本来、この差額は完成品がODMから納入された段階で解消されるべきものですが、東芝では意図的に四半期決算期末の段階で部品の押し込みを行ない、かつ決算時点で利益の計上を解消する会計処理を行なっていませんでした。

こうした取引を通じて利益を計上し続けるためには、その取引金額を大きくしていかなければなりません。そのために、東芝ではマスキング価格の吊り上げを行ないました。こうした粉飾を続けた結果、下の図に表したように、2012年度の半ば以降、四半期決算の期末月にはPC事業における営業利益が売上高を上回るような異常な状態になってしまっています。

(株式会社東芝第三者委員会「調査報告書」P.303より筆者作成)
株式会社東芝第三者委員会「調査報告書」P.303より筆者作成

これらの粉飾は巧妙に仕組まれていたため、2015年4月に内部通報が行なわれるまで発覚しませんでしたが、いずれも売上を過大に、費用を過少に計上することにより、利益を水増しする目的で行なわれていました。

東芝のケースでは、さまざまな手口を駆使して粉飾しているため、内部告発がないととても見抜けないようになっていましたが、一般的な粉飾決算を外部から見抜くための手段としては、回転期間分析やキャッシュ・フロー分析などがあります。

先ほどの東芝などの事例を踏まえつつ、こうした財務データを使った分析をフル活用して行なえば、公認会計士や経理のスペシャリストではない一般のビジネスパーソンでも、粉飾決算の可能性を探ることができ、仕事や投資などに役立てることができるでしょう。


本記事では、「粉飾決算などの会計のトリックやワナに引っかからない、リスクマネジメントとしての“守りの会計思考力”」について、矢部さんから解説していただきました。しかし、会計思考力には「会社を成長させるための“攻めの会計思考力”」もあります。

『武器としての会計思考力』ではそうした「攻めの会計思考力」の使い方についてもふんだんに盛り込んでいます。是非、手に取ってみてください。