「絵(Graphic)」で「リアルタイムに記録する(Recording)」する「グラレコ」。グラレコがうまくなる鍵は、まずはかんたんな絵をどんどん描いて慣れることです。今回は、かんたんなパーツを組み合わせるだけで描ける、「モノ」と「人」の描き方のコツを解説していきます。

※本稿は『その場で「聞く・まとめる・描く」グラレコの基本』(本園大介)を一部抜粋し、再編集しています。

Lesson①「モノ」を描こう

スマホやパソコン、建物など、身の周りにある「モノ」をかんたんに描けるようになれば、グラレコ上達への第一歩です。さまざまな要素から構成されるモノを、シンプルにわかりやすく描くための方法を説明します。

「○・△・□」を描いてみよう

グラレコでは、さまざまな「モノ」を描きます。たとえば、メールやPCなどのアイコン、会社のビルや学校などの建物などです。

モノを描くコツは、複雑に考えすぎにシンプルに考えることです。 あらゆるモノは、3つの要素「○(まる)・△(さんかく)・□(しかく)」に分解できます。この「○・△・□」を組み合わせて描けば、ほぼどんな絵も描けるのです。

たとえば、メールは「□+▽」で描けますし、ビルは大きさの違う「□」で描けます。あまり複雑に描こうとせずに、シンプルに描くことを目指しましょう。

(本書P.38より)

図形の基本はアイコンから

グラレコでは、なるべく速く、そしてシンプルに描く必要があります。そこで活躍するのが「アイコン」です。アイコンは、スマホやパソコンなどの画面表示でおなじみでしょう。

アイコンは、「誰でも・ひと目で・理解できる」ことを目的にデザインされ、シンプルでわかりやすい形で描かれています。おもしろいのは電話のアイコンです。いまは使うことが減った受話器の絵をいまだに使っています。しかし、実際に使ったことがない人でも、電話だとすぐにわかります。

グラレコでも、かんたんにすばやく描け、そして誰でもすぐにわかりやすいように、アイコンのような絵を目指しましょう。

(本書P.39より)

「最も単純な形」を捉えて書く

アイコンを描くためには、物事の「本質」を捉えることが大切です。「本質」といわれても、なかなかイメージしづらいかもしれません。本質とは、あるものを理解するための最もシンプルな形のことです。

たとえば、電車を構成するパーツは、まずは車両で、横長の長方形で描きます。しかし、この長方形だけではこれがなにかよくわかりません。そこでもう1つ、長方形の上にひし形を乗せてみましょう。電車のパンタグラフです。ここまで描くとなんとなく「電車かな?」と思うかもしれません。さらに長方形の下に半円(車輪)をつけると、電車らしくなります。電車の構成要素である車両・パンタグラフ・車輪を描けば、多くの人は電車だとわかります。線路まで描けば完全に電車です。

(本書P.41より)

本質を捉えるには観察力が大事

本質を捉えて描くには、モノを構成する要素をよく見て、最低限どの要素を描けばいいかを考えます。モノを見るときの観察力が大切です。いままでなんとなく見ていたモノをまじまじと見ると、細かな違いに気がつきます。細かな「ほかとの違い」が、そのモノを認識するための重要なパーツであることが多いのです。

たとえば電車とバスではなにが違うでしょうか? パンタグラフの有無はすぐに思いつくと思います。車輪はどうでしょうか。丸い車輪だと思っている人が多いのではないでしょうか。よく観察すると、電車の車輪は下半分しか見えていません。そして正面から見ると、電車の運転席は進行方向左であり、バスは右に運転席があることに気づきます。観察力が磨かれてくると、こうした細部に気づくようになります。

(本書P.42より)

 

Lesson②「人」を描こう

「人」を描くとなると、「顔のパーツの描き方や表情のつけ方が難しそう……」と身がまえる人も多いかもしれません。しかし、人を描くうえで必要な構成要素は、「顔・体・感情」の3つです。一見すると難しそうですが、「○(まる)」と「線」だけで十分に表現できます。人の描き方を説明していきましょう。

(本書P.54より)

「顔」だと認識できればまずはOK

人が「顔」をどのように認識するかを考えると、じつは非常に単純なことがわかります。まずは、この絵を見てください。どの段階から顔に見えてくるでしょうか?

