(photo by acworks/photoAC)
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鬼の上司は失敗から学ぶことを教えてくれた

上司のAさんは、出会った当時、端的にいうと“鬼“の上司でした。当然、コンサルティングについても彼の基準とするレベルまでに達していないと厳しく叱責されます。オーバーではなく、彼の主催する勉強会は恐怖でした。

彼は「怠けること」「成果を意識していない行動」に対しては、とても厳しかったと記憶しています。

その一方で、部下が考えやり切ったうえでの失敗には寛容で、失敗からの学びを次に生かし、再挑戦するチャンスをくれる“仏”の部分も持ち合わせている人でした。私の最初の新規事業立ち上げの失敗の際も、切り捨てられてもおかしくない状況でしたが、そこでさらに大きな仕事を任せてくれたことで、私は大きく成長することができました。

在職中はAさんの“鬼”の部分にばかり目がいっていましたが、“仏”の要素と“鬼”の要素、両方を持ち合わせた、理想の上司だったのかもしれません。

今から思えば、私はAさんが理想とする方向に動かされていたように思います。目標達成のためには、上司や同僚に、自分が進めようとしている方向に共に動いてもらう必要があります。私が彼の下で働いていて、一番学んだことは、“人を動かす”ことの重要性です。

目標達成のためには“自分を変えて”、人を動かすことが仕事の本質

仕事というと、目の前のことをこなすことに意識を集中してしまいがちですが、それは作業であって仕事ではありません。

仕事とはなにかしらの目標達成をすることであって、そのためには人を動かし、協力してもらわないといけないんですよね。そして、それが一番難しい。

人を動かすために、その人自体を変えようとする人がいるのですが、大体は徒労に終わります。人を変えるのではなくて、一緒に仕事をする上での仕組みを変えたり、自分からその人の価値観や目指していることに訴えかけないと意味がありません。自分の思う通りに上司や部下、同僚を変えようとしても、絶対に変わることはないでしょう。

では、どうすればいいのか。

単純に一番簡単なのは、自分を変えることです。

たとえば、Aさんは自分が悪いと思えば、部下の私たちに「頭を下げる」ということをいとわない人でした。時には感情的になって怒ることもありましたが、私たちを無理に説き伏せようとはせず、しっかりと私たちの話を聞き、行動してくれた。だから「この人のためなら頑張れる」と自然と思い、動くことができました。

そういう意味ではAさんは人を動かす名人だったのです。

もしかしたら、“人を動かす”というと、少し傲慢にも聞こえるかもしれませんが、気持ちよく一緒に目標を達成するには必要なことであり、かつ仕事の本質だと思います。これは人間関係でも夫婦関係でも同じ。でもそれに気づくことは意外と難しいのかもしれません。

自分を変えるには、行動できる人になることが大切です。そうやって自分から働きかけられる人になると、きっと今後キャリアを積み、仕事を進めるにあたり、きっと大きな助けになります。とくに新入社員の方や若手の社員の方は、ぜひ早いうちに意識し始めてほしいと思っています。

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新卒一括採用や、年功序列という職場における制度が徐々に崩れ始めている今、かつてのような上司と部下のつながりは薄れつつあるのかもしれません。しかし理想の姿として、時には反面教師として上司から学べることは必ずあります。

次回は、「仕事の理想と現実のギャップに悩む新入社員に上司が教えてくれたこと」です。

(10月27日(木)公開予定)


プロフィール
安達裕哉(あだち ゆうや)

経営・人事・ITコンサルタント。ティネクト株式会社代表取締役。
1975年東京都生まれ。筑波大学環境科学研究科修了。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間経営コンサルティングに従事。在職中、社内ベンチャーであるトーマツイノベーション株式会社の立ち上げに参画。東京支社長、大阪支社長を歴任。1000社以上の大企業、中小企業にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供し、8000人以上のビジネスパーソンに会う。また、セミナーは、のべ500回以上行う。その後、起業。自身の運営するブログBooks&Appsは読者100万人、月間PV数150万にのぼり、世界最大級のインターネット新聞「ハフィントン・ポスト」のブロガーでもある。主な著書、『「仕事ができるやつ」になる最短の道』(日本実業出版社)

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