※本稿は『令和改訂版 フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。』をもとに一部抜粋・再編集しています。
なぜ、領収書が必要なのか?
日常的に現金がとびかう現金商売の個人商店ならともかく、私らイラストレーターやライター、カメラマンなど個人事業主にとっては「記帳=日々の経費を記録すること」がメインとなってくるでしょう。
入金は銀行口座にポンと振り込まれるのが常なだけに、月1回それを書き写しちゃえば、それですんじゃいますからね。だから、フリーランスが記帳だなんだいっても、結局それは「領収書を管理する」に尽きるんですよ、ほとんどの場合はね。それで、この記帳が最終的には所得を求めるために必要になってきます。
所得は「売上ー経費」で出てきます。売上は銀行口座にあった入金を集計すればいいから、そんなに記帳的には手間じゃない。……とすると、所得を求めるためには「経費」が集計できればよいとなる。そこで、領収書の出番となるわけです。
領収書は額面15%の金券なのだ
この「経費」ってやつは、キチンと「何を何のために購入した」って証明できなきゃいけないので、必然的に領収書をかき集めることで積み上げていくようになる。そ、領収書というのは経費のもと。それをせっせかためこんで、「売上ー経費」の式で「経費」部分をふくらませれば、必然的に所得が低くなってめでたく税金も安くなる……と。
そう考えるとですね、領収書ってのは政府からキャッシュバックしてもらえる金券みたいなものなんですよ。たとえば、課税所得が190万円の人なら、1万円分経費を上乗せできると課税所得は189万円。これって、課税対象額が1万円下がるということを意味します。
この場合、所得税と住民税とを合算した税率は15%になりますから、28万5000円だった税金は28万3500円になり、その差額の1500円は「払わなくてすんだ、ラッキー」ということになります。
同様に、2万円分の経費を乗せれば税金は3000円浮き、10万円なら1万5000円も浮くことになる。もちろん、それに応じて国保の掛け金なんかも低くなるので、実質はもっと還元されます。つまり領収書ってのは、最低でも額面の15%が還元してもらえるありがたい金券ってことになるのです。
領収書はどうやって保管する?
領収書の管理法というのは、ぶっちゃけ特に決まりはありません。基本的には、帳簿から逆引きできるようになっていればよしなので、まぁ「月単位で封筒にごそっと放り込んでおく」とか、「日付順でノートに貼り付けていく」とか、そのあたりはご自由に。
細やかな整理を得意技にしてる人なんかだと、「用途別&月別で分類」したりなんかするとスペシャルパーフェクト……かもしれません。
ちなみに私の場合だと、そんなに細やかなことをする神経は持ち合わせていませんので、月別でベタベタとA4コピー用紙に糊付けしていくようにしています。んで、二つ穴空けパンチでコピー用紙に穴を開けて、キングファイルにファイリング。これだと領収書がどんだけ増えようが、コピー用紙を増量すればそれですむ話なので、とにかくペタペタ貼っていけば整理できちゃうところがお気に入りです。
税理士センセイに聞いてみた!
ただね、たかが領収書とはいえ、いざ税務署へ申告となると迷うことも出てきます。それで、税理士センセイにあれこれ聞いてみました。
Q(きたみ、以下同) 領収書によくある「上様」って宛名書きはまずいんですか? あ、あと、品名も。これもどこまで厳密に書いとかないとまずいものなんでしょ? たとえば、本ならきっちり書籍の名称まで書くべき? それとも書籍代ってくくっちゃっていいもの?
「よそからもらってきただろうとか詮索されたりしますから、本来は『上様』は避けたいところですね。ただ、結局は程度問題ですよ。やたらと高額な経費を積んだりしてなきゃ、まぁ問題にはならんでしょう。品名も程度問題。百科事典みたいによほど高価な品でもない限りは、書籍代とか本代でくくっちゃって問題ありません」
Q じゃあセンセー、領収書がない場合はどうすりゃいいんでしょうか?
「ああ、基本的には伝票処理ですね。伝票処理というのは、いついつ、いくらいくらを、どこで、なんのために払いましたよ〜という出金伝票をきっておくことです」
Q 出金伝票自体は100円ショップとかに行けば、それ用のがわんさと売ってますけど、それってつまりは好き勝手に書けちゃうってことですよね? そんなんで信用できるんですか?
「信用できなきゃ、税務署の人が相手の店へ確認しに行くだけですよ。ウラはとろうと思えばとれるもんです。もちろん、伝票処理すればいいといっても、それはあくまでも例外処理的なもの。領収書の類(たぐい)が一切なくても全部伝票処理すればよいわけじゃないので、お間違えなきように。まぁ、『領収書なけりゃ全部ダメ! 認めらんない!』と言うほど、血も涙もないわけじゃないってことですね。ただ、100円や200円の消しゴムとかならともかく、ウン万円する万年筆とか、そんなものはやっぱり領収書がないとキビシイですからね」
Q 「領収書のないもの」といえば、「もらい忘れた」とか「なくしました」だけじゃなくて、そもそも「領収書なんか有り得ない」ものがありますよね。交通費とか。これも出金伝票ってことになるんですか?
「交通費だと、たとえば、毎回の履歴は一覧表形式で残しておいて、伝票処理自体は月単位で合計額を処理するとかするとよいでしょうね」
Q り、履歴! めんどくさい……。JR東日本のSuicaでチャージしたときの領収書とか、あとは、バスにせよ地下鉄にせよプリペイドカードを1枚購入して、その購入費で管理するようにしてるんですけど、それじゃダメですか?
「そういうのはね、どことどこの間で使った電車代とかわかんないでしょ? それだとその交通費が仕事用か否かがはっきりしないんで本当はダメなんですよ。でも、金額は年にどれくらい? 1万とか2万? ……う〜ん、それくらいなら、まぁ問題にはならないかなぁ。でも、今ドキのクラウド会計サービスとかは、モバイルSuicaの履歴を拾ってきて月ごとにまとめた交通費精算伝票を出してくれたりするみたいだから、そういうのを活用したほうがいいでしょうね」
Q あっ、領収書がないといえば、冠婚葬祭時のご祝儀とかお香典もありますね。ちょっと想像しただけでも「領収書くれ」なんて有り得ないことはわかりますけど……
「それも忘れないうちに伝票処理をしておくのです。できれば、招待状とか、何か行ったことが証明できるようなものをとっておくとパーフェクトですね」
Q わかりました! 引出物とかとっとけばいいんですね!」
「いや、それはかさばりすぎるから」
著者プロフィール:きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマー。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわら自身のサイト上で連載していた4コマ漫画をきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。著書に『令和改訂版 フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。』(日本実業出版社)、『フリーランスはじめてみましたが…』(技術評論社)、『新卒はツラいよ!』(幻冬舎)など多数。