アナウンサー・渡辺由佳が解説「こんなときどう言う?」

「私の言うことって、どうしてうまく伝わらないのだろう」
「あのとき言ったことで、なぜムッとされたのだろう」
言葉は、自分が思っていた通りに受け取られないもの。「それを適切に言い換えるとすれば?」というテーマで好評を博したコラムがリニューアル!

職場に限らず、日常会話でもよくある「こんなときどう言えばいい?」という疑問の答えを、テレビ朝日を退社後、フリーアナウンサーや話し方講座の講師として活躍する渡辺由佳氏が解説します!
(毎月第2・4水曜日更新予定)

著者プロフィール

渡辺由佳(わたなべ・ゆか)

1964年、東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。テレビ朝日にアナウンサーとして入社。報道から社会情報番組まで多数の人気番組を担当。1993年に独立。以後、フリーアナウンサー、話し方講師としての活動を始め、テレビ朝日アナウンサースクールやシェリロゼ(自分磨きスクール)で指導を行なうほか、「ビジネスマナー」「コミュニケーション」「ビジネスメール」をテーマに企業向けのセミナー講師も務める。2016年より大妻女子大学文学部非常勤講師を務める。

著書に、『会話力の基本』(日本実業出版社)、『スラスラ話せる敬語入門』『サクサク書けるビジネスメール入門』(以上、かんき出版)、『気の利いた「ひと言」辞典』(講談社)などがある。

ブログ:渡辺由佳の素敵なことば探し
http://ameblo.jp/sutekinakotoba/

「丁寧すぎる言い方」ではなぜ伝わらないのか

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2020/05/27 11:04

(photo by benevolente/Adobe stock)

この2か月あまり、新型コロナウイルス感染症対策に関する政治家や専門家の話をテレビで聞いていて、伝えたいメッセージがガツンと伝わって来るケースと、そうでないケースがあると感じていました。今回は、いったいどこに違いがあるのか考えてみます。

たとえば、ある感染症の専門家が発した「命にかかわることですので、できるかぎり外出はお控えいただきたいと思います」というコメント。これ以外にも専門家としての見地からみた説明がいろいろありましたが、この部分こそが、その日の中で一番視聴者に伝えたかった内容のはずです。

それにも関わらず、もうひとつインパクトに欠ける言葉に感じてしまうのは「~いただきたいと思います」という語尾が言葉の威力を削いでしまっているからです。

一方、別の専門家は「命に関わることです。外出はできる限りお控えください」と言い切っていました。言っている内容は先の専門家とまったく同じなのですが、言い切るだけで危機感がより強く伝わりました。

また、数週間前の知事の会見でも「(緊急事態宣言が)この5月31日までと延長されたわけですけれども、この1か月というのは未来へとつながる、そんな一月としたいと思っておりますので、改めてよろしくお願いを申し上げたいと存じます」というフレーズがありました(ただ、その後の5/26になって、全国的に緊急事態宣言が解除されました)。

こちらも「……未来へとつながるそんな1か月としたい。どうかよろしくお願いいたします」というシンプルなコメントにしたほうが、聞き手の心にストレートに届いたでしょう。

外出自粛については「法的な問題もあるので強制できない」といった事情もあるので、このような丁寧すぎる言い方にせざるを得なかったのかもしれません。

しかし、語尾に謙譲語や「~と思います」といった表現をつければつけるほど、本来伝えたかったことのメッセージ性は弱まり、ぼやけたものになってしまいます。

ビジネスシーンでもこのような語尾で話す人をよくみかけます。次の2つの言い方を比べてみてください。

  1. お店ですれちがうとき、『いらっしゃいませ』と笑顔で挨拶をされたら、多くのお客様にこの店は感じがいいから、また来たいと感じていただけると思います。笑顔は接客の基本だと思います。
  2. お店ですれちがうとき、『いらっしゃいませ』と笑顔で挨拶をされたら、多くのお客様がこの店は感じがいいからまた来たいと感じます。笑顔は接客の基本です。

それぞれの文章の語尾を比べてみると、2のメッセージの方が聞き手の心にすっと入ってきます。逆に、1のような語尾だと「話し手に自信がないから、このように曖昧な表現を使っている」という印象を与えてしまい、説得力に欠けてしまいます。

相手に強く伝えたいメッセージを発するときは、語尾に謙譲語を過剰に使ったり、「~と思います」といった表現を使いすぎていないか確認してみてください。そこに気を付けるだけで、相手の心にしっかり届く話し方に変えることができます。

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