給休暇の取得率が世界的にみてきわめて低い日本。それを改善すべく、政府は「働き方改革」の一環として、企業における年次有給休暇の取得を義務化しました(改正労働基準法)。一方、在宅勤務の導入が進んだことで「休みが取りづらくなった」と感じる人も……。国を挙げての取り組みは、はたしてワーク・ライフ・バランスの実現につながるのでしょうか。日本の休暇制度の成り立ちを振り返りつつ、あらためて、働く人の権利と休むことの意義について考えてみましょう。
 
※本稿は『教養としての「労働法」入門(向井 蘭・編著、樋口 陽亮ほか著)をもとに再編集しています。

「有給休暇」とはどんな制度か

「有給休暇」という言葉は誰もが耳にしたことがあると思いますが、本題に入る前にまず、この制度がどういったものかを簡単におさらいしておきましょう。

有給休暇とは、広い意味では、労働者が取得する休暇日、つまり会社を休むことができる日のうち、賃金が支払われる「有給」の日全般をいいます。企業によっては、慶弔休暇や夏季休暇などを有給としているところもあり、こういった休暇も広い意味で有給休暇です。みなさんが思い浮かべる有給休暇とは、このうち「年次有給休暇」のことを指すことが多いと思いますが、これからお話しするのも、年次有給休暇についてです。

年次有給休暇は、法律で定められた正式な休暇であり、事業主は従業員に対して規定の有給休暇を付与することが義務づけられています。

具体的には、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務したなかの全労働日のうち、8割以上出勤した従業員に対しては、年10日分の休暇を与えなくてはなりません(労働基準法第39条第1項)。また、この休暇の付与日数については、20日を上限として、継続勤務年数が増えることに応じて増加していきます(同条第2項)。

さらに、2019年4月からは、年10日以上の年次有給休暇を付与されている労働者に対し、最低5日は取得させることが企業(使用者)に義務づけられました(改正労働基準法)。取得日数が年5日を下回る労働者に対しては、企業側が聞き取りを行ったうえで、不足日数分の取得日を指定しなければなりません。これを順守しない場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

なぜ、休暇取得を制度化したのか

現在、多くの企業の労働時間は「1日8時間、週 40時間、週休2日」が規準となっていますが、実はこれには意味があります。すなわち、8時間労働には1日24時間を三分割し、それぞれの時間を労働・休息・家庭にあてるため、週休2日制には1日を休息に1日を社会的文化的生活の保障にあてるという目的があるのです。

では、年次有給休暇には、どのような目的があるのでしょうか。

1年の労働に対して与えられる休暇の意味合いについて、九州大学の野田進教授は著書『「休暇」労働法の研究』(日本評論社)の中で、「労働者がある程度の長期にわたり労働から離れることにより、精神的・身体的に休養し、あるいは広い意味で何らかの文化的な活動への参加を保障すること、これが年次有給休暇の目的にほかならない。」と述べています。

つまり、有給休暇は本来、長期間の労働からの解放を前提として、心身を休養し、または文化的活動にあてるための休暇なのです。このようにみていくと、休息という広い意味では1日の労働時間の制限や週の休日、年次有給休暇も同じように思われますが、それぞれに異なる意義があることがわかります。

「罪悪感」が休暇取得を妨げている?

有給休暇付与日数は各国によって異なりますが、エクスペディアジャパンの「有給休暇・国際比較調査2018」によれば、欧州では「1年間で4週間程度」の付与が一般的であるのに対して、日本は「20日が付与の上限」で、付与日数だけをみても諸外国より少ないことがわかります。しかも、西欧諸国では、法律上の日数を超えた休暇が労働協約等によってプラスされていることが多いので、実際の付与日数の差はもっと大きいといえます。