※本記事は2018年9月27日に「築地キッチンスタジオ」で行なわれた、『やさしい、おいしい はじめよう乳和食』の刊行記念「乳和食体験会」レポートを再編集したものです。

「乳和食」とは、同書の著者で料理研究家の小山浩子さんが開発した牛乳を使う新しいスタイルの和食で、カルシウムなど牛乳の豊富な栄養が摂取でき、減塩効果も高い調理法です。ここでは、その模様をダイジェストでお届けします。

講師をつとめた小山浩子さん

ミスマッチな「和食と牛乳」

「和食に牛乳を使う、というと、ほとんどの皆さんは違和感を持ちます。“合わない、おいしくないんじゃないか”と感じるのが普通の日本人の感覚ですね。ミルクを加える料理が多い洋食のスタイルが受け入れられているのとは対照的で、このままでは、今後もずっと、せっかく栄養豊富な牛乳が和食に使われることがなくなってしまう。私はそんな危機感を持っていました」

体験会の冒頭に、小山さんは「牛乳を和食に使う」ことを考え始めたきっかけについてこう話しました。

カルシウムやたんぱく質など、たくさんの栄養素をバランスよく摂取できるのが「牛乳」という食材です。朝食や学校給食で広く飲まれ、洋食を調理するときには家庭でもよく使われます。

ところが牛乳には、小山さんが考えるように、「和食との相性が悪い」というイメージがあります。ほとんどの人は「牛乳を使った和の料理」といわれても何も思い浮かばないのではないでしょうか。

実際、たとえば牛乳をそのまま使った味噌汁をつくると、色は白くなり、独特な味やにおいも残り、お世辞にもおいしいとはいえません。和食にただ牛乳を加えてもおいしくならないのです。

からだに良い牛乳をなんとか和食に取り入れたい。研究をかさねた小山さんは、あるとき、牛乳を出汁(だし)として、または調味料と合わせて使うことに思い至ります。

乳和食の基本は「ホエイ」

小山さん「牛乳にお酢を加えて分離させた“ホエイ”に出会ったことで、私の考えは変わりました。お米を炊くときにホエイを使うと、とても旨みのあるご飯が炊けたんです。牛乳の味はまったくしません。

また、漬物や焼き魚をつくるとき、ホエイに調味料を少し混ぜて素材を漬け置くと、普通に調理するよりも塩分を抑えることができて、しかもおいしく仕上がる。つまり、いろいろな和食をおいしく健康的に変えるのが、ホエイであり、牛乳なんです」

(左から)牛乳、ホエイ、ホエイ甘酢出汁、ホエイ濃い出汁

ホエイのつくり方:温めた牛乳に酢を加えると、化学反応が起きてホエイ(乳清)とカッテージチーズに分離します。牛乳中の水分であるホエイには、旨み成分であるグルタミン酸が含まれています。水や出汁のかわりにも活用でき、塩分が少量でも満足できる味に仕上がります。

材料

牛乳──500ml  米酢──大さじ2・1/2

出来上がり量

ホエイ──400ml  カッテージチーズ──100g

つくり方

  1. 鍋に牛乳を入れて火にかけ、80~90度(鍋肌にプツプツと泡が出て湯気が出てくるのが目安)になるまで温め、火を弱火にして米酢を全体に回し入れる。
  2. 木ベラで静かにかき混ぜ、火を止める。すぐに牛乳が分離して、濁りのないきれいなホエイが出てくる。
  3. 人肌になるまで冷ましたら、ザルに厚手のクッキングペーパーを敷いてボウルの上に置き、2を流し込む。しっかり漉してホエイとカッテージチーズを取り出す。

(『やさしい、おいしい はじめよう乳和食』より)

体験会では、小山さんによって牛乳(ホエイ)を使ったご飯、焼き鮭、和え物、味噌汁が実際に調理され、参加者に振る舞われました。

おいしく減塩できる乳和食

「世界一おいしいお米に慣れている日本人は、牛乳をそのまま入れて炊いたご飯を食べると例外なくまずいといいます(笑)。ところが、ホエイなら牛乳の味はまったくせず、しかもカルシウムの摂取量が大幅にアップします。

鮭の漬け焼きには牛乳を塩麹と合わせた“ミルク塩麹”を使います。鮭をそのままの牛乳に漬けて焼いてもまったくおいしくないんですが、ミルク塩麹に漬け込んで焼くととてもおいしい。焦げずにきれいに焼けるのもいいですね。

また今日使っている塩麹はほんの少しで、塩分は普通の漬け床の半分以下ですが、牛乳が味の下支えをしっかりしてくれています。

ホエイ、牛乳を使ったごはん、焼鮭、和え物、味噌汁

味噌汁は、かつお出汁で具材を煮るところまでは一緒です。そこに味噌と牛乳を1対1でしっかり混ぜておいた“ミルク味噌”を溶きます。ミルクと味噌を先に混ぜておくと、白くならずに牛乳の味がしません。通常の半分の味噌で、とてもコクのある味噌汁に仕上がります。

乳和食スタイルの味噌汁は、うれしいことに、病院や高齢者施設といった大量調理が必要な施設ではスタンダードになりつつあります。なにげなく毎日食べている味噌汁ですが、実は、和食の中でいちばん塩分が高い(カロリーベース)のが味噌汁です。日本人が今後健康に長生きするためには、毎日食べる味噌汁の塩分を抑えることがとても効果的です。

病院などで採用されているのは、味噌を半分しか使わないのに、普通の味噌汁と変わらずおいしく、牛乳の味もしないからなんですね。しかも牛乳を使ったほうが材料費も抑えられます」

高い減塩効果が見込まれ、しかも和食に不足しがちなカルシウムなどの栄養が摂取できる「乳和食」。「やさしい味でおいしい」「牛乳を使っていることにまったく気づかない」など、試食した参加者の反応も上々でした。

毎日の和食おいしくヘルシーに仕上げる「乳和食」をはじめてみませんか?

(文責:日本実業出版社)