『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる

「文章を書くことがストレスです」
「文章を書くことが苦手で……」
「文章を書くのに時間がかかります」

そんな「文章アレルギー」の人は多いのではないでしょうか? しかし、文章を書けるかどうかは、仕事の成果や周囲の評価に大きく関わります。

そんな文章に関する「困った」にやさしく応えてくれるのが、『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』を著書にもつ、山口拓朗さんです。

この連載では、これまでライターとして3000件以上の取材・インタビューを経験した中から導き出した、「書くことが嫌い」を「書くことが好き」へと変える、文章作成のコツを教えてもらいます。

著者プロフィール

山口拓朗(やまぐち・たくろう)

伝える力【話す・書く】研究所主宰。出版社で編集者・記者を務めたのちに独立。これまでライターとして3000件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「書かずにうまくなる段取り文章術」「論理的に伝わる文章の書き方」「好意と信頼を獲得するメール文章術」「すらすら書ける文章テンプレート活用法」等、その日から使える実践的ノウハウを提供。また、2016年より中国の5大都市で「SuperWriter養成講座」を定期開催中。

著書に『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(共に日本実業出版社)ほか多数。文章作成の本質をとらえたノウハウは言語の壁を超えて高く評価されており、中国、台湾、韓国など海外でも翻訳されている。

上手な文章には「ゴール」と「ニーズ」の準備が不可欠だ

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2018/06/20 16:51

(photo by シエルノ/photoAC)

一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第2回>

伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、「文章を書き始める前」に必要な準備について。

何となく書いた文章で、人を動かすのは難しい

この連載の一覧はこちら

私が講師を務める企業研修で「文章を書くときにどんな準備をしていますか?」と質問をすると、8割くらいの人が「とくに何も……」と答えるか、「えっ、準備が必要なんですか?」「どんな準備をすればいいんですか?」と聞き返してきます。裏を返せば、ほとんどの人が、準備らしい準備をしないまま“何となく”文章を書き始めている、ということです。

日記やSNS投稿などの私的な文章ならまだしも、仕事で使う文章で何の準備もしていないとしたら、それはとても残念なことです。もしかすると、そういう人は、せっかく文章を書いても、そこに費やしたコスト(時間や労力)を回収できずにいる人かもしれません。

一方、文章を書くことで仕事の成果をあげている人は、往々にして書く前の準備に力を入れています。費やしたコストの回収はもちろん、コスト以上のメリットも得ています。この傾向は筆者の体験とも一致します。準備をしたうえで書いた文章と、行き当たりばったりで書いた文章では、自分に返ってくるリターンの質と大きさがまったく違うのです。

2つの「準備」が、文章のゴールを大きく変える

では、文章を書いて仕事の成果をあげている人たちは、書く前にどのような準備をしているのでしょうか。

  1. 理想的なゴールを設定する
  2. 読む人のニーズを把握する

この2点が、私が実践している必須準備です。1と2をそれぞれ解説しましょう。

【1. 理想的なゴールを設定する】

たとえば、取引先に提案書を書く場合、ふさわしいゴールはどのようなものでしょうか。「提案内容を“正しく伝える”こと」だとゴール設定が弱いと言わざるを得ません。提案書の理想的なゴールは、その提案書を読んだ人から「これはいい提案ですね。ぜひやりましょう!」と返事をもらうことではないでしょうか。

別の例を挙げましょう。メールを書いて次々に見込み客とアポを取っていくAさんと、たくさんメールを書いてもあまりアポが取れないBさん。ふたりの違いは、そもそものゴール設定にあることが少なくありません。

【Aさんのゴール設定】
相手から「ぜひ会いましょう!」と返事をもらうこと。
↓ ↓ ↓
その返事をもらうために必要な要素を文面に盛り込む。

【Bさんのゴール設定】
とくになし。
↓ ↓ ↓
よく考えずに「アポを取れたらラッキーだな」くらいの気持ちで書く。


理想的なゴールを設定することによって、Aさんはメールの文面を工夫します。相手が「この人に会いたい」という気持ちになる要素を効率よく盛り込んでいくのです。要素の一例としては“よそでは入らない貴重な情報”や“相手の悩みを聞いてあげる機会”“相手の困り事を解消へと導く方法”などが挙げられます。つまり、相手が喜ぶメリットを提示するのです。

