「同じ場所に2時間いるリーダーは殺される」
「評価は待つな、仕掛けろ」「他責思考に別れを告げよ」
「周辺視を鍛えよ」「質問は手を挙げてから考えよ」
『セルフスターター 自分で自分を動かすスキル 米陸軍工兵学校で学んだ仕事と人生で大切なこと』の著者、有薗光代さんは、陸上自衛隊の最下級からキャリアをスタートしながら、異例の抜擢で米陸軍工兵学校に派遣されました。
世界中から精鋭が集まる環境で叩き込まれたこれらの姿勢や考え方、スキルはすべて、「セルフスターター」のものです。それは「与えられた仕事をこなす」「誰かの指示を待つ」のではなく、正解のない状況でも自ら考え、行動し、ミッションを遂行する、米陸軍工兵が体現していた自走型思考です。
セルフスターターの思考法や行動原則は、すべてのビジネスパーソンの指針となりうるもの。本書で著者の学びを追体験することで、仕事と人生に対するモチベーションが高まるはずです。ここでは、本書の「はじめに」を公開します。
はじめに
「命令を待つ者は、次の瞬間には生きていない」
米陸軍工兵学校で、最初に突きつけられた言葉です。
急速に変化する戦場では、自ら考え、行動しなければ生き残れない。
覚悟を問うこの一文は、私には「生き方そのもの」への問いとして突き刺さりました。
なぜなら当時の私は、大きな組織に身を置くなかで、周囲の空気を読み、波風を立てず、言われたことだけを淡々とこなすことが「正しさ」だと信じかけていたからです。
心のなかに湧いてきた小さな声に、フタをしようとしていました。
自分のハンドルを誰かに預けるのは、たしかに楽です。
責任も軽くなるでしょう。
その誘惑は、誰にでも訪れるものではないでしょうか。
けれども、「命令」とは、本来「命を令する」と書きます。
自分の命の「使い方」を、誰かに明け渡してはいけません。
どんな環境であれ、「置かれた場所で、自分の役割を自分で定義し、状況に応じて行動を選び取る」。
それがセルフスターター――すなわち「自分司令」という生き方です。
自衛隊は社会の縮図だった
私は20年近く、陸上自衛隊で働いてきました。
外からは「訓練された特別な集団」に見えるかもしれませんが、その内側には、社会と同じ現象があります。指示待ち、忖度(そんたく)、同調圧力。
最新鋭の装備を扱いながらも、旧来の価値観が根強く残る場面も少なくありません。
「命令には絶対服従」
「計画は完璧に」
「休むのは甘え」
「犠牲は仕方ない」
けれども、これらを現代の戦場に持ち込めば、生き残れません。いま求められるのは、その真逆です。
細かい指示には「NO」という勇気。
見えない死角を照らす多様な視点。
状況に応じて計画を描き直す柔軟さ。
そして、戦略的に休み、感性を働かせる余白。
いまの軍隊とは、「もっとも人間らしい組織」であると同時に、目的に忠実でありながら、勝つために「もっともしなやかでクリエイティブ」な力が求められるのです。
原点は「最下層」からのスタート
私は防衛大学の受験に二度落ち、高卒で二等兵という最下級から自衛隊に入りました。
志はあっても不器用。現場では「使えない」と言われ続け、反骨心と劣等感を抱えながら、階級、学歴、性別という努力だけでは突き抜けられない天井にぶつかりました。
転機は、中堅幹部(部隊の中核として実務を担当)のときの妊娠・出産でした。
仕事でも、母としても、1人の人間としてもベストを尽くしたいと思いながらも、その“全部”を同時に追い求めることに「もう限界だ」と心が折れかけたとき、夫の支えもあって、人生ではじめて腹をくくりました。その先に拓けたのが、米陸軍工兵学校への留学という入隊時には予想もしていなかった新しい道でした。
工兵とは、仲間が安全に前に進めるように道を拓く部隊です。危険な場所へ真っ先に入って地雷を取り除き、障害物を処理し、誰も通れない場所に「突破口」をつくる「戦うドカタ」。
日本では「縁の下の力持ち」とされ、時に自分を犠牲にしてでも仲間を支える存在です。しかし、米陸軍の工兵は、真逆でした。「仲間のために」は同じでも、彼らは自らを「全軍をリードするエリート」と定義していたのです。
「縁の下」とは裏方でも、受け身でもない。前線を支える太い「戦略的なリーダーシップ」そのものだったのです。
その発想の転換は、思わずシャベルを放り投げたくなるくらい私の生き方を丸ごと変えました。
私は最下級から「戦術」と「戦略」を往復し、国内、災害現場、米陸軍、国連ミッションという異なる「戦場」を歩いてきた1人です。
そこで学んだ教訓は、あなたの人生の役に立つことがあるかもしれない――そう思って、この本を書きました。
本書は、軍事という「極端な環境」から抽出した、自己革新の原則をまとめた「破壊と創造の教科書」です。
あなたは、この本で、戦いのリアルと現代のリーダー像を目撃し、「自分の生き方」を問われることになるでしょう。
そして、伝えたいことはただ1つ。
「あなたの人生の指揮を執るのは、あなた自身である」
仕事も、チャンスも、学びも、環境も、与えられるものではなく、自ら「創る」ものです。
目の前の状況を見極め、自ら選び取った一手が、あなた自身はもちろん、周囲の未来を変えていく。
組織でも、地域でも、家庭でも、多様な音が重なる「合奏」のなかで、自分の音色をどう響かせ、どう活かすかを選ぶ――それが「自分司令」という生き方です。
どうかこの1冊が、あなたがあなたの指揮棒を取り戻す、最初の一歩になりますように。
著者プロフィール
有薗光代(ありぞの みつよ)
元・陸上自衛隊幹部(三等陸佐退職)。1982年大阪生まれ。芸術一家に生まれ、真言密教僧侶の弟2人という家庭で育つ。四天王寺高校卒。高校時代、特攻隊員の遺書に衝撃を受け、「平和を次世代につなぐ」と防衛大学校を目指すが二浪して不合格も諦めきれず、自衛隊の最下級である二等陸士として入隊。
上官の靴磨きからキャリアをスタートさせ、エリート幹部の登竜門とされる指揮幕僚課程に一発合格。日本人女性としてはじめて米陸軍工兵学校に家族を帯同して留学し、優秀な留学生に贈られる次席表彰を受賞。国連南スーダンミッションでは軍事部門司令官表彰(上位10%)および日本人初のジェンダー部門ノミネートを受けるなど、異例のスピードで抜擢と出世の機会を得る。東日本大震災、九州北部豪雨災害など合計4回の災害派遣、国連PKOに2回従事。現役の20年間で合計18回の防衛記念章を受賞。令和4年には内閣府国際平和協力本部長(内閣総理大臣)から感謝状を受賞。その原動力は米陸軍工兵学校で学んだ「どんな状況にあっても自ら考え、動き、ミッションを遂行する『セルフスターター精神』」にある。
帰国後、制服組トップを補佐する統合幕僚監部に勤務中、夫の闘病を機に早期退職。退職後は、「女性・平和・安全保障(WPS)」をテーマで講演活動 を行うかたわら、築135年の古民家を再生した「門リトリートサロン」を創業 。人が自らの原点と再びつながる“人生の門出”を支援している。







