2021年4月、民法と不動産登記法が改正されました。今回の改正の目玉といわれるのが「相続登記の義務化」です。法改正にいたった背景とポイントをまとめました。
※本稿は岡信太郎『図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』の一部を抜粋・再編集したものです

改正の背景──増加し続ける所有者不明土地

所有者不明土地の増加が空き家と並んで大きな社会問題となっています。特に2011(平成23)年に起きた東日本大震災の復興において、所有者不明土地がその大きな妨げとなっている事実が次々と報告されました。

私たちが土地や建物の不動産を所有することは、憲法により私有財産制として保障されています。その一方で、国土の保全という国家の在り方を考えたときに、国がまったく対策を取らず、このまま所有者不明土地を放置することは、次世代に大きな負担を強いることを意味します。

ましてや、日本はすでに超高齢社会に突入し、人口減少社会、さらには大相続時代を迎えようとしています。

このような社会情勢の中、政府は所有者不明土地問題の解決を喫緊の課題として対策を本格化させました。そして2021(令和3)年4月の国会で民法及び不動産登記法が改正されたのです。

そして、今回の不動産登記法の改正の中で、最も私たちに影響が大きいものの1つが「相続登記の義務化」です。所有者不明土地の発生を予防するための有効な手段として考えられています。

『図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』p9より

「相続登記の義務化」は改正の目玉

改正不動産登記法では、これまで任意とされてきた、相続を原因とした所有権移転登記が義務化されます(2024年度までに施行)。

これまでは私的自治の観点から、登記をするかしないかは当事者の任意とされてきました。極端な話、お金を出して不動産を買ったとしても、登記をしなくてもそれはそれで当事者の自由な判断となります。

もっとも、土地を買って登記をしておらず、第三者が先に登記した場合には、その第三者に対抗できないという民法上の決まり(登記の対抗力)があります。そのため、売買により不動産を取得した場合には、お金を払っているので登記をして自分の権利を守ろうとするインセンティブが大きく働くことになります。

一方、相続においては、相続した不動産の売却の予定がなければ相続登記の必要性が感じられないと一部でささやかれてきました。そもそも自己の法定相続分については登記をしなくても対抗力が認められるため、早急に相続登記を行う動機がないという側面があります。手間と費用をかけて相続登記を行う動機付けが、登記を促進するにあたりネックとなっていました。

改正法施行後は公法上の義務が発生

しかし、土地の登記名義人に相続が発生した場合、改正法施行後は、期限内に次の名義人となる人を決めて申請する必要があります。改正により、相続登記が義務となるからです。つまり、“いつまでに相続登記をしないといけないという決まりはない”という従来の主張は通用しなくなるのです。

登記に現状を反映させるための公法上の義務が私たち国民に課されたわけで、これからは、土地所有権の在り方そのものが変わると考えたほうがよいでしょう。

いつまで?──期限は相続開始後3年以内

改正不動産登記法の条文では、不動産の所有権の登記名義人が亡くなった場合について、次のような規定が設けられました。

第76条の2「相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」

ここでまず重要なことは、相続登記義務を履行すべき期間が3年以内と明確に規定されたことです。

誰が?──不動産名義人の相続人に申請義務

では、誰が相続開始から3年以内に申請義務を負うのでしょうか。

今回の改正では、不動産登記における相続登記が義務化となっています。したがって、売買や贈与により不動産を取得した方は対象外であり、亡くなった不動産名義人の相続人が基本的に申請義務を負うことになるのです。

では、亡くなった方が相続人以外の第三者などに遺言で不動産を渡すとした場合(遺贈)には、どうなるのでしょうか。この場合には、相続人には申請義務は課されません。というのも、第三者への遺贈だと、不動産の権利は第三者に引き継がれ、登記名義も相続人ではなく第三者名義になるからです。

いつから?──既発生の相続についても対象に

今回の改正法が施行される前に発生した相続についての取り扱いについて、法務省の説明では、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日、または、改正法の施行日のいずれか遅い日から3年以内に、所有権の移転の登記をしなければならない、とされています。

つまり、抜本的な所有者不明土地問題を解決するためすでに発生した相続についても対象となるとされたのです。

したがって、改正法施行前は義務ではなかったため、相続登記をしていなかった方も、施行後3年以内に手続きをする必要があります。

『図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』p41より

罰則はあり?──10万円以下の過料も

改正法施行後、相続登記義務を履行しないとどうなるのか、気になるところです。

この点に関しても、改正不動産登記法の第164条において「申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する」と定められました。

つまり、改正法施行後に相続登記を行わない場合は、過料の対象となることが新たに規定されたのです。

この条文だけ見ると、相続開始後3年以内に相続登記をしていない場合にすぐに過料に処されるのではと思われる方もいるかもしれません。

しかし、条文にもあるように“正当な理由”がある場合は、過料の対象外となります。“正当な理由”については、改正法の施行に合わせ今後、具体的に法務省から示されていくものと思われます。

また、過料というのは裁判所から発せられます。不動産登記を執り行う法務局からどのように過料の対象を裁判所に通知するかについても、今後法務省令等に所要の規定を設けるとされています。したがって、過料の通知については、その基準や手続きを明確にした上で適切に運用されることが今後求められます。


著者プロフィール

岡 信太郎(おか しんたろう)

1983年生まれ。北九州市出身。司法書士、合気道家、坂本龍馬研究家。関西学院大学法学部卒業後、司法書士のぞみ総合事務所を開設。政令指定都市の中で最も高齢化が進む北九州市で、不動産登
記・遺産相続・後見業務を多数扱う。介護施設などの顧問を務め、連日幅広い層から法的サポートに関する相談を受けている。合気道(公益財団法人合気会四段位)の調和と護身の精神を取り入れた執務姿勢で、依頼者の厚い信頼を得る。『新版 身内が亡くなったあとの「手続」と「相続」』(監修、三笠書房)、『坂本龍馬 志の貫き方』(カンゼン)、『子どもなくても老後安心読本』(朝日新聞出版)、『済ませておきたい死後の手続き』(KADOKAWA)など著書多数。