※本稿は『令和改訂版 フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。』をもとに一部抜粋・再編集しています。
そもそも税金ってなんぞや?
いきなりですけど、税金って「安くすめばそれでいいことずくめ……」ってわけじゃないんですよ。みなさん、知ってました?
払うもんが少なくすむわけだから、安きゃ安いほどいいはず。ノータックスヘブン万歳アイラブマネーベリマッチアイシンクソー。少なくとも、ボクはそんなふうに思っていました。ある税理士センセイと出会うまでは。
しがないフリーランスとしては「そもそも税金ってなんぞや?」と、アタマの中は疑問符だらけ。だけど、したり顔の税理士センセイの話を聞くうち、目からウロコがぽろぽろと。少〜しだけ税金のことがわかってくると、マジメに向き合おうという気持ちにもなるもの。苦手な確定申告や節税のことなんかにも、がぜん興味がわいてきました。
もしも、事故にあったなら……?
ただね、しょっぱなからガツンとやられましたよ。思い返しても冷や汗ものなんですが、その税理士センセイの話をちょっとだけお聞かせしましょう。
あるところに、キタミというフリーランスのだらけた若者がおりました。キタミくんはでたらめな仕事で1千万円を荒稼ぎして、さらに経費もガンガン水増しして、毎年所得が0円になるよう申告していました。
所得が0円なので当然税金も0円です。奇跡的に税務署の調査が入るようなこともなく、浮いた税金分を使って彼は毎晩ビールを……それも発泡酒ではなくエビスビールを飲んで、幸せにすごしていたのでした。
そんなある日のこと、彼は事故をやってしまいます。もっとも悪いのは100%相手のほうなので、キタミくんは一方的に補償を受けるだけの話です。ただ、けっこうなケガをしてしまったので、彼はしばらく入院しなきゃいけないことになりました。
病院暮らしは退屈です。ですが、考えようによっては休息するいい機会かとポジティブシンキング全開にして、休業補償でももらいながらのんびり病院暮らしを満喫してればいいや、と考えておりました。……ところが。
フリーランスが抱える未来のリスク
ボクの無知を見透かすみたいに、税理士センセイの話はこんなふうに続きます。
いくら売上が1千万円あろうとも、所得は0円なわけだからアナタの稼ぎも0円なわけ。つまり休業したって損失出ないんだから、補償すべきお金もありません……。そういやローンも組めませんねぇ。収入のない人は普通に考えりゃ返すアテもない人なんだから、そりゃ貸してくれるわけがないですよね。即金で買えばいい話なんだけど、なかなか住宅とかだとそうもいかないでしょう。
え……? ええええええええええ!! ほんとに? イヤあああああああ……。
つまりはそういうことなんですよ。税金ってのは所得があるから払うもの。逆の見方をすれば、税金を払ってるってことは、それだけの所得がある証明だってことにもなるんです。
さらに、会社という後ろ盾のないフリーランスには、そうした「税金を払ったことによる証明」というのが、信用をつちかうために残された数少ない手段のひとつである……と、税理士センセイはおっしゃいました。
確定申告書って、フリーランスの人にとってはサラリーマンの源泉徴収票みたいなものなんですよ。所得を証明するためには欠かせない書類で、その証明のために所得なりの税金を納めている必要があるんです。
なるほど。だから税金は「安けりゃいいって話じゃない」となるわけか。ボクはフリーランスで生きていながら、つくづく青いと思い知らされたのでした。
著者プロフィール:きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマー。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわら自身のサイト上で連載していた4コマ漫画をきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。著書に『令和改訂版 フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。』(日本実業出版社)、『フリーランスはじめてみましたが…』(技術評論社)、『新卒はツラいよ!』(幻冬舎)など多数。