1990年8月以来となる、33年ぶりの高値で引けた5/19の東京株式市場。「これだけ騰がるならレバ型ETFでも買っておけばよかった」と臍(ほぞ)を噛んでいる人もいることでしょう。しかし、株は騰がれば下がるもの。これから大きく下げ、格安で買える「バーゲンチャンス」の可能性がないわけではありません。そうした「下落のチャンスで動く」手法を解説した『最強の株の買い方「バーゲンハンティング」入門』(阿部智沙子著)のなかから、一部を抜粋してご紹介します。

それでも捨て難い。資産を大きく増やせる「株」ならではのポテンシャル

株式はかくも値動きが激しいことから、ハイリスク・ハイリターンの投資対象といわれます。このリスクとは何かといえば、上下に振れる変動の大きさ、ボラティリティーです。ボラティリティーが高いほど、将来の株価がいくらになっているか、予想される株価の範囲は広くなります。つまり、将来いくらになっているかの不確実性が高い。これがハイリスクです。

ボラティリティー、すなわち将来の不確実性は、データ集団の中の値がどの程度広く散らばっているかの尺度として用いられる標準偏差(σ:シグマ)で数値化されます。統計学の正規分布では、データの約68.3%は標準偏差内に入るとされています。

本書P.28より

たとえば、月間のボラティリティー(=標準偏差)が±5%だとすると、各月の月間騰落率の7割弱はこの範囲内に収まっている。要は、1ヶ月で5%程度の上げ下げは想定内で、あって不思議ではない、といったところです。

これが標準偏差の3倍(±3σ)となると、99.7%がその範囲内に入るとされます。言い換えれば、この範囲からはみ出す確率はわずか1000分の3。これを株価の変動に当てはめるならば、月間騰落率が±3σから外れるような大きな値動きは1000ヶ月に3回、およそ28年に1回しか起きないという解釈になります。

実際にはどうかといえば、日経平均株価のような株価指数でも1ヶ月に±3σ以上動くことが数年に1度くらいはあります。個別銘柄ともなれば、±3σはそう稀でもなく、場合によっては、統計学上では「まずあり得ない」レベルの±5σを超えて動いたりします。それだけ株はリスクが大きい、不確実性の高い恐ろしい投資対象であるのは事実です。

しかし、そうしたリスクがあるからこそ、ハイリターンが期待できるのもまた事実です。株価は下にも振れれば、上にも振れます。株価が上に振れて上昇するならば、資産は一気に増えます。そこまで欲張らないまでも、株のボラティリティーとうまく付き合えるとしたら、将来のための資産形成に大いに役立つことは間違いありません。

そうしたリターンをもたらしうる株式ならではのポテンシャルを完全に切り捨てて人生を送るのが果たして正解なのか。ボラティリティーとうまく付き合える手立てがあるならば、一考の余地があるのではないでしょうか。

その有力な手立てのひとつは、大下げ局面でのみ買う。大下げが続いていれば買い続ける。リバウンドに転じたら早々に売る。上昇が続くならば売り続けるという、徹底した逆張り売買。これは、ハイリスクを全面的に飲み込んで、機を見て敏にそれをリターンに転換する方法といえます。

ただ、これを実践するには、まずもって市場の大下げが続いているあいだ買い下がり続けられるだけの資金がなければなりません。残念ながら、ハードルが低くはない、誰にでもできるとは言い難い売買手法です。

それならば、こういう売買はどうでしょうか。

株価が下に振れるリスクは削って、その一方で上に振れたときに得られるリターンは削らない。リスク・リターンという言葉をそのイメージ通りに「リスク=損」「リターン=利益」と表現するならば、損失の可能性は低くして、利益の可能性は株式が本来持っている通りに確保する、という方法です。これなら、ハイリスク・ハイリターンの株式投資をローリスク・ハイリターンにすることができます。

とはいっても、リスクとリターンは表裏一体。ハイリスクだからこそハイリターン、ローリスクならばローリターンに甘んじなければならないのが原理原則です。それをローリスク・ハイリターンにする方法など実践可能なのか。そもそもそんな方法自体がこの世に存在しうるのか、というと、それがあります。


著者プロフィール

阿部智沙子(あべ・ちさこ)

(有)なでしこインベストメント取締役。茨城大学、東京理科大学卒業。大蔵省(現・財務省)専管の財団法人が発行する金融専門紙の記者を経て、1997年、マーケット情報提供会社(有)なでしこインベストメントを共同で設立。株式、債券、為替を中心としたマーケット分析や売買手法の研究、株式等のトレーディングに携わりながら、その成果を反映する形で執筆活動を行っている。また、日本数学会正会員として、数学・物理分野の企画・コンテンツ制作にも注力中。主な著書に、『株 ケイ線・チャートで儲けるしくみ』『日経平均の読み方・使い方・儲け方』(以上、日本実業出版社)、『<1日1回15分>たのしい短期トレードの本』(東洋経済新報社)など。