経営戦略が高度化する中で、企業における人材マネジメントは、単なる「人事管理」(Personnel Management、PM)ではなく、経営戦略と関連付けて中長期的・総合的な視点を持つ「人的資源管理」(Human Resource Management、HRM)として行なおうという考え方が中心になってきています。

ここでは、HRMの基本的な考え方を、人事コンサルタントで『担当になったら知っておきたい「人事」の基本』(以下同書)の著書もある深瀬勝範さんが解説します。

※本記事は、同書の第5章の一部を抜粋して掲載しています。

 PMからHRMへ

1980年代に入り、事業運営の中心が「製造・販売」から「開発・マーケティング」に移行し、また経営の多角化やグローバル化が進むと、人事管理も、経営戦略との関連性において、中長期的・総合的な視点を持って行なう必要性が出てきました。つまり、人材を、単なる「労働力」ではなく、「企業の付加価値を生み出す人的資源(または人的資本)」としてとらえて、戦略的に管理、活用する考え方が出てきたのです。

例えば、アメリカのミシガン大学を中心とした研究グループは、次の図のように、外部環境、経営戦略および人的資源管理(HRM)をフィットさせることの重要性を主張しました。

同書 219ページより

ミシガンモデルでは、企業の戦略的マネジメントの中心に「ミッション・経営戦略」「組織構造」「人的資源管理」の3要素をおき、それらが主要な外部環境(政治的環境、経済的環境、文化的環境)とマッチしていなければならないとしています。この考え方によれば、効果的な人的資源管理は、外部環境や経営戦略などによって異なってくることになります。

この他にも、ハーバード大学やイギリスのウォーリック大学も人的資源と外部環境との関連性を示した「HRMモデル」を提唱しました。

このような考え方が広がる中で、従来型の「人事管理(Personnel Management、PM)」から、経営戦略との関連性を持たせた「人的資源管理(Human Resource Management、HRM)」へ脱却を図る企業が出現しはじめました。

PMとHRMとの違いを整理すると、次のようになります。

●PMでは、従業員を、生産要素の一部、すなわち「細分化された職務を実行する労働力」ととらえて、監視・統制することに重点を置く。HRMでは、従業員を意思や感情を持ち「経営戦略を実現する資産」としてとらえて、育成、開発、活用することに重点を置く。

●PMは、労働時間や賃金の決定およびそれらに関する労使交渉など、従業員の管理にかかわる限定的な機能を遂行する。HRMは、要員計画の策定から、採用、配置、教育、労働条件の決定、良好な労使関係の構築まで、経営戦略にかかわる総合的な機能を遂行する。

●PMは、人件費を「コスト」ととらえて、短期業績との関連において適正化を図る。HRMでは、人件費を戦略実現のための「投資」ととらえて、長期的な視点から費用対効果の最適化を図る。

企業間競争が激化し、グローバル化が進む中で、経営資源である「人材」を、長期的かつ戦略的な視点から、効果的に育成し、活用していくことの重要性が高まりました。

今や、HRMは、欧米や日本の大企業における人材マネジメントの中心的な考え方になっています。

同書 221ページより