祖先から受け継いだ土地、苦労して得たマイホームや貯蓄……家族から一定額以上の財産を相続または贈与された場合にかかってくるのが「相続税」「贈与税」です。「自分には関係ない」「法律どおりに課税されるだけでしょ?」と、何も手を打たないと財産が目減りすることも……。累計30万部を超えるロングセラーの最新リニューアル版『相続・贈与 かしこい節税の教科書』(小池正明・著)から、大切な財産を守るための「3つの原則」を紹介します。

※本稿は『相続・贈与 かしこい節税の教科書』(小池正明・著)をもとに再編集しています。

えっ、こんなに税金が違ってくるの?

相続対策を「した人」と「しない人」として、よく比較される2人の実業家がいます。

ひとりは、特別な相続対策をしなかった松下幸之助氏(松下電器〔現パナソニック〕創業者・相談役、平成元年4月逝去)。遺産総額は2449億円で、国内史上最高額を記録。相続税は854億円にもなったそうです。

一方、生前贈与など徹底した相続対策を実行したのが山崎種二氏(山種証券〔現SMBC日興證券〕創業者・会長、昭和58年8月逝去)。生涯に1000億円の財産を築いたといわれながら、遺産額は38億円、相続税はわずか8億円でした。

一般人からすれば、財産も税金も桁違いですが、こうした富裕層に限らず、一定額以上の財産がある人なら、相続対策をするかしないかで納税額が大きく変わってくることは間違いありません。では、いったいどうすればよいのでしょうか。

「そのとき」を考えて準備しておく

相続対策は、個々の財産状況や家族構成などによって最適な方法は異なります。まず大前提として、次の「3つの原則」を押さえておきましょう。

原則① 節税対策
相続対策とはいうまでもなく、相続税の負担をできるかぎり少なくすること、これが第一です。いわゆる「節税対策」です。具体的な方法は後述しますが、どんなものに税金がかかるのか、税額はどうやって計算するのか、申告手続きの方法は……といった、基本的なことを理解しておく必要があります。

原則② 納税資金の調達
一定額以上の財産がある場合は、いかに節税対策を実行しても、相続税をゼロにすることは不可能です。そこで、節税対策を講じながら、同時に「納税資金の調達」も手当てしていくことが必要です。実際に相続が発生しても、不動産などの財産処分をせずに納税ができるよう準備しておくのです。

原則③ 円満な相続=相続をめぐるトラブル回避
現在の相続制度は「均分相続」で、長子だろうと末っ子だろうと、兄弟姉妹すべてに同等の権利が認められています。このため、互いに権利を主張し合う相続争いは、枚挙にいとまがありません。また、被相続人に子がない場合の配偶者と兄弟姉妹、先妻の子と後妻の子など、相続をめぐるトラブルもよく見かけるところです。したがって、「そのとき=相続」を想定し、いかにスムーズな遺産分けをできるようにしておくか、を考えることは、もっとも大切な相続対策といえるでしょう。

節税にもいろいろな考え方がある

「3つの原則」のうち、みなさんの関心が高いのは節税対策でしょうか。ただ「相続税を少なくする」といっても、いろいろな方法があります。ここでは、基本的な考え方をお話ししておきましょう。

節税① 生前贈与を確実に実行する
節税対策のもっとも基本的な考え方は、課税対象となる相続財産の絶対量を減らしてしまうことです。つまり、生前贈与を確実に実行していくわけですが、それに伴う贈与税の負担を考えると、単純な贈与の繰り返しにはおのずから限界があります。そこで、「贈与税の配偶者控除の特例(※1)「住宅取得等資金贈与の特例(※2)など税制のしくみを活用して、贈与方法に工夫をこらす必要が出てきます。ただし、相続税にも別の特例があるため、贈与税の特例で必ずトクするとは限りません。また、特例を適用する場合は、決められた期日までに申告が必要です。

※1 贈与税の配偶者控除の特例……婚姻期間20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または住宅取得資金を贈与した場合、基礎控除110万円のほかに最大2000万円までは課税されない。ただし、適用は1回限り。贈与後も住み続けることが条件。
※2 住宅取得等資金贈与の特例……直系の子(または孫、養子を含む)が住宅を取得・新築・増改築するときに親(または祖父母)が資金援助(贈与)した場合、一定要件を満たせば、暦年の基礎控除110万円に加えて最大1500万円までは課税されない。ただし、非課税限度額は、住宅の種類や契約締結日によって異なる。

節税② 財産は不動産で持つ
相続財産の評価額に着目するものです。「財産は現金で持つより不動産に換えるほうがトク」といわれるのは、不動産の「評価額」と「時価」との違い(※3)があるからで、こうした見方は、当然、節税対策の中に取り込まなければなりません。

※3 「評価額」と「時価」との違い……たとえば、土地の評価額は、時価(売買価格、実勢価格)のほか、公示価格(標準価格)、相続税評価額(路線価=毎年、国税庁公表)、固定資産税評価額がある。相続税や贈与税を計算するときの評価額は、時価よりも低く見積もられるのが一般的(例外地域もあり)。

節税③ 債務控除を利用する
「債務は時価で控除される」という債務控除の活用です。亡くなった人に負債があった場合、その負債を相続財産から差し引くことができるため、節税対策として、借入金でアパートを建築するというのが、まさにそれです。ただし、相続税が少なくなっても、借入金の返済に苦しむのでは意味がありません。この方法を実行するには、周到な準備と計画性が必要です。

このように、相続対策はいろいろな角度から検討し、それぞれの実態に応じた対策を打つことが大切です。ただし、財産評価や特例の適用など判断が難しいものもありますので、場合によっては、税理士など専門家に相談なさるとよいでしょう。


著者プロフィール:小池 正明(こいけ まさあき)

⻑野県⽣まれ。中央⼤学卒業後、1978(昭和53)年税理⼠試験合格、1983(昭和58)年税理⼠事務所開設。税理⼠として企業の税務、経営を指導するとともに、講習会・セミナーなどの講師も担当。現在、⽇本税理⼠会連合会税制審議会専⾨委員⻑、早稲⽥⼤学⼤学院法務研究科講師。主な著書に『相続・贈与 かしこい節税の教科書』『最新 図解 消費税のしくみと実務がわかる本』『法⼈税・消費税の実務処理マニュアル』(以上、⽇本実業出版社)、『⺠法・税法による遺産分割の⼿続と相続税実務』(税務研究会)などがある。