一方で、諸外国のなかでも日本の有給休暇取得率は低く、比較対象となっている19か国の中で3年連続最下位となっています。しかも、その取得率は他国と比べて群を抜いて低く、2018年で比較すると、日本が50%なのに対して、下から2番目に低いオーストラリアでさえ70%の取得率です。対照的に、西欧諸国ではイタリアを除いては軒並み90%を超えており、フランス・スペイン・ドイツでは100%の取得率となっています。

つまり、日本は、もともとの年次有給休暇付与日数が少ないにもかかわらず、その少ない年次有給休暇でさえもきちんと消化しきれていないのです。その結果、実際に取得できる日数は他国と比べてもさらに少なく、ブラジル・フランス・スペイン・ドイツといった国と比べると、その日数は3分の1程度しかありません。

同調査によれば、有給休暇消化率の低さの背景として、日本人の58%が「年次有給休暇の取得に罪悪感がある」と回答しており、これは世界でもっとも多い割合となっています。他国でも、有給休暇を取得していない国ほど罪悪感を感じている傾向にあるようです。

有給休暇を取得しない理由として、日本では「人手不足」を挙げた人がもっとも多く、このことから「人手不足だから自分も働かなければならず、休むことに罪悪感を感じる」という心理が働いていると考えるのが自然です。

有給休暇の「買取り」は悪なのか

日本の労働法の下では当たり前とされている有給休暇のルールも、世界へ目を向けると、そうではないことが往々にしてあります。たとえば、有給休暇の「買取り」についてです。

いまの日本では、有給休暇の買取りは原則として禁止されています。これは、有給休暇の趣旨があくまで「現実の休暇の取得」であり、金銭による補償を行ったとしても有給休暇を与えたとみなすことはできないと考えられているからです。

これに対して、有給休暇をお金に換える制度を用意している国もあります。

たとえば、中国などでは労働者が年次有給休暇を消化しきれなかった場合、使用者は労働者に対して、未消化日数に応じて金銭を支払わないといけません。有給休暇の未消化分を企業に強制的に買い取ることを義務づけることにより、企業に積極的に労働者への有給取得を働きかける仕組みを構築しているのです。

たしかに、日本においても、退職時など例外的な場面で有給休暇の買取りは認められています。しかしながら、日本では、買い取るかどうかは会社の判断によることになります。労働者から買取りの請求があったとしても、拒否することが可能です。

もともと、有給休暇の買取りを禁止した意図は、労働者が現実に休暇を取得できるようにする点にありました。しかしながら、いまの日本における有給取得率の低さをみる限り、現実はそううまくはいっていません。

先にみたように、有給休暇の取得に対する罪悪感から大半の日本人は、未消化の有給休暇を抱えることになります。その一方で、企業が未消化の有給休暇を買い取る義務がないとなれば、結果的に未消化分の有給休暇は膨み、その多くはいずれ消滅していきます。

すなわち、労働者を保護するために定められていたはずの有給休暇の買取り禁止ルールが、実は労働者に有利に働いておらず、企業の利益にしかなっていないという皮肉な現実が浮き彫りになっています。現在の日本の状況を踏まえて、有給休暇の買取り制度を根本から見直す必要がありそうです。

「休むことが当然」という世の中へ

これまで日本における有給休暇の取得は、労働者個人の自由でした。極端にいえば、労働者本人が申し出なければ、1日も取得させなくとも違法ではありませんでした。しかし、有給休暇の「取得義務化」により、その状況も変わりつつあります。

今後は、休暇の取得率についてより一層関心が高まり、企業にとっても労働者にとっても、「休むことが当然」の世の中に変化していくはずです。そのためには、それぞれの労働者の意思に任せるだけではなく、企業が積極的に有給休暇の残日数や取得率を管理していく必要があります。

また、労働者が気兼ねなく休暇を取得できるよう、適切な人員配置をしたり、業務量などの見直しを行っていくことも、重視すべき課題といえるでしょう。


著者プロフィール:樋口 陽亮(ひぐち ようすけ)

東京都出身。学習院大学法学部法学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。2016年弁護士登録。第一東京弁護士会。杜若経営法律事務所所属。経営法曹会議会員。企業の人事労務関係を専門分野とし、個々の企業に合わせ専門的かつ実務に即したアドバイスを提供する。これまで解雇訴訟やハラスメント訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件など、多数の労働事件について使用者側の代理人弁護士として対応。人事労務担当者・社会保険労務士向けの研修会やセミナー等も開催する。