グラフィックレコーディング、通称「グラレコ」。グラレコとは、その名の通り、「絵(Graphic)」で「リアルタイムに記録する(Recording)」ことです。オンラインでの会議やセミナーが増えたいま、話の内容や問題への理解が深まるグラレコは、ビジネスパーソンが身につけたいスキルの一つでもあります。

とはいえ、絵に苦手意識を持つ人は少なくありません。そこで、『その場で「聞く・まとめる・描く」グラレコの基本』の著者であり、大人の学びコミュニティ「Schoo」でもグラレコ講師を務める本園大介さんに、「初心者でもかんたんに描けるグラレコのコツ」をお聞きしました。

※本稿は『その場で「聞く・まとめる・描く」グラレコの基本』を一部抜粋し、再編集しています。

グラレコは「対話の技術」

グラレコの魅力は、話を聞いて、言葉や文字では見えづらいものを、グラフィックで可視化・整理することによって、物事の本質への理解が深まり、対話できることにあります。

グラレコは記録の技術であるだけでなく、対話の技術でもあるのです。しかも、絵を描くこと自体は楽しいものなので、その場の空気も明るいものになり、建設的に対話できます。

さまざまなコミュニケーションの場でグラレコが活用されています。セミナーや講演、勉強会などのイベントで話の内容をグラレコすれば、参加者が深く理解できるようにサポートできます。そのイベントや主催する団体の集客の手段としてPRすることもできます。本書を手にとっていただいた人のなかにも、イベントやSNSでグラレコを知ったという人も少なくないでしょう。

会議やミーティングでグラレコを使えば、参加者同士の意見の違いや論点が明確になり、議論の流れを可視化し、建設的な議論を進められます。「お客様に喜んでもらうサービス」についての企画を議論・検討するときに、お客様を中心に議論を進行することもできます。あるいは、口数の少ない人に発言を促し意見を引き出すこともできます。

1on1などの面談でグラレコを使えば、大切にしている価値観や目指すべき方向性が明確になることもあります。このようにグラレコの力を使えば、理解が深まり、場が盛り上がるのです。

(本書P.18より)

絵が苦手でもOK!

まずお伝えしたいのは、「はじめはグラレコでは絵を無理に上手に描こうとしなくてもいい」ということです。大事なのは「誰になにを伝えるか」です。絵を描き慣れていない人が、いざ絵を描こうとすると、ペンを動かすのをためらうことがよくあります。「上手に描かなくてはならない」と思い込んでいるからです。

なにを隠そう私自身がそうでした。「うまく描きたい」「上手だねとほめられたい」などと思ってしまい、描きはじめられませんでした。

あるセミナーに参加したときに、ノートに描いたグラレコを人に見せてみました。そのときの周りの反応はとてもいいものでした。自分としては絵も上手ではなかったですし、自信も持てず、恥ずかしいと思いながら見せたので、この意外な反応がとてもうれしかったことをいまでもよく覚えています。そのとき、自分自身はそれほど上手でもないと思う絵も、ほかの人には上手に見えるのではないかと気づきました。

そしてまた別のセミナーでご縁があって壁に貼った模造紙にグラレコを描きました。いま思えばひどい出来でしたが、周りの反応は「わかりやすい!」と非常に好意的なものでした。そのときに、「上手に描くこと」よりも「わかりやすく描くこと」が大事だと学びました。

もちろん、雑でいいというわけではありませんが、グラレコはあくまでコミュニケーション手法の1つです。たとえ上手に描けなかったとしても、話を聞いて、誰になにを伝えたくて描いたのかを言葉で話して、コミュニケーションのきっかけにすればいいのです。

グラレコに慣れないうちは、うまく描こうと考えずに「まずは自分が受けとめたもの」を描いてみましょう。言葉のキャッチボールとよくいいますが、グラレコでもまずは言葉をキャッチする(受けとめる)ことが大事です。伝える前にまずは話をよく聞いて受けとめたものを自分なりに描いてみましょう。そして、自分なりの受けとめたままに描くことに慣れてきたら、相手の立場になってわかりやすく描くにはどのように描けばいいのかを考えながら描いてみましょう。

グラレコを描くときに大切なのは、誰のためになにを描こうとしているのか、目的を考えながら描くことです。グラレコをするときには描く理由や目的を、いま一度じっくり考えてみましょう。

道具は紙とペンだけでOK!

