Fintechの発展など金融を取り巻く環境が激変する中で、メガバンク3行は自然減による大規模リストラ策を相次いで発表。とりわけ、みずほ銀行の19,000人削減は大きな話題になった。しかし「本当に深刻なのは、地方から首都圏へのマネー流出などにより地盤沈下が止まらない地銀だ」という指摘も多くみられる。

元々、銀行は役員になれる極一部を除いたほぼ全員を最終的に行外に放出するが、上記のような状況もあるため、地銀行員にとって転職は一層差し迫った問題だといえる。そこで、自身も銀行の人事部で働いてきた経験を持ち『失敗しない銀行員の転職』を著した渡部昭彦氏に、地銀行員の転職について伺った。

出口の見えない地銀の出口は?

昨年から今年にかけメガバンクで相次いで人員削減のリストラが発表され、週刊誌上には「銀行員大量失業時代到来」と言った刺激的な言葉が並んだ。「生き残りをかけた」と言う表現にある通り、銀行界の置かれた構造的な厳しさは確かだろう。

それでもメガが生き残る可能性を本気で疑う人はまずいない。「Too big too fail」を持ち出すまでもなく、バブル崩壊後の合従連衡で大手銀行の体制は一応の秩序を回復したのも事実だからだ。

ちなみに、当時の大蔵省が「大手行は潰さない」と宣言した23行(都銀13行+信託7行+長信3行)は、3メガ中心の大手4行体制に収れんした。こうした供給側における事実上の寡占化は、不断の効率化努力を前提としつつも、企業維持への懸念を大きく後退させた。

それに比べ、地銀は出口がないと言われて久しい。まさに先週、懸案だった九州での地銀の統合が認められ「今回の『長崎方式』が地銀再編の起爆剤になるか」と言った趣旨の記事がニュースで取り上げられている。

地銀業界の構造的問題が「オーバーバンキング」である以上、再編は今後も続くだろうし、出口戦略の本命であることは間違いない。大都市圏から離れた地銀であれば「籠城作戦」で時間を稼げるのに比して、メガ等大手行との競合が激しい首都圏等についてはガチンコ勝負で行くしかない。従って、(他業態も含めた)統合は必至だ。

ここで行員に目を転ずれば、時間の軸はともかく、メガと同様な人員削減と処遇の切り下げは必至だ。実際に、若手行員の流出が増えているのは、このような「行く末」を現場で敏感に感じ取っているからだろう。そこで、中堅層も含めた大都市圏における地銀行員の転職について、あらためて考えてみたい。

大都市圏における地銀行員の優位性

一番目は地域的に転職候補先企業の数が多いと言うことだ。「地方創生」の掛け声とは裏腹に、経済面での都市集中が進んでいるのは周知の通りだ。グローバルには遅れていると言われながらも、日々多くの新規事業が大都市圏では生まれている。IPO銘柄を見れば分かるが、設立10年以内の企業が少なからず並ぶ。成長企業における人材ニーズは膨大だ。

また、大企業も新しい業態への進出を買収やスピンオフで続けている。マネジメントストラクチャーの変更は人材ポートフォリオの再編を伴うため、ここでも外部人材ニーズが生じる。

さらにこれは社会問題化しつつあるが、高齢化に伴う「後継者難=大廃業時代の到来」だ。国の試算では2015年までに約250万社で後継者を探す必要があるものの、後継者難でその3割が廃業する可能性があるとしている。この問題は、質的にはむしろ地方の方が深刻だが、数で言えば圧倒的に大都市圏でのインパクトが大きい。ここでも人材ニーズは膨大だ。

二つ目の優位性は、逆説的な言い方だが、地銀行員の給料は大手行に比して高くないという点だ。

メガバンクの報酬水準は、30代で1000万円台に乗って来るなど高水準だ。年齢層によって異なるが、ざっくり言えば地銀行員はその6~7割の水準だろう。これでも一般の事業会社、とくに中堅・中小規模の企業と比べれば高水準だが、大手行の行員との比較では、その分だけ事業会社への転職に伴う給料差(ダウン)の障壁は低い。

言い換えれば、大都市圏地銀行員はメガバンクの行員や都市圏以外の地銀行員(かつ地元での就職を希望する人)に比して、処遇ギャップの障壁という点からは一般事業会社への転職をしやすい環境にあると言える。

三つ目は、むしろこれを最初に上げるべきだったが、厳しい環境下で鍛えた(はずの)営業力や企業を見る目だろう。

メガ行員は本人達は気づいていないが、圧倒的に優位な立ち位置で仕事ができている。ゼロ金利下の厳しい環境とは言え、メガバンクのステータスと信用力は引き続き絶大だ。中小企業にとって、自社サイトに掲載している会社概要の取引銀行欄にメガバンクの名前があることはそれなりの意味を持つのだ。

一方、必ずしもステータスの強みを持てない地銀行員にとって企業を引き付けるのは営業力しかない。簡単に言ってしまえば顧客目線のビジネスだろう。昔風に言えば「どぶ板を踏む営業力」かも知れない。だが、その分だけ企業、とくに中堅・中小企業を見る目も涵養されているはずだ。

融資判断は地銀においても、メガ同様、スコアリングモデルに基づく格付け(信用ランク)に応じて融資限度額や金利・期間などの諸条件が決められている。しかし決定的に違うのは、日々の資金管理等の付き合いを通じて、企業の経営者や財務責任者と接する機会が多いことだろう。

言葉はストレートだが、メガ(の担当者)にとっては「単なる一取引先」に過ぎなくても、地銀にとっては「死命を共有する大切なお客様」なのだ。企業を見る際の真剣味が違うのは当然だろう。

それではどうすれば意味ある転職ができるのか。

地銀を取り巻く環境が厳しくなっているいま、処遇の切り上げやポスト不足による人事(昇進)の停滞はあるだろうが、信用第一の業種柄である以上いきなり「クビ」になるという事態は考えづらい。言い換えれば、なり振りさえ構わなければ、定年またはその近くの年齢までずっとぶら下がってはいられるだろう。