子育てに悩みは尽きません。子どもに対して、些細なことで怒ってしまったり、心配事が多く過干渉になってしまったり。良くないと思いながらもやってしまい反省することは誰にでもあります。そんなお母さんたちに向けて、精神科医のさわ先生が、診察で集めた子どもの本音をまとめた『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』を上梓しました。今回は、その中から「はじめに」を紹介します。

子育ての悩みは十人十色

子どもが失敗しないように、常に子どもの前を歩いてしまう過保護なお母さん。子育てに自信が持てず、子どもにどう接したらいいかわからずオドオドしてしまう心配性のお母さん。いつまでも子どもを信じることができずに、横から口を出してしまう過干渉なお母さん。不安だけど、だれにも相談することができずに、孤独に子育てをしているお母さん。子どもがかわいいと思えずに、どう接したらいいかわからないお母さん……。

私はふだん、5歳以上の子どもから大人までを対象とした児童精神科・心療内科のクリ ニックの院長をしています。クリニックに来られるすべてのお母さんに共通するのは、「子どものことを必死で考えているお母さん」であるということ。

あなたも、「子どものために」と必死にがんばってこられたと思います。 しかし、その関わり方がじつは親子関係を悪化させていたり、子どもの自信を失わせてしまったり、自立を遠ざけてしまっていることがあるのです。「子どものために」としていることで、知らず知らずのうちに親子関係が悪化していっているとしたら、そんな悲しいことはありません。 少しずつ積み重なった子どもへのまちがった関わり方によって、「生きている意味がない」「消えてしまいたい」とまで思う子どもたちが増加しています。

子育ての不安は 「知って、気づく」ことでなくなる

もしも今、あなたが子育てが大変、つらいと感じていながらも、子どもと幸せにすごしたいと願うのであれば、勇気を出して最後まで読んでほしいのです。

なぜなら、この本は「子どもの心の声がわかる本」だから。お母さんたちに、「子どもって、こんなふうに思っているんですよ」ということが伝わることで、子どもとの関わり方が変わっていって、結果的に安心して子育てができるようになっていけるのです。

こういうことを話すと、「育て方をまちがってしまった」「もう取り返しがつかない」と、自分を責めるお母さんたちもいます。 しかし、この本に書いてあることを「知って、気づく」ということがポイントなのです。 人は、知らないと不安になります。なんでも知って、気づくことで適切な対処法がわかるのです。

そして、もっと親が子どもに対して「どんなあなたでも大丈夫」という安心感を持てたら、「生きづらさ」を抱える子どもは減っていくと私は考えています。

不登校児を育てる1人の母として感じたこと

このようなことを書いていますが、じつは私も子育てに悩む母親の1人でもありまし た。

私は子どもの心をみる医師であると同時に、 10歳と8歳の子どもを1人で育てています。しかも、長女は「発達障害」で「不登校」です。 まだまだ未熟な母親でもあり、正直、こんな私に本を書く資格があるのか悩みました。 ただ、こんな私だからこそ、机上の話のような子育て論でないものが書けると思い筆をとりました。恥ずかしい話もたくさん書いています。

私は、自分自身の子育てを通して感じたことがあります。 それは、「子どものことで必要以上に不安になるのはやめよう。子どもは、親に心配してもらいたいんじゃない。お母さんには、笑顔で幸せでいてほしいものなんだ」ということです。

子どものことで悩んだときに、「どこまでが親であるあなたの問題で、どこからが子ど もの問題なのか?」という視点で考えてみてください。「私の問題だ」と気づくこともあるでしょう。まず、そこを見極めることがとても大切です。

どこまでがお母さんの不安で、どこからが子どもの悩みや問題なのか、もしくは問題ではないのか。そういうことを常に客観的な視点で親子に問い続け、必要であれば治療介入をしていく。それが、児童精神科医としての私の役目なのです。

完ぺきでなくていい。
ときには不安になってもいい。

この本が、そうやって子どもも親も不完全さを受け入れて、親子がおだやかに生活する ことの助けになることを願っています。この本を読み終わったときに、あなたの心が少しでも軽くなりますように。

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精神科医さわ (せいしんかい さわ) 児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。 1984年三重県生まれ。開業医の家庭に生まれ、薬剤師の母親の英才教育のもと、医学部を目指す。偏差値のピークは小学4年生。中高時代は南山中学校高校女子部で落ちこぼれ、1浪の末に医学部へ。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。母としては楽しみにしていた子育てだったが、発達特性のある子どもの育児に身も心も追いつめられ離婚し、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。老若男女、さまざまな年代の患者さんが訪れる。クリニックを受診した患者さんのお母さんたちからは、「悩みが解決し、まず自分が安心すればいいんだと思いはじめてから、おだやかにすごせるようになった」「同じ母親である先生の言葉がとても心強く、日々のSNS発信にも救われている」と言われている。「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と診察室で涙を流す患者さんも。開業直後から予約が殺到し、現在も毎月約400人の親子の診察を行っている。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。2023年11月医療法人霜月之会理事長となる。 塩釜口こころクリニック https://shiogamakokoro.com