「いくつになってもうまい酒を飲みたい」。酒好きなら誰もがそう思うでしょう。腸の専門医として知られ、多くの著書を持つ藤田紘一郎さんも大の酒好き。若い頃より量は減ったものの、79歳のいまも「たしなむ程度に」楽しく飲んでいるそうです。

また、藤田さんは著書『「腸」が喜ぶお酒の飲み方』の中で「お酒が好きで、飲める人は、中途半端に休肝日を設けたりするより適量を毎日飲んだほうが健康にいい」と書いています。酒好きにとっては何ともうれしい言葉ですが、本当でしょうか?

「飲める人は毎日飲んだほうが健康にいい」理由を述べる前に、まずは藤田さんの専門である「腸」と健康の関係について、同書からポイントを抜き出してみましょう。

すべての病気は「腸」から始まる

人は水や食物を飲食し、栄養を摂ることで生きています。それらを消化吸収するのは胃腸ですが、胃は基本的に消化するだけであり、吸収の大部分は腸が受け持ちます。腸はその他にも排泄や浄血、解毒といった機能を持ち、また体を病原菌やウィルスなどから守る免疫力の70%を担っています。

「腸内フローラ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。腸内には、個人差はあるものの約200種類・100兆個の細菌が存在し、これらの活躍によって腸が機能します。健康的な腸には腸内細菌がきれいに分布し、繁殖していますが、その状態が花畑のようであることから、腸内フローラと呼ばれています。

腸内フローラが荒れていると、腸の機能が低下し、下痢や便秘などに悩まされ免疫力も低下してしまいます。体の具合が悪い人の腸内フローラは、まるで踏み荒らされた花畑のような状態になっているそうです。そして最近の研究により、腸内フローラが荒れる原因のひとつに「ストレス」があることが明らかになってきました。

現代はストレス社会です。職場や学校での人間関係に悩み、プレッシャーを感じ、潜在的にはほとんどの人たちがメンタル面に問題を抱えているといってもいいでしょう。そうしたストレスが腸の健康に影響を与え、ひいてはうつ病や自閉症、認知症など、脳神経に関する病気に発展する場合があることもわかっています。

このように大事な腸の健康を守る方法のひとつとして藤田さんがあげているのが、意外にも、お酒なのです。

お酒の5つの効用

お酒を飲むとどんないいことがあるのか。藤田さんは以下のような効用があると指摘します。ちなみにこれは、適量を飲んでいるときという条件付きです。限度を超えて飲んだ場合はこの限りではありません。

お酒の効用

  1. 胃腸のぜん動運動が始まり、食欲が増進する
  2. 血管が拡張されて血液の流れが良くなり、体の疲れがとれる
  3. 大脳皮質の抑制がゆるみ、平常時よりも陽気になり元気になる
  4. 脳の緊張がとれて気分が良くなり、ストレスが減る
  5. 血栓をできにくくしたり、溶かしたり、豊富なアミノ酸などを摂取できる

このうち、藤田さんが最も大事な効用だと考えているのが4つめの「気分が良くなり、ストレスが減る」ことです。お酒を飲むと血行が良くなり脳がリラックスします。それによって気分が晴れ、ため込んでいたストレスが軽くなっていきます。

こうした効用は医学的にも重要なことです。ストレスを抱え込んでいると自律神経が乱れ、本来正常に機能している生命活動のどこかがアンバランスになり、腸をはじめとした消化器や循環器などの機能が低下し、万病の元になるのです。

「毎日飲んだほうがいい」理由

ところで、体質的にお酒を飲める人と飲めない人がいます。これは、アセトアルデヒド(アルコール脱水素酵素によって生成される毒性を持つ分子)を分解する力が強いN型の遺伝子を持っているか、分解できないD型の遺伝子を持っているかによります。

