その過程で、仮に循環取引に関わっている1社が経営破綻した場合、巨額の売上が回収不能となって循環取引が破綻し、一連の企業による粉飾決算事件として明るみに出ることになります。また、会計監査や内部告発などを通じて発覚し、破綻を迎えるケースもあります。

費用の過少計上に使われる「棚卸資産の粉飾」

一方、費用を過少に計上する際によく使われるのが、売上原価を過小に計上する手口です。売上原価とは、製品の製造や商品の仕入などにかかるコストのことです。この売上原価は、期首在庫に期中の在庫仕入を加えたものから、期末在庫を差し引いて計算されます。

ここでたとえば、架空在庫の水増しなどで期末在庫を過大に計上すると、売上原価が過少となり、利益を過大に見せることができるのです。

『武器としての会計思考力』P.150より引用のうえ、一部編集
『武器としての会計思考力』P.150より引用のうえ、一部編集

しかしながら、これを繰り返していくと、毎年過大な在庫が雪だるま式に積み上がってしまうことになります。あまりに在庫金額が膨らめば、貸借対照表は不自然な姿となり、ここから粉飾決算が発覚してしまいます。

東芝の粉飾決算はどのようにして行なわれたのか?

では、近年まれにみる規模の事件となった東芝のケースでは、どのような手口で粉飾が行なわれたのでしょうか?

東芝の粉飾決算に関する第三者委員会の調査報告書によると、東芝の粉飾は、次の4つの方法で行なわれたとされています。

  1. インフラ事業における工事進行基準における工事原価総額の過少計上
  2. 映像事業における経費計上
  3. 半導体事業における在庫の評価
  4. パソコン事業における部品取引

これらの粉飾の手法をすべて詳しく説明するとやや難しくなってしまうので、それぞれの内容について簡単に触れることにしましょう。

1.インフラ事業における工事進行基準における工事原価総額の過少計上

インフラ事業において、工事進行基準(工事の進捗度に応じて売上、費用を計上する方法)を悪用して売上や利益を水増しする方法です。

工事進行基準では、当期に発生した工事原価の額を、予め見積もった工事原価総額で割って工事の進捗度を計算し、その進捗度に応じて売上を計上します。また、見積もった工事の収益(売上)総額よりも見積原価のほうが大きい場合、工事損失引当金を計上しなければなりません。

ところが、東芝では、工事原価を意図的に過少に見積もることで、工事の進捗度をかさ上げして売上を水増しするとともに、工事損失引当金を過少に計上していました。

2.映像事業における経費計上

本来当期に計上しなければならない費用を、取引先に請求書の発行を遅らせてもらうなどして、費用計上を遅らせるという手口です。東芝では、こうした費用計上の延期に加えて、翌期の調達価格の上昇を前提としながら当期の仕入れ価格を値引きするといった形での費用操作なども行なわれていたようです。

3.半導体事業における在庫の評価

半導体事業において、販売の見込みのない滞留在庫の評価減(在庫の計上金額の見直し)を実施せず、損失計上を行なわなかったというものです。さらに、調査報告書では原価計算上のトリックを用いた利益のかさ上げも報告されています。

4.パソコン事業における部品取引

東芝が仕入れた部品を組み立て会社(ODM)に供給する際、供給価格を調達価格の何倍にも設定し(この供給価格を「マスキング価格」と呼びます)、期末にODMに対して部品の押し込みを行なうことで、マスキング価格と調達価格の差額分を利益として計上していたものです。