とはいえ、いまは人生100年時代・社会人50年時代と言われている。当然ながら、若い年代であればあるほど「ぶら下がり人生」への抵抗感は強くなる。その観点からあらためて考えると、地銀行員にとって転職の目的となるのは「将来に広がりのある仕事」に就くことではないだろうか。

「意味ある転職」と大上段に構えなくても、まず考えるべきは、自分が何をできるかと自分は何をしたいかだ。とくに年齢が若ければ若いほど、後者が重要となる。

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「漠とした将来への不安」があるから転職するというのは、動機としては分かるが「何を目指すか」とは異次元の話である。事業会社で経営幹部を目指すのか、金融大手に入ってリベンジをするのか、コンサル・ソリューション系の会社に転身を図るのか、まずはよくよく考える必要がある。

その目標を定めたうえで、これまで自分のキャリアが使えるのかどうか。不足している部分があるのならそれを自己研鑽で補えるのか、そのための時間はあるかなど、各々の状況に応じた対応が必要なのは言うまでもない。

そのなかで地銀行員に一般的に言えることは、メガバンク等大手行の行員との比較でみた際の優位性は、中堅・中小企業の事情に通暁している、またはそう見える、ということだ。

メガの行員にとってのキャリアパスは、営業であれば「法人>個人」、法人であれば「大企業>中堅・中小」、職種で言えば「本部>営業」の優先順位だ。言い換えると、本気で中堅・中小企業と付き合う気持ちを持っているのは少数派だろう。地銀行員は、自身が持つこの優位性を軸に転職先を順番に考えてみよう。

トレンディなところで見ると、M&A仲介会社に移る人が増えている。外資系投資銀行は言うに及ばず、メガ系など日系の大手金融機関もグローバル大型案件など「目立つM&A」に注力しており、社会問題化している事業承継を含む中堅・中小のM&A仲介の担い手は、専業のM&Aハウスの独壇場に近い。

こうした専業のM&Aハウスの大手は上場もして高収益を上げているが、人材採用ニーズは旺盛だ。中堅・中小のオーナーと話をして事業承継の悩みを聞くことができる、地銀行員の得意分野ではないだろうか。

リテールに強いキャリアを生かすと言う意味での本丸は、やはり中堅・中小のオーナー系事業会社への転職だろう。事業承継者(=社長)とまでは行かずとも、財務・経理をベースに事業企画までを守備範囲としてオーナーの懐刀としての活躍が期待できる。実際、CFOとして活躍している地銀OBは多い。

この場合、当初の年収は銀行より多少見劣りするかも知れないが、オーナー系企業は気に入られさえすれば、60歳どころか70歳を超えて働くことができる。こと報酬と言う観点に絞ってみても、生涯を通じてみるとこうしたキャリアの方が多くなる可能性も高い。

オーナー系事業会社の流れで再度トレンディに目を移すと、ベンチャー企業への転身も増えている。メルカリを見れば分かるが、最近のベンチャーの主流は「ネット+BtoC」、または「CtoBtoC」だ。これに「シェアリング」が応用問題として加わるが、いずれにせよ軸はリテールだ。

自分のキャリアの方向をどう定める?(photo by ra2 studio/fotolia)

地銀行員が職種としてWEBマーケティングの分野に飛び込むと言うのは余りないかも知れない。しかし、ベンチャーがもつ課題の一つとして資金調達がある。IPOも視野に入れながら、これまでに培ったリテールの目線で財務や事業企画に携わることは、元・地銀行員にとってはやりがいが感じられる仕事に違いない。

年収やキャリアの連続性を勘案した転職であれば、ノンバンクを含めた大手金融会社への転職も視野に入るだろう。カード・信販会社やリース会社での営業は違和感なくできるだろう。既に老舗の域に入りつつあるが、流通系の銀行や証券での企画・営業業務も地銀行員の守備範囲だ。これらの企業でもリテールへの目線は比較優位なキャリアとして機能する。

地銀行員のキャリア(異動歴)はそれほど複雑ではない。伝統的なバンキング業務が中心だからだ。本支店での預貸業務をベースに、マーケット・投資業務、大手のシ団(シンジケート団)に入る形での証券・国際業務、金融周辺としてのリース・不動産関連業務が一部加わる程度だ。

非預貸業務については、既に主業務として位置づけられているメガ等大手行の経験者にはかなわないだろう。よって、地銀行員が自己研鑽などで地力を上げるとすれば、財務・会計・税務についての専門知識のシェープアップが望まれる。

会計士・税理士などの高級資格取得ができればべストだが、不動産鑑定士・証券アナリスト・中小企業診断士などの資格取得によるベース能力の向上も十分意味がある。要は、目標を定めて着実に準備、努力をすると言うことだ。

地銀行員のこれからの道

地銀に入る人材のパターンは大きく分けて二つだ。

一つはメガ等大手銀行に入りたかったがそれが叶わなかった場合。もう一つは地元志向だ。「地元名門高校→大都市有名大学→Uターン就職」や、逆に「近隣県の高校→地元国立大学→土着型就職」だ。

もともと、大企業の少ない地方都市において地銀は数少ない名門企業だ。とくに後者の人材にとって「厳しい環境下だから外の会社に行きます」と言うのはすぐに決められることではない。プライドの問題もあるが、それ以上に、外の世界でやっていけるかどうかの不安もあるだろう。

その意味では前者に転職者が多いのも事実だが、これはどちらがいいとか悪いとかの問題ではない。キャリアとはそういうものなのだ。大都市圏の地銀行員は転職の環境に恵まれているからこそ悩みも深い。とはいえ、本質的には同じだろう。

転職とは、詰まるところ「人間関係の新たな構築」だ。それまで5年、10年、20年と大切に育ててきた人間関係から離れ、ゼロからそれを作り直すプロセスなのだ。

だから、銀行員のように濃密な人間関係の中で仕事をしてきた者にとっては天地がひっくり返るほどのインパクトがある。転職して最初は猛烈な孤独感に苛まれる。その中で、一つひとつの仕事を通じて信頼を得ながら、一人ひとり仲間を増やしていくのだ。自分で新しく作り上げた人間関係は、間違いなく大切で貴重な財産になる。

転職するかどうかに悩んだら、新しい人間関係の構築への興味の有無を自分自身に問うてみるのもいいだろう。まだ見ぬ仲間が待っていてくれるかも知れないからだ。