「老化は一種の病気にすぎない。治療も予防もできる」とは、抗加齢医学の権威である米井嘉一教授の言葉です。

もちろん、不老不死の薬があるわけではなく、人である以上正常な老化は避けられません。ただし、「あの人、年齢以上に老けて見えるよね」と周囲にいわれてしまうほど老けこんでしまう人がいるのも事実。そうした顕著な老化は病的なものの可能性が高いから、治療も予防もできる、ということなのです。

では、病的な老化は何によって進行するのでしょうか。米井教授は老化を促進する5つの危険因子をあげています。

  1. 免疫ストレス
  2. 酸化ストレス
  3. 心身ストレス
  4. 生活習慣
  5. 糖化ストレス

5番目の「糖化ストレス」という言葉を聞きなれない人も多いかもしれません。米井教授によれば、この糖化ストレスは「老化の元凶」であり、「人類最強の敵」というほど危険な老化促進因子です。

ここでは、米井教授の著書『最新医学が教える 最強のアンチエイジング』から、糖化ストレスの正体と、その「攻撃」から身を守る方法を見ていきます。

糖化ストレスの正体

「糖化ストレス」にくらべて「酸化ストレス」は、テレビや雑誌で特集されたことも多いため、ご存知の方も多いのではないでしょうか。大気汚染や喫煙、過度な飲酒などにより有害物質が体内に入ることによって活性酸素ができ、人体が悪影響を受ける「酸化」は、健康を害するものとして広く認識されています。

酸化とは体がサビるようなものといわれます。同じような言い方をするならば、「糖化」は体がコゲることといえます。

砂糖とタマゴ、小麦粉(薄力粉)、牛乳などを混ぜて焼くと、こんがりときつね色に焼けたホットケーキができあがります。これが糖化反応です。きつね色の焼け目、コゲは、小麦の中のデンプン(炭水化物)とタマゴなどのタンパク質が、熱を加えることで糖化する際にできる生成物です。

食品を美味しく、香ばしくする糖化反応ですが、人間の体の中でも起きるとやっかいです。体内にあるタンパク質と食事で過剰に摂取した糖が結びつき(糖化)、体内に蓄積されます。そして糖化したタンパク質は最終的にAGEs(エージーイー)と呼ばれる老化を早める物質をつくり出します。

この状態は、いわば自分の体をホットケーキのようにこんがり焼きあげているようなものです。このコゲが老化を早めるのです。

あらゆる老化現象の原因になる!

糖化ストレスを受けると、糖尿病や高血圧、肥満といった疾患を引き起こします。また、以下のような老化現象にも、糖化ストレスが影響していることがわかっているそうです。

白内障

目にはレンズがあって、そのレンズにはクリスタリンという透明なタンパク質があります。このタンパク質は、糖化すると濁ります。糖化ストレスが強い人が白内障になりやすいのはこのためです。

目の病気でいえば、高齢者に多い加齢黄斑変性症は、網膜にドルーゼンという物質が溜まって起きる病気ですが、これもタンパク質が酸化したり糖化したりする「異常タンパク質」によって生じます。

認知症

認知症は原因によって大きく「アルツハイマー型」「レビー小体型」「血管性」の3種類に分けられます。

日本で症例が多い「アルツハイマー型」の認知症は、脳細胞にβアミロイドやタウタンパクというタンパク質が脳細胞に溜まって神経細胞が減少することで起こります。βアミロイドやタウタンパクを糖化させてしまうと、毒性の強い物質に変成して局所で炎症を起こします。糖尿病患者のアルツハイマー型認知症の発症率は、糖尿病がない人の3~4倍以上になります。

幻覚や転倒等が起きやすい「レビー小体型」の「レビー小体」とは、もともとパーキンソン病で見つかった異常タンパク質ですが、これも糖化したタンパク質であることが最近わかりました。レビー小体が脳細胞にたくさん溜まると、アルツハイマー型になるともいわれています。

「血管性」の認知症は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血等に起因しますが、これらの疾患の背景には動脈硬化があり、動脈硬化は糖化と関係しています。

