フリーランスや「ひとり社長」の成功にはブランディングが不可欠です。自分のブランドを確立できれば「安売り競争」から脱することができるからです。そして、ブランドをさらに強くするには「お客様に何を提供できるかを絞るべき」と、『単価を上げても選ばれ続ける ひとり社長ブランディング』の著者、小澤歩さんはアドバイスしています。

※本稿は『単価を上げても選ばれ続ける ひとり社長ブランディング』(小澤歩著)から抜粋、転載したものです。

最初に思い出されるのは「専門店」

お客様へアピールするとなると、ついあれもこれもと言いたくなります。

そこで「○○の様々なニーズにお応えします!」というようなコピーをつくりがちです。〇〇に何かの業種、例えば財務会計、経営、人材、リフォーム、不動産、美容、保険…と入れれば何にでも使えます。

何でもできます=特徴がない、ということです。

「様々なニーズ」というニーズは存在しません。人は自分の困っていることや望んでいることがあって、それに確実に応えてくれそうな専門家に頼りたいと思うのです。

例えば、あなたがトンカツを食べたいと思った時、どんなお店が頭に浮かんでくるでしょうか? おそらく、知っているトンカツ屋が浮かんでくるのではないでしょうか。

では、ラーメンが食べたいと思ったら? お寿司は? スパゲティは?

…それぞれの専門店が頭に浮かんでくるでしょう。それらすべてのメニューを提供しているファミリーレストランを最初に思い浮かべることはないはずです。

解決できるニーズを絞る

そこでひとり社長としては、解決できるニーズを絞る必要があります。つまり、「何を」提供できるのかを絞り込むわけです

税理士であれば「財務会計の様々なニーズ」ではなく、お客様のどのような困りごとを解決できるのかを検討します。

会計の処理に手が回らないのであれば「業務プロセスの効率化」を、資金繰りに困っているのであれば「補助金受給のアドバイス」を、経理社員の人材育成に悩んでいたら「経理部門立ち上げサポート」ができることをアピールします。

お客様のニーズを絞ることによって、それを解決できる人としての価値が高まり、それがブランディングとなっていくのです。

ニーズの組み合わせで価値が大きくなる

ひとり社長のブランディングでは、1つのニーズに対して1つの価値を提供するだけでは十分ではありません。つまり自分の提供する商品・サービスが直接的に解決するニーズ以外にも提供する価値をつくることが必要です。人がモノを選ぶ時は、その商品・サービスが本来解決してくれるニーズだけでなく、時間や場所、心で感じる様々なことが関係してきます。

例えば、マクドナルドに対するニーズは、「お腹が空いた、ハンバーガーが食べたい」といった単純なものだけでありません。

仕事をしている人だったら、お腹が空いたけど、あまり時間がないから素早くすませたい、これから打ち合わせだから服が汚れないほうがいい、給料日前だから安いほうがいいといった、様々なニーズが組み合わさって価値となります。あるいは、たまには健康を気にせずジャンクなものを食べたいなどのニーズもあります。

絞りつつも複数の価値を提供する

ひとり社長のブランディングも同じです。例えばデザイナーだとしたら、お客様のニーズは、広告をデザインしてほしい、というだけではありません。自社の印象を良くしたいとか、デザインに理解のあるところをアピールして意識が高い会社だと思われたい、広告をもっと活用したい、というようなニーズまで様々あります。これらの中から、あなたができることを組み合わせて解決してあげることが価値となります。

お客様は、直接的に得られる結果に至るまでにも様々な感情があります。

それらも含めて満たしてあげることで、規模が小さくてもひとり社長の大きな価値となるのです。あなたを選んでくれるお客様を1人設定して、ライフスタイルや趣味嗜好などを想定することで、直接的なニーズ以外で求めていることを想定して組み合わせます。

提供する価値の「何を」は絞りますが、これらのいくつかを組み合わせて1つの大きな価値とすることで、競合に負けない差別化になります

専門家にならないとお客様に認識されない。ブランディングによってできることを尖らせる!
『ひとり社長ブランディング』57ページより

小さく尖った専門家になる

ひとり社長のブランディングは、架空で想定したお客様像から考えられるニーズを解決すること、あるいはいくつかの価値を組み合わせて特定のニーズを解決できる専門家のような存在になることです。

そのためには前述したように、お客様を絞るのではなく解決するニーズを絞ってアピールすることで、それらのニーズを抱えている人々にとって大きな価値となるようにしたいわけです。

ジョンソン・エンド・ジョンソンに、ジョンソン・ベビーパウダー、ベビーオイルという商品があります。これは明確にターゲットを赤ちゃんに絞り、そのメッセージがそのまま商品名になっています。この商品はもちろん赤ちゃんも使いますが、大人も多く使っています。

それはこの商品が解決できるニーズを明確に絞って尖っているからです。それは、「赤ちゃんの弱い肌に使って安全」という明確なメッセージです。赤ちゃんにとって安全なら、肌が弱い大人が使っても安全に決まっていると受け止められるのです。

専門家として認識されてから広げる

まずは、絞り込んだコンセプトで、あなたがお客様のニーズを解決できる専門家であると認識されることが大切なのです。

当然、絞り込んだこと以外にも、あなたにはお客様のニーズを解決できる力があります。それらは、専門家として打ち出して、お客様に認識されてから提供すればいいのです。

例えば、「経理部門を効率化する税理士」と絞った価値でアピールしていたとしても、実際に提供する業務は、それだけではないでしょう。会社の会計や節税、税務調査の対応、事業計画の立案、さらには経営者の悩み相談なども提供できることがあります。

まずは尖ったメッセージを入口として反応してもらい、そのあとにすべてを提供し、お客様と深い関係を築いていくのです。

 

著者プロフィール

小澤歩(おざわ あゆむ)

有限会社グレイズ/代表取締役。(一財)ブランド・マネージャー認定協会/マスタートレーナー。デザイナーとして独立したものの、営業経験もなく強気の価格交渉ができないことに悩む。そこで「向こうから選んでくれるブランディングづくり」を研究。ブランディング活動で優良な顧客が集まり単価を10倍以上にすることに成功。その経験を基に現在は企業へのブランディングや販促のコンサルタントとして活動し、起業家育成も行っている。またブランディング等の講師として、富士ゼロックス、NTTドコモ、リコー、キヤノン、リクルート、宣伝会議等でセミナー・講演実績多数。