毎日のように目にする値上げのニュース。その値上げの原因の一端に原油価格の高騰がありますが、原油の価格の決め方や私たちの生活への影響の大きさなどは意外と知られていません。国内外64の経済指標を網羅した、経済アナリストの森永康平さんの新著『経済指標 読み方がわかる事典』から、原油価格が私たちの生活に及ぼす影響と、実際に原油価格を確認するための経済指標の読み方を紹介します。

原油は経済に大きな影響を与えるコモディティ

コモディティというと、人によっては想像するものが違うと思いますが、経済や投資の世界では原油や金などを指すことが多いです。原油や金は投資対象にもなりますし、実際の経済活動でも使われるエネルギーや原材料でもあります。

これらのコモディティは、非常に身近なため、コモディティ価格の変動は私たちの生活にも大きく影響を与えるのですが、意外とその影響力の大きさは知られていません。

戦争や紛争、テロが起きた結果、製油所やプラント、パイプラインが被害にあって、原油価格が高騰するといったニュースを耳にする機会もあるかと思います。

「原油価格が高騰した」という事実を知るだけで思考が止まってしまっている人を多く見かけますが、このようなニュースが耳に入ってきたら、今後どのような影響が出てくるのかについて思考を巡らせる習慣をつけましょう。

原油が高騰するとどのような影響があるか?

原油価格が高騰すると、そこからどのような影響が波及していくのでしょうか?

読み進める前に少し考えてみてください。

いちばん想像しやすいのはガソリン価格が上昇するということでしょうか?

正解です。もう少し思考を巡らせて、電気料金も上昇するということに気がついた方もいらっしゃるかと思います。それ以外に影響はなさそうですか?

私たちがお店で買うモノが工場や市場から運送されるときの燃料代や、モノをラッピングしている包装材も原油価格の上昇に伴い値上がりします。さらに、ビニールハウスで栽培している野菜や果物の価格も上がります。なぜなら、ボイラーを回すのに重油が使われるためです。

このように考えていくと、原油価格の変動は非常に多くの商品やサービスの価格にも影響を与えるのです。日本は、エネルギーの多くを海外からの輸入に頼っていますから、ここに円安・円高といった為替要因も加わってくることにも注意が必要です。原油価格の変動は、ガソリン価格や電気代をはじめ、想像以上に私たちの生活に影響を与えています。

原油価格を確認するための経済指標の読み方

原油価格を先読みするときに重要となるのが、原油在庫量です。この原油在庫量は下の2つの手順で確認することができます。

1.原油在庫を確認する

アメリカエネルギー省のエネルギー情報管理局が、WPSR(Weekly Petroleum Status Report:週間石油状況報告)で、原油だけでなく、主要な石油製品の価格や在庫量の情報を公表しています。これは少なくとも1,000バレルの原油を貯蔵することができるパイプラインや製油所を除く原油販売店などから集めたデータをもとに作られています。

2.戦略備蓄分を除いた在庫量の推移を見る

原油在庫量を見るときは、戦略備蓄分を除いた在庫量の推移、変化を見ましょう。戦略備蓄分は英語で「SPR(Strategic Petroleum Reserve)」と記載されます。戦略備蓄分は、緊急時にのみ放出される在庫のため、これを除いた在庫量の変化こそが原油価格に影響を与えます。在庫が少なくなれば原油価格は上昇し、逆に在庫が増えると下降しやすくなります。

実際にデータを確認してみよう

表示先⇒米国エネルギー情報管理局 (U.S.  Energy Information Administration) 

「Stocks」→「Weekly stocks」→「Commercial Crude Oil(Excl.Lease Stock」にチェックを入れて「View History  (1982-2022)」をクリック→「Weekly U.S. Ending Stocks excluding SPR of Crude Oil」→1982年8月から現在に至るまでの週次データ  (時系列)

 

日本は原油価格の上昇が商品の価格に反映されにくい

原油価格の上昇は、幅広いモノやサービスに対して価格上昇圧力を与えます。たとえば、燃料価格の上昇により物流費が増加したり、商品を包装するフィルムの値段が上昇したりすることで、スーパーなどで販売される商品の価格上昇にもつながります。さらに、重油価格の上昇によって、ビニールハウスを温めるボイラーを稼働させる費用が上昇し、果物の値段が上昇することもあります。

このように、原油価格が上昇すると、モノやサービスの価格が上昇すると考えられます。しかし、日本では、企業は原油価格が上昇しても、その値上がり分を商品の価格に転嫁しようとしません。これは、日本は他の国よりも、消費者が値上げに敏感で、日本が長期にわたるデフレに苦しんだことに原因があります。

その結果、原油価格上昇によって、世界各国でインフレ懸念が生じていたとしても、日本だけは消費者物価指数がほとんど上昇しないことがあります。ここで注意すべきことは、消費者物価指数が上昇しないという理由だけで、日本がインフレとは縁がないということにはなりません。

原油価格の上昇を把握するには企業物価指数を見る

日本において、原油価格の上昇によりインフレ懸念を把握するためには、企業物価指数を確認する必要があります。企業物価指数のなかには、素原材料や中間財の価格データも掲載されており、原油価格の上昇による世界的なインフレの懸念がデータに反映されるからです。物価といえば消費者物価指数を確認することが一般的ですが、日本の場合は前述したような特異な理由があるため、企業物価指数も同時に確認するようにしましょう。

投資をするときのポイント

戦略備蓄分を除いた原油在庫量を確認することで、今後の原油価格の推移を予測しやすくなります。景気が悪化して需要がなくなれば在庫量が増加することで需給も悪化し、原油価格が下落するといったシナリオを立てられるのです。原油価格が上昇することで、幅広い業種にわたる企業のコストを押し上げるため、原油価格の変動を正確に予測することは投資家にとって、とても重要です。また、原油価格自体を投資対象とするETFや投資信託も存在するため、原油価格の変動を予測できれば、そこにもリターンを期待できるのです。

国内外64の経済指標を網羅した『経済指標 読み方がわかる事典』の刊行を記念し、著者・森永康平さんの講演会を開催します!「経済について知りたい!」と経済ニュースを見てみても専門用語や数字が並んでいて難しい…と感じたことはありませんか?メディアなどで経済アナリストとして活躍され、SNSでも経済についてわかりやすく発信している森永康平さんに、「物価はなぜ上昇しているのか」「円安やインフレ、金融緩和は生活にどのような影響があるのか」「経済の動きを自分で確かめる方法」など、最新の経済動向を踏まえて解説していただきます!

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森永康平 (もりなが・こうへい)

金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト。
証券会社や運用会社にてアナリスト、エコノミストとしてリサーチ業務に従事した後、複数金融機関にて外国株式事業やラップ運用事業を立ち上げる。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、各法人のCEOおよび取締役を歴任。現在は法律事務所の顧問や、複数のベンチャー企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。
著書は『いちばんカンタン つみたて投資の教科書』、『誰も教えてくれないお金と経済のしくみ』(以上、あさ出版)、『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)、父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。