女性の社会進出や少子高齢化を背景に、子育てや親の介護といった個人の生活と、会社に出社して仕事をすることの両立が難しくなり、結果として不本意な退社を余儀なくされる、といったケースが社会問題となっています。企業にとっても、そうした事情によって人材を失うことは、労働力の確保という観点から経営上の大きな問題になります。

近年、インターネットの普及が後押しとなり、出社せずに自宅で仕事をする「在宅勤務」やオフィスから離れた場所で働く「リモートワーク」、「テレワーク」も増えてはいます。しかし、一人で仕事をすることから組織への帰属意識が希薄になってモチベーションが低下したり、評価基準が定めにくいといった人事管理上の問題も指摘されていました。

毎朝、会社に出勤し、顔を合わせて仕事をする──こうした“常識”にとらわれず、「リモートでありながらメンバーがチームとして機能する」働き方を実現し、注目を集めているのが株式会社ソニックガーデンです。その取り組みを、同社社長・倉貫義人氏の最新刊『リモートチームでうまくいく』(日本実業出版社刊)から見てみましょう。


「リモートワーク」とは、会社に出勤せず、自宅やカフェで、あるいは海外で働いてもよいという、「場所にとらわれない」ワークスタイルです。

一般的なリモートワークのイメージは、もともと「個人」で働くフリーランスの人が場所を選ばずに働く、といったものではないでしょうか。しかし、ソニックガーデンが行なっているのは、それぞれ地理的には離れていても、会社に所属し、オフィスで一緒に働いているのと同じように“チームとして一緒に働く”「リモートチーム」なのです。離れているからこそ「チーム」としてお互いが協力して働くことを重視し、チームワークを高めるためのコミュニケーションやマネジメント上の工夫が随所に取り入れられています。

一日の始まりは「論理出社」から

リモートチームの一日は、同社オリジナルのチャットツール「Remotty」にログインすることから始まります。ちなみに、全員がリモートというわけではなく、オフィスに出社して働く社員もいます。そこで、実際のオフィスに出社することを「物理出社」、出社していなくてもリモートで働き始めることを「論理出社」と呼んで区別しています。

(61ページより)

「論理出社」した社員は、この「Remotty」というツールにログインして「おはようございます」などと挨拶を書き込みます。そこから仕事を開始し、ログインした状態のまま仕事を続けます。Remottyの画面にはログイン中の、つまり仕事中の他のメンバーの顔も映し出されます。もちろんチャットツールですから、気軽に会話を行なうこともできます。

チームのメンバーの様子が常にわかり、コンタクトすることも容易なため、「この時間を共有して働いている」という感覚をもつことができるのです。

会議もオンラインで

リモートチームの会議は、おもにオンラインで、つまりオフィスや会議室ではなく、ネット上で行われます。オンライン会議のいいところは、会議室の場所取りや、メンバー全員がその場所に集まれるかを気にすることなく、気軽にサッと初めて、用件が済めばすぐに自分の仕事に戻ることができるところです。また、参加者が何人だろうと、会場の広さを気にする必要もありません。

また、あらかじめ決まった会議の出席メンバーでなくても、興味のある会議があれば、自分の仕事をしながらオンライン会議を傍聴できます。

これを会議への「ラジオ参加」と呼んでいますが、会議への垣根を低くして自由に参加することで、幅広く社内の状況を把握して情報を共有化できるようにしているのです。