グラレコをはじめるのに必要な道具は、紙とペンだけです。私の場合は、グラレコをはじめた当初は「サラサクリップ0.5」(ゼブラ)という芯の太さが0.5mmのボールペンで描いていました。このペンで、ノートに絵を描く練習をしていました。その後、イベントなどで模造紙に描くようになってからは、「プロッキー」(三菱鉛筆)の平芯マーカーを愛用するようになりました。

みなさんが描くときには、サインペンやボールペンなど好きな道具を使ってください。描いていて楽しいペンを使うのがいちばんです。

練習に使う紙は、どんどん練習できるものがいいでしょう。コピー用紙、100均で売っているようなメモ用紙などがおすすめです。紙の大きさについては、あまり小さい紙だと練習しづらいですし、逆に大きすぎても場所をとってしまうので、A4サイズぐらいがいいでしょう。iPadなどのデジタル端末でグラレコするときには、端末とApplePencilなどのスタイラスペン、描画アプリ(「Procreate」がおすすめ)を用意しましょう。

(本書P.21より)

ペンで描いてみよう

オフラインのイベントで紙に描くグラレコは、大きな模造紙に描くことが多いので、なるべく太いペンで練習しましょう。太いペンを使って描くと、遠くからでも見やすいグラレコになります。

おすすめの道具は、先ほど紹介した「プロッキー」などペン先が長方形になっている平芯マーカーです。平芯を使って文字を描くと特徴のある文字が描けます。ペン先が丸くなっている丸芯は安定した線が描けますので、好みに応じて使い分けましょう。

平芯マーカーを使えば、ペン先の角度によって、太い線と細い線を引けます。そこで、グラレコでは「横は細い線、縦は太い線の『横細縦太』で描く」ことを基本のルールにしましょう。このルールでグラレコすると、文字が明朝体に見え、きれいな文字に見えます。

(本書P.22より)

おすすめの「ペンの持ち方」

ペンの持ち方は持ちやすい方法でいいのですが、親指を左側、ペンがとがっているほうに添えて、つねに親指が左にあるようにキープする持ち方がおすすめです。こうして持てば、安定した横細縦太の線が描きやすくなります。左利きの方も左右逆になるだけで、持ち方は同じです。

(本書P.23より)

グラレコを実践することで得られるもの

グラレコを続けていると、いろいろな能力が身につきます。私自身がグラレコしているなかで、いつのまにか身についており、驚いたことを記憶しています。

これらの能力はビジネスシーンでもおおいに活用できます。グラレコしているうちに身についた能力のうち、代表的なものを3つ紹介します。それは、絵を描く力話をまとめる力、最後にプレゼンの力です。

①絵を描く力

これはいわずもがなではありますが、絵は描けば描くほど表現力が上がっていきます。たとえば、線や円がきれいに描けずに悩む人は多いのですが、これは文字と同じで描けば描くほど上達します。大事なことは、ていねいに描くように心がけること。そしてとにかく楽しく描くことが大事です。そうして描いているうちに、手が勝手に動くようになりますので、たくさん描いてみましょう。

(本書P.24より)

②話をまとめる力

グラレコでは、リアルタイムにすべてを描ききることができません。そうなってくると必然的に要約することになります。その際、「これはつまりどういうことだろう」という思考をつねに回すことになります。そうすることによって、ふだんの生活や仕事の中でも「つまり、これはどういうことなのか、本質的にはどういうことをいっているのか」を考えられるようになります。

(本書P.25より)

③プレゼンの力

これは意外に感じる方も多いかもしれません。グラレコは、人のプレゼンを聞きながら、内容を描くことが多いです。そうして描いているうちに、描きやすい話と描きにくい話がわかってきます。つまり、描きやすい話は、論理的にまとめられてあり、描きにくい話は思いつきで話しているのです。それがわかってくると、自分が話す機会があったときに、「話そうとしている内容は描けるか?」という視点が生まれます。もし描けない(描きづらい)と思ったら、そのプレゼンに改善の余地があることがわかります。

(本書P.26より)

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今回は、グラレコの基本的な考え方と、身につく3つのスキルについてをお伝えしました。次回は、実践編として「モノ」や「人」の描き方について具体的に紹介します。お楽しみに!

本園大介(もとぞの・だいすけ)

グラフィックコミュニケータ。大手通信関連会社に勤務。社外のワークショップで、口べたの自分でも絵なら伝えられることに感動し、独学でグラフィック・レコーディング(グラレコ)を学ぶ。企業、官公庁、地方自治体、NPO、地域コミュニティ、大学など、これまで500件以上のイベントでグラレコを担当。自身が体系化したグラレコのノウハウをSchooやセミナーで指導し、受講者から「絵心がなくても描ける」と大好評。これまでに指導した人数は10,000名を超える。受講者からグラフィック・レコーダーとして活躍する人が生まれている。精力的に活動しながら、グラレコの魅力と可能性を追求・発信している。