骨粗しょう症

骨の重さの3分の1はタンパク質でできています。骨のタンパク質が糖化すると骨は折れやすくなります。骨粗しょう症のほか、糖尿病の患者さんも骨のタンパク質が糖化しているため、骨は折れやすい状態になっています。

肌の老化

女性にとって大敵ともいえる皮膚の老化の原因は、6~7割が光による酸化ですが、残りは糖化の影響が大です。皮膚のコラーゲンが糖化すると老化を早めるAGEsが溜まります。AGEsはホットケーキのようにきつね色ですから、皮膚に溜まると黄ばんだ色になります。

さらに、それまで自由に動いていたコラーゲン繊維が固定されて皮膚が硬くなる架橋形成も生じます。糖尿病の患者さんの皮膚が硬くなるのはこのためです。

このように、糖化は老化現象のすべてに影響します。

糖化ストレスを受けやすい生活習慣とは?

以上のように怖い「糖化ストレス」ですが、私たちの何気ない日常生活にその原因が潜んでいます。米井教授が指摘する、糖化ストレスを招きやすい代表的な生活習慣を見ていきましょう。

朝ごはんをよく抜く。1日1食健康法にはまっている

私たちが食べたものは体内で糖に変わり血管中を流れます。このため、だれでも食後は血糖値が上昇します。この上昇の度合いとスピードが速いと(「血糖スパイク」といわれます)強い糖化ストレスを受けます。

ダイエットの方法として朝食を抜いたり、「1日1食健康法」を採用する人がいますが、糖化ストレスの面からみれば、おすすめできません。長時間空腹でいると、体は低血糖状態を避けるためにグルカゴンという血糖値を上げるホルモンを出します。この状態で食事を摂ると、血糖値の急激な上昇を招き、AGEsがたくさんできてしまうからです。

血糖スパイクを避けるためには、朝食はしっかりと、できればご飯だけでなくおかずと一緒に食べることを米井教授はすすめています。

昼食はかけそばかぶっかけうどん

炭水化物の過剰摂取は、新陳代謝を促す成長ホルモンの分泌を抑制するので、老化につながります。中高年になると、昼食にはさっぱりとして食べやすいそばやうどんを選びがちですが、これは炭水化物の摂りすぎにつながります。気をつけたいのは白米の食べすぎだけではありません。

メニューを選ぶとき、炭水化物だけでなく肉や卵、豆類などが含まれているものを選ぶようにすると、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。「かけそば」よりは「月見そば」を選びましょう。

甘いジュースを一気飲みする

甘いジュースのパッケージには「炭水化物量10g」などの表記がありますが、これは100mlあたり10gという意味です。500mlのペットボトルなら50gのブドウ糖が入っていますので、砂糖を噛まずに飲むのと変わりません。血糖値は瞬間的に飛び跳ねます。

スマホをいじりながら寝る

良質な睡眠が健康にとって大事なのはいうまでもありませんが、それは糖化ストレスの面からもいえます。実験によって、睡眠時間が不足すると食後の血糖値が急激に上がる血糖スパイクが起きやすいことが確認されています。

「メラトニン」というホルモンがあります。暗くなると分泌され、明るいと分泌が止まる眠りに深く関係するホルモンです。夜、寝る直前にベッドの中でスマホを見ていないでしょうか? こうしたことを繰り返していると、十分な量のメラトニンが分泌されません。そうなると睡眠時間が不足し、睡眠の質も低下してしまいます。

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これらの生活習慣は、ちょっとした心がけによって改善できるものです。それが「病的な老化」の予防や改善につながり、若さを取り戻したり、若々しさをキープすることができます。

『最新医学が教える 最強のアンチエイジング』で米井教授は、冒頭近くにあげたように、糖化ストレスなど5つの老化の危険因子と、それから身を守る方法を、最新のエビデンスに基づいて解説しています。

「最近老けてきたな」「今よりもうちょっと若く見られたいな」と思ったら、ぜひ生活習慣の見直しを。そのときの参考になる1冊です。