独立して個人事業主になるときは、何をおいても収益性を確立しなければなりません。「何をやって収益の柱を立てるか」は個々人のスキルや目的によりますが、その際のポイントはある程度共通しています。そのポイントを、起業支援情報誌『アントレ』の編集者として3000人以上の個人事業主や起業家を取材してきた天田幸宏氏の著書『個人事業主1年目の強化書』からみてみましょう。

※本記事は、同書より一部を抜粋・編集したものです。

「請負派」か「独立派」でいくかを見極める

請負派は業界慣習のもと、下請けになりやすい

個人事業主にとって、「仕事の獲得方法」はとても重要です。あまり考えず、業界の慣習に従ったまま仕事をはじめてしまうと、その流れに逆らえないことも少なくありません。仕事の獲得方法は大きく2つに分けられます。1つは発注元から請け負うタイプ。もう1つは、自ら顧客を創造する独立タイプです。一概にどちらがよいというわけではなく、まず両者の「違い」を明確に理解することが大切です。

では、それぞれの特徴を紹介していきましょう。

請負派は安定して定期的に仕事を発注してくれる発注主がいれば、十分に仕事として成立します。しかし、それと引き換えになるのが、価格の決定権です。さらに、その業界に歴史があるほど、業界の慣習のもとに下請けになりやすい特徴があります。一度引き受けた価格を上げていくのは、とても難易度が高いです。そのため、請負派はスキルを高めて圧倒的な能力を売りにするか、徐々に独立派の領域を広げていく努力が必要になります。

一方、独立派は自由に価格を設定できるものの、顧客を自ら開拓しなくてはなりません。「1対5の法則」という言葉があるように、新規客の開拓は継続顧客のフォローの5倍コストがかかるといわれています。また、顧客との取引をどのように継続させていくかを自分で構築しなくてはなりません。この部分をあいまいにしたりおろそかにしたりすると、毎月のように新規客を追い求める「負のスパイラル」に陥ります。

独立派の成功パターンは「独自市場」をつくること

私の経験上、独立1年目から独立派でいくのはリスクが高いのであまりおすすめしません。そのため、請負仕事でベースをつくりつつ、少しずつ独自の領域を模索していくのがベターです。ある程度、独自領域で手応えを感じたら、徐々に比率を上げていきましょう。

切り替える見極めのポイントは、新規で獲得した顧客と継続して取引できるような仕組みが構築できるかどうかです。よほどの営業の達人でもない限り、毎月のように顧客獲得に追われるようでは、心身がもちません。

「属人性」と「収益性」のバランスを意識する

自分しかできない仕事=属人性の高い仕事

個人事業主が陥りがちな典型的な落とし穴がいくつかあります。その1つが「属人性の罠」です。本来、自分にしかできない仕事を追求するのはとてもすばらしいことです。しかし、それを追求しすぎてしまうと、収益の限界が早まってしまうことがあるのです。

とくに注意したいのが健康面です。個人事業主の場合、自分が倒れてしまったら売上は立ちません。したがって、有事を見越して準備や戦略を立てることが重要になってきます。

次に意識したいのが「時間の壁」です。仕事が忙しくなるとスケジュールが次々に埋まっていくように、やがて「稼働時間」は上限を迎えます。すると、同時に売上の上限も決まってしまうのです。残るは、睡眠時間を削るか単価を上げるかのどちらかしかありません。中でも時間単価で稼働するコンサルタントやSE、弁護士のような仕事は要注意です。

早い段階から収益事業を確保しよう

そこで、おすすめしたいのが、独立初期の段階から「収益事業」を持つことです。賃貸不動産のように定期的に家賃が支払われるような、売上が立つ仕組みがあれば最高です。ネット通販やアフィリエイトなど、ある程度自動化できると本業に影響なく取り組めます。

大事なことは、本業においてオンリーワンの存在となるのを求めつつ、有事のための保険をきちんとかけておくこと。極論すれば、寝ている間に売上が立つような商品を持つことです。
それを早い段階から意識しておくと、日々の仕事がより楽しく、永続するものとなります。

相手の言い値ではなく「メニュー表」を先出しする

「見積もり仕事」は効率がよさそうでじつは悪い

個人事業主にとって仕事が途切れないために重要なことの1つは「営業力」です。極端な話、営業力さえあれば食いっぱぐれることはまずありません。

しかし、営業経験がなく独立した人にとっては深刻な問題でもあります。じつは、私もその1人でした。そこで以前、私のように営業経験が乏しいまま独立した方にインタビューをしてみてわかったことがあります。彼らの最大の悩みは「その仕事をいくらで請けるか」を顧客に明示することでした。つまり、仕事の内容や顧客の要望を踏まえたうえでの「提案書の作成」や「値決め」が最大のハードルだったのです。

そんな悩みを一瞬で解決する方法があります。「メニュー表」をつくってしまえばよいのです。メニュー表のメリットは「価格の主導権」を握れることです。また、顧客ごとに提案書をつくる必要もないため仕事の効率が上がります。

売れっ子ライターは名刺裏にメニュー表

かつて、付き合いのあるライターの名刺を見て唸ったことがあります。その名刺の裏には、「書籍1冊80万円〜」と記載されていたのです。とても多忙を極める方でしたので、「なるほど!」と納得した記憶があります。

Web集客の専門家・高橋真樹さんは、シンプルなメニュー表1枚で十分仕事ができると教えてくれました。メニュー表はホームページにも掲載されているので、それを見た見込み客は、まるでレストランのようにメニューから選んでくれるというのです。

最重要なのは「継続的に儲かる」こと

ここまでポイントを3つほど紹介してきましたが、個人事業主として独立するうえで大事なことは他にもあります。たとえば、下請け仕事の割合が高すぎると自主性を失ってしまいますし、取引先を開拓せず1社専属のようになってしまうと、精神的に追い詰められます。

個人事業主にとって一番大事なのは「継続的に儲かる仕組みをつくること」です。ちょっとやそっとじゃ倒れない、もし倒れてもすぐに立ち直れるようにすることが、なによりも大切なのです。


天田幸宏(あまだ・ゆきひろ)

一般社団法人ひとり起業ファーム協会 代表理事。NPO法人インディペンデント・コントラクター協会 理事。コンセプトワークス株式会社代表取締役。1973年生まれ。リクルート(現アントレ)発行の起業支援情報誌『アントレ』の編集者として、18年間でのべ3000人以上の個人事業主や起業家およびその予備軍を見てきた体感値から成功パターンを法則化する。個人的にも起業支援に取り組むなかで、個人事業主や起業家の書籍出版をサポートし、これまで70人以上をプロデュースした実績を持つ。

2012年より経営コンサルタント藤屋伸二氏に師事し、ドラッカー理論をベースとした「ニッチ戦略」を学ぶ。2017年「藤屋式ニッチ戦略塾」銀座塾を開塾。経営者や個人事業主、起業家予備軍を対象に強みの発掘からペルソナ設定、ニッチ市場の特定、継続的に儲かる仕組み化を推進。 2020年には一般社団法人「ひとり起業ファーム協会」を設立。大企業の早期退職者のセカンドキャリアサポートを中心に取り組んでいる。著書に『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』(日本実業出版社)がある。