人の遺伝子は両親から1つずつ受け継ぐので、NN型、ND型、DD型の3通りが存在することになります。それぞれ、お酒に強い人、飲めるけれどそれほど強くない人、まったく飲めない人です。一般的に、日本人の50%がNN型、40%がND型、10%がDD型といわれています。酔ってもケロっとしているタイプはNN型で、顔が赤くなったり二日酔いやだるさが残るタイプはND型の可能性が高いといえます。

「週に一度は必ず休肝日を」と標語のようにいわれますが、じつは、NN型の人は毎日お酒を飲まないとストレスになる傾向が強いのです。

NN型の人が無理に節酒や禁酒をするとかえってストレスを感じ、上述のように腸内細菌のバランスが崩れて病気の原因になりかねない。これが「飲める人は休肝日などを設けずに毎日飲んだほうがいい」理由です。

ただし、NN型の人にも適量、限度はあります。ビールなら大瓶2本、日本酒なら2合程度。これなら毎日飲んでも体に影響を与えないとのこと。

ND型の人には、一般的に考えられているように休肝日が必要です。週に一度の休肝日をつくり、ビール中瓶1本、日本酒1合程度を週6日飲むなら、ストレスをためずに健康的にお酒を楽しむことができるでしょう。

いずれにしても、適量を越えた大酒や、ストレスが増幅されるような雰囲気の悪い飲み会を避けるべきなのは、いうまでもありません。

腸内フローラを整えるために気をつけること

適量のお酒を飲むことでストレスから腸内フローラを守り、健康な腸を保てば、いつまでもおいしいお酒が楽しめるという好循環が生まれます。では、きれいな腸内フローラとはどういう状態で、それを保つにはストレスを抱え込まないこと以外にどんなことに気をつければいいのでしょうか。

腸内細菌には「善玉菌」(乳酸菌、ビフィズス菌など)「悪玉菌」(大腸菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌など)、さらに「日和見菌」(バクテロイデス、ユウバクテリウム、嫌気性連鎖球菌など)があります。この3つのバランスが「たくさんの善玉菌・わずかの悪玉菌・ほどほどの日和見菌」という具合になっているとベストだそうです。

『「腸」が喜ぶお酒の飲み方』45Pより

善玉菌の代表格である乳酸菌とビフィズス菌は、納豆やヨーグルトなどの発酵食品に含まれています。また、水溶性の食物繊維は善玉菌のエサになりますが、この水溶性食物繊維を多く含む代表的な食材はキャベツです。キャベツには他にもさまざまな効果があり、藤田さんは、酒宴の前やおつまみにたくさん食べることを強くすすめています。

悪玉菌は肉のコレステロールをエサにします。増えすぎるとアンモニアなどの有害物質をつくり出して生活習慣病の原因になりますが、一方で外からくる有害な細菌を排除したり、セルロース(不溶性食物繊維)を分解したりする役割があるので、一定数は飼っておいたほうがいいそうです。不溶性の食物繊維は大豆などに多く含まれていますから、それらを食べ、悪玉菌を適度に働かせておくと増えすぎずに維持できます。

日和見菌というのは、その名の通り善玉菌と悪玉菌の優勢な方に味方する菌です。したがって悪玉菌が増えすぎるとあっという間に腸内バランスが崩れます。

つまり、納豆などの発酵食品を食べて善玉菌を増やしつつ日和見菌を援軍につけ、悪玉菌を適度に働かせるために野菜や豆類を食べる。そして適量のお酒によってストレスを解消する。こうすることで、腸内環境は理想的な状態に近づくわけです。藤田さんは本書『「腸」が喜ぶお酒の飲み方』で、キャベツや発酵食品以外にも「体にいい酒のつまみ」をたくさん紹介していますので、参考にしてください。

腸内環境を意識した食生活を送り、お酒は体質に応じた量を体にいいおつまみとともにかしこく飲む。いくつになってもうまいお酒を飲みたいなら心がけたい習慣です。