一方、ゴール設定をしないBさんが、メールの文面に相手が「会いたい!」と思うような要素を盛り込むことはありません。その結果、なかなかアポが取れないのです。

このように、ゴール設定次第で「文章のクオリティ」と「その先で待ち受けている成果」は大きく変化します。ゴール設定の差は“微差”ではなく“大差”なのです。

【2. 読む人のニーズを把握する】

もうひとつ欠かせない準備が「読む人のニーズの把握」です。いくら理想的なゴールを設定できても、読む人のニーズを把握できていなければ、残念ながら理想的なゴールに到達することは難しくなります。

たとえば、先ほどの提案書の例を思い出してください。ひとつの提案書をコピーして、すべての取引先に送付(送信)しているようでは、思うような成果が得られるはずもありません。A社とB社とC社では、置かれている立場も、抱えている課題やニーズもそれぞれ違うからです。

A社のニーズ:社員教育に力を入れたい
B社のニーズ:とにかく売上を伸ばしたい
C社のニーズ:事業の縮小化を図りたい

このように、読む人ごとにニーズは大きく異なります。この世に1人(1社)として同じニーズの人(会社)はいません。重要なのは、その人(会社)のニーズを把握したうえで、それを満たす形の提案ができるかどうかです。

もちろん、読む人(会社)のニーズを満たすためには、事前にその人に関する情報を収集しておく必要があります。その人と直接話をしたり、周囲の人から話を聞いたり、あるいは、現場で取材をしたり、資料にあたったり、会社のウェブサイトやSNSをチェックしたり……あの手この手で多角的にニーズを把握していくのです。

読む人のニーズが把握できていれば、文章は半分書き上がったようなものです。なぜなら、多くの場合、仕事で使う文章とは、読む人のニーズに応えるためのものだからです。のどがカラカラに渇いている人に“焼き肉”を差し出しても喜ばれるわけがありません。のどが渇いている人に最も喜ばれるのは“水”でしょう。つまり、事前に読む人のニーズ(のどが乾いている/水が飲みたい)を把握できるかどうかが勝負の分かれ目なのです。

「理想的なゴール」と「読む人のニーズ」を見極めよう

提案書というわかりやすい例で話を進めてきましたが、この考え方は、社内向け・社外向けを問わず、仕事で使うあらゆる文章に置き換え可能です。社内向けの報告書ひとつをとっても、単に“事実を伝える”という程度のゴールなのか、“部署全体、会社全体の効率性と生産性を高めよう”という狙いで設定したゴールなのかで、文面に盛り込む内容や書き方に大きな差が生じるはずです。

もっと言えば、その報告書を読む人は誰でしょう? 「数字にうるさいA部長」なのか。「仕事のスピードを重視するB課長」なのか。「部下の意欲を評価するCマネージャー」なのか。読む人のニーズを見極めながらそのつど文章を書き分けられる人は、文章を書いて大きなリターン(成果)を得られる人です。そのためには、読む人が“何を知りたがっているか”“何に困っているか”“どんな価値観をもっているか”“どんな性格か”“何を書くと喜ぶか”——といったニーズを把握しておく必要があります。

  1. 理想的なゴールを設定する
  2. 読む人のニーズを把握する

くり返しになりますが、この2つの準備を抜かりなく行うことができれば、その人が書く文章のクオリティは格段にアップします。これまで、何も考えずに文章を書き始めていた人は、ぜひ書く前の準備に力を入れてみてください。次回は、いよいよ文章の書き方編です。伝わる文章を書くためのポイントをご紹介します。

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そもそも文章ってどう書けばいいんですか?

「文章を書くことがストレス」「書くのに時間がかかりすぎる」「そもそも頭のなかにあることを文章にできない」……本書はそうした「文章アレルギー」のある人たちに、マンガを織り交ぜながら、わかりやすく文章の書き方をレクチャーしていきます。

著者:山口拓朗

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