連載(全6回予定)「仏の上司・鬼の上司 彼らが教えてくれたこと」では、12年間経営コンサルティングに従事し、8000人以上のビジネスパーソンの生の声を聞いてきた安達裕哉さんからお聞きした、上司から学んだ「働く」ということについてのヒントを紹介します。

第5回は、成果主義に追い詰められた、ある社員のエピソードです。

売上目標、新規獲得数、顧客満足度……
会社から望まれる数字、あなたは達成できていますか?
(文責:日本実業出版社)

 いきすぎた成果主義は、人を壊してしまう

ビジネスパーソンにとって、仕事で成果を出すことは必要不可欠です。

しかし、成果主義によるプレッシャーによって、追い詰められてしまう人がいるのも事実です。とくに真面目で頑張り屋の人ほど、数字に対する責任感が強いあまり、思わぬ行動を起こしてしまうこともあります。

たとえば、以前私が在籍していた会社で、こんな出来事がありました。

その当時、所属していた人材育成を支援するコンサルティングの部署では、

 ・「営業」として、ビジネス研修プログラムの新規契約をとる
 ・「講師」として、顧客満足度の高い研修を企画・実行する

以上の2つの仕事が課されていましたが、その位置づけは異なりました。「講師は誰もができて当たり前の仕事であり、営業の仕事の方が価値がある」という、経営陣の考えがあったのです。

そのため、同僚のAさんは、講師としての評判はよかったのですが、営業で新規の契約がとれないことに、とても悩んでいました。いかに講師として成果を出したとしても、営業の仕事で数字がとれないので、上司からは酷く叱責される毎日……。

会社の評価基準は新規契約数という目に見える成果だけではなかったのですが、そのときの上司にとっては、部下の“数字”だけが重要だったのです。

そうした日々が続いた結果、追い詰められたAさんは達成件数を過大報告するという不正に手を出してしまいました。しかし、そんな実態のない契約はいずれ発覚します。契約したはずのお客様からの振り込みがないことで、この不正はあっけなく発覚しました。

結果、Aさんは、会社を去ることに。

真面目な部下が、いきすぎた成果至上主義で追い詰められるとどうなるのか。これは今でもたまに思い出す痛ましい出来事です。

数字を追うだけの上司が、会社を駄目にする

実際のところ、営業で数字をとれていないとしても、講師の仕事を極めれば会社に貢献できます。しかし、当時の経営陣は個人の強みを考えず、全員同じ目標を課し続けました。

それでは、部下は追い込まれてしまいます。

「一部の数字・結果だけ」しか見ないというのは、上司が1番やってはいけないマネジメントの典型です。

なぜなら、結果のみに注目してプロセスをないがしろにすると、良かった点や悪かった点、改善すべきポイントを把握できないからです。結果、「とにかく頑張って数字をとれ」という指示に終止することになります。売上のみに目がいき、会社全体としての成長や、お客様との関わりを無視した最悪なマネジメントといえるでしょう。

Aさんの悲しい出来事も、ただ単に目標に達したかどうかではなく、目標を達成するためにどういうプロセスをとったのか、営業以外に活躍する場はないのかを考えたマネジメントがなされていれば、起こらなかったかもしれません。そういう意味では、追い詰めた挙句、部下に不正までさせてしまったのは上司の責任です。

こういう話をすると、「不正をする人なんて、めったにいないだろう」という方もいるかもしれません。

しかし、不正はまったく珍しいことではありません。成果至上主義で数字ばかりに着目し、キツイ目標を課すほとんどの会社には、多少なりとも不正が存在しているのです。いきすぎた成果至上主義は、不正の温床となるのです。