、補助金、助成金の他にも給付金という助成制度もあります。
これらはそれぞれ特徴が異なっています。まずは頭の中で整理しておきましょう。
1.補助金
起業促進、地域活性化、女性・若者の活躍支援、中小企業振興、技術振興などの施策を目的として、経済産業省が行う補助金。それぞれの補助金ごとの募集要件を満たしたうえで応募し、審査を通過することが必要です。
合格率(採択率という)は補助金によって異なり、数%~90%程度まで幅があります。また、同じ補助金でも、数回に分けて募集することがあり、回により採択率に変化がみられるのが特徴です。
【過去の例】
・IT導入補助金
・小規模事業者持続化補助金
・事業承継補助金
・ものづくり補助金 など
2.助成金
雇用維持、雇用促進、労働者の職業能力向上などの施策を目的として、主に厚生労働省が実施する助成金。経済産業省系の補助金とは異なり、助成金ごとの要件を満たしていれば、審査員の審査で落とされるという概念がないのが特徴です。
基本的には「雇用」に関連する助成金であるため、新たに人を雇用する計画などがあるとき、事前にチェックしておきましょう。
【過去の例】
・雇用調整助成金
・トライアル雇用奨励金
・キャリアアップ助成金 など
3.給付金
緊急的に国や自治体などが給付するお金のこと。一刻でも早くお金を給付することを最優先として設計されるため、補助金や助成金と比べて、要件も提出する書類の数や内容も極力簡素化されているのが特徴です。常にあるものではなく、例えば新型コロナウイルス感染症の感染拡大期といった有事の際に、補正予算などで緊急的に実施される施策です。
【過去の例】
・持続化給付金
・特別定額給付金
補助金・助成金を活用するときに絶対に知っておきたいこと
補助金や助成金を上手に活用したいとき、絶対に知っておきたい注意点があります。必ず押さえておきましょう。
・完全後払い
補助金・助成金は基本的には完全後払い制です。つまり、国や自治体が「はい! このお金を使ってくださいね!」といって最初にお金を渡してくれるのではないとお考えください。
そのため、手持ちキャッシュや銀行融資など、「財務」との関わりが非常に重要となります。補助金・助成金を活用するときには、会社全体の財務の話と切っても切り離せないことを認識してください。
・情報収集が大切
情報収集を怠らないこと。補助金や助成金の存在を知り、適切なタイミングで適切な手続きをしなければ、受給できないからです。関係省庁のホームページをこまめにチェックしたり、補助金・助成金に詳しい専門家に相談したりするなど、まめな行動を心がけましょう。
・準備を怠らない
さらには、迅速に行動することです。補助金や助成金は国が予算の枠内で募集するものです。機を逃さないようにすばやく準備をして、いつでも申し込める状態にしておきましょう。
・ムリに受給しない
最後に非常に重要なことを述べます。ムリに受給しようとして経営をゆがめてしまえば「本末転倒になる」という事実です。補助金・助成金がないものとして経営判断をし、たまたま要件に当てはまっているなら有効活用する──。そのくらいの感覚を持ちたいものです。
より多くの補助金・助成金を受給するためのテクニック
中小企業が経営を進めていくにあたり、国や自治体の支援をうまく活用するのはライバルに差をつけるために有効な手段です。
特に、補助金や助成金、融資など、手元キャッシュや投下資金を増やせる効果が高い施策をうまく利用し、時代の波に乗るのが必勝セオリーともいえます。1つでも多くの支援策を活用したいところです。
そこで知っておきたいのが、対象経費がカブる複数の補助金・助成金は受給できない「併給調整」の考え方です。
例えば、ある時期の社員Aさんの給料を○○補助金の対象経費として補助金を受給しようと考えたとします。ところが、同じ時期に▲▲助成金でもAさんの給料を対象とした助成金を受給していたことがわかりました。この場合、制度上、○○補助金と▲▲助成金の対象は同じ経費のため、「併給調整」の対象として認められないわけです。
この場合は、Aさんの給料を、どちらの対象経費として受給するのが有利か、事前に見極める必要があります。場合によっては○○補助金ではAさんの給料を対象経費にせず、広告費を対象経費にすれば受給できる可能性もあります。
つまり、そうした判断をすることにより、○○補助金と▲▲助成金、どちらも満額受給できる可能性が出てくるわけです。
また、補助金や助成金によっては、1社で何度も受給できる可能性もあります。例えば、2019年と2021年など、同じ会社が同じ補助金で複数回採択される可能性もあるのです。
ただ、こうした判断をするには、経済産業省系の補助金、厚生労働省系の助成金、自治体の補助金など“串刺しした情報”を持ち、全体を俯瞰した幅広い知識が必要です。
著者プロフィール
中野裕哲(なかの・ひろあき)
経営コンサルタント、起業コンサルタント®、事業再構築コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー(CFP®、一級ファイナンシャルプランニング技能士)。
V-Spiritsグループ代表(税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人・株式会社V-Spirits/V-Spirits会計コンシェル・給与コンシェル・FPマネーコンシェル株式会社、経営戦略研究所株式会社)。経済産業省認定支援機関。
経営者支援をライフワークとし、経営全般を窓口1つでまるごと支援する。「経営支援を通して、この国を挑戦者であふれる国にしたい! 日本を元気にしたい!」という理念のもと、年間約300件の経営相談・起業相談を無料で受け、多くの経営者を伴走支援している。また、北海道から沖縄まで、全国のクライアントを指導し、経営者が困ったときの経営全般の駆け込み寺の役割も果たしている。