(本書P.55より)

だいたい②くらいから「顔」と認識できたのではないでしょうか。○と点と線の3つが描ければ顔が描けることがわかります。これならかんたんに描けそうな気がしてきませんか? もっと詳しく説明していきます。

「◎」をベースに顔を描く

グラレコで、簡単に顔を描く5つのステップを紹介します。薄いペン(蛍光ペン、鉛筆などでもOK)と、太めで濃いペンを用意してください。

  1. 薄いペンで、◎を描き、円の中心を通るように横線を引きます。これが顔を描くための基本フレームです。
  2. 太いペンで、外周の円をなぞっていきます。多少ガタガタな線になってもかまいませんので、気にせず描きましょう。これが顔の輪郭です。
  3. 内側の円と横線が交わっているところに点を描きます。これが目です。
  4. 内側の円の下部分をなぞって口を描きます。
  5. 目の上に横線を描きます。これが眉です。
(本書P.56より)

いかがでしょうか? かんたんに描けたのではないでしょうか。このフレームは慣れないうちの補助線です。慣れてきたらフレームを描かなくても顔を描けるようになります。

ところで、この顔を見てどこかに違和感はありませんか?現実の人間にあるはずの鼻と耳がないことです。鼻や耳を描かないのは感情に関係ないからです。「怒りの鼻」とか「悲しみの耳」などは、描こうと思ってもなかなか描けません。大事なことは、感情を表す最小限のパーツで描くことです。描くパーツが少なければ少ないほど速く描けます。さらには、そのグラレコを見る人にもわかりやすく伝わりやすくなります。

こうした理由でグラレコでは鼻や耳を描かないのが基本です。似顔絵は例外で、特徴を表現したいときには描くこともあります。

(本書P.57より)

「眉・目・口」で表情と感情を表現する

人の表情は、「眉・目・口」の3つで表現できます。これらのパーツを組み合わせれば、あらゆる感情を表現できます。

たとえば、怒りの眉毛(強い意思)と笑顔(ポジティブ)の口を組み合わせてみます。わかりやすいように、まずは描いてみましょう。 どうでしょうか、「やる気」の顔になったと思います。

(本書P.58より)

眉と口の関係を4象限にプロットすると、このような形になります。

(本書P.58より)

「眉・目・口」のそれぞれのパーツを描くバリエーションはそれほど多くないので、まずパターンを覚えましょう。それぞれのパーツの描き方を少し変えるみるだけで、感情の強さや違いを表現することができます。

(本書P.59より)

「喜怒哀驚」を描いてみよう

感情の基本となる「喜怒哀驚」を描いてみましょう。グラレコでは「喜」と「楽」はほぼ同じ絵になるので、「喜怒哀楽」の「楽」と「驚」を入れ替えましょう。

喜怒哀驚を描くときのポイントを見ていきます。口がポジティブを表現する谷型にして目も山型にすると笑顔になり「喜」を表現できます。「怒」は、眉がハの字になっていて口がネガティブを表現する山型、「哀」は眉毛をハの字に、口は怒り同様ネガティブを表す山型や、波の形でも表現できます。「驚」は口を丸く大きく描くだけで驚きの表情になります。驚くときには目を見開くことが多いので、目は白目に、眉毛は目から離して描くとより驚きを表現できます。

ぜひ、実際に鏡の前で表情をつくりながら描いてみてください。きっとここで紹介した以上の気づきがあるでしょう。

(本書P.63より)

 

本園大介(もとぞの・だいすけ)

グラフィックコミュニケータ。大手通信関連会社に勤務。社外のワークショップで、口べたの自分でも絵なら伝えられることに感動し、独学でグラフィック・レコーディング(グラレコ)を学ぶ。企業、官公庁、地方自治体、NPO、地域コミュニティ、大学など、これまで500件以上のイベントでグラレコを担当。自身が体系化したグラレコのノウハウをSchooやセミナーで指導し、受講者から「絵心がなくても描ける」と大好評。これまでに指導した人数は10,000名を超える。受講者からグラフィック・レコーダーとして活躍する人が生まれている。精力的に活動しながら、グラレコの魅力と可能性を追求・発信している。