頑丈で使いやすく、それでいてスタイリッシュなイメージがある「PORTER」ブランドのカバン。たくさんのユーザーを街で見かけることができます。

その製造元である“吉田カバン”という会社の「ヒト」と「仕事」について、経営者自身が語った書籍が『吉田基準─価値を高め続ける吉田カバンの仕事術』です。

ここでは、本書の担当編集者が、そのエッセンスを紹介します。
(文:日本実業出版社編集部)


 
 「基準」というと、昨今、建築基準であるとか規制であるとかを連想される方も多いと思いますが、これは「吉田カバン」というカバンメーカーの、企業としての「仕事」の進め方や考え方が記された本です。

職人さんが手作りする「真正のメイドインジャパン」

吉田カバン、正式社名は株式会社吉田といいます。

「PORTER」(ポーター)、「LUGGAGE LABEL」(ラゲッジ レーベル)などのブランド名のほうがよく知られているかもしれません。若々しいイメージ、男性向けのイメージがありますが、実際には老若男女問わず、人気です。持っている人を街なかや電車の中などでよく見かけますし、よく知られている吉田カバンの商品ですが、実はすべて「メイドインジャパン」であることをご存じでしょうか。

アパレル業界では、最終的に縫製を行なった場所を「生産国」にすることができますが、同社の場合、すべての工程を国内で行なっています。いわば真性のメイドインジャパンといえます。

PORTER/TANKER 622-09308
PORTER/TANKER 622-09308

もう一つ、大きな特徴が、自社内でカバンを製造するのではなく、長いおつきあいのある外部の職人さん(同社では必ず「職人さん」と敬意を表して“さん”づけする)と工房に委託し、商品はすべて手作業で生み出されていることです。新しい製品は、社内のデザイナーの方と外部の職人さんの「二人三脚」で開発されています。

創業80年を迎えた同社は、ずっとそのような形で仕事を続け、堅実な成長を遂げてきました。創業者である故・吉田吉蔵氏の創業の志と、ものづくりにかけた矜持が、その姿勢の原点です。手作業でつくるメイドインジャパンのカバンは現在年間180万本を出荷、増収増益を続けています。超優良企業と言って差し支えないでしょう。

「吉田基準」という言葉が象徴する、ものづくりの理想形

その吉蔵氏の次男で三代目社長にあたる吉田輝幸氏が、吉田カバンのものづくりと経営哲学、創業者の志を語ってくださいました。外部の腕利きの職人さんや、デザイナー、さらに晩年の吉蔵氏からカバンの手縫いの真髄を学んだ、輝幸氏のお姉さん・野谷久仁子さんの声も、収めています。

タイトルにある「吉田基準」とは、吉田カバンの社内で使われている言葉ではありません。外部の職人さんたちの間で、同社のものづくりに関する要求水準の高さを指して、誰ともなく使い始めた言葉だそうです。

本書には、同社と外部の職人さんたちが手を携えて取り組む、ものづくりの1つの「理想形」が描かれています。高い要求水準をもつデザイナーと、それに応える職人さんのワザと心意気。「吉田基準」とは、それを象徴する言葉だと思います。

同時に本書では、そうした、究極のプロダクトアウトを軸にした、「広告を打たない」「値引きはしない」「修理は必ずつくった職人さんに任せる」といった、独自性ある同社の仕事の進め方も、あきらかになっていきます。


 吉田カバンの「モノ」については、当然ながらファッションやモノ系の雑誌・ムックなどでよく紹介されますが、「ヒト」と「仕事」については、これまで、それほど語られることはありませんでした。

ものづくりに携わる人はもちろん、すべてのビジネスリーダー、ビジネスパーソンに、もちろん、ポーターやラゲッジレーベルなど吉田カバンのファンの方にもぜひ手に取っていただきたい1冊です。読めばきっと、もっと吉田カバンのことが好きになると思います。