——国際アルツハイマー病協会(ADI)は、世界保健機関(WHO)と共同で、毎年9月21日を「世界アルツハイマーデー」、9月を「世界アルツハイマー月間」と定めて、認知症のさまざまな啓蒙活動を行っています。日本でも、「老老介護」「認認介護」などと呼ばれる高齢者や認知症の人どうしの介護が深刻化するなか、介護保険制度が見直されました。2021年4月からは、認知症の人も家族も安心して暮らせるよう、生活支援や介護予防などの施策が強化されます。

※本稿は『〈図解〉2021年度介護保険の改正 早わかりガイド』をもとに再編集しています。

介護は2025年と2040年にピークを迎える!?

介護保険制度がスタートして今年で20年。制度ができる以前は、介護は家族や親族が担っていましたが、その後、急速に進む高齢化、介護期間の長期化、核家族化などの影響で、家族や親族だけで介護を行なうことがむずかしくなってきました。そこで、社会全体で介護を支えるためのしくみが整備されたのです。

行政がサービス内容などを決めていた、それまでの措置制度と比べれば、大幅に利便性が向上し、高齢期の暮らしを支えるしくみとして必要不可欠なものとなっている介護保険制度ですが、運用を続けるなかで、多くの課題が浮き彫りになってきました。

課題① 増え続ける利用者と介護費用

大きな課題の1つは「介護費用」です。この20年間で介護費用は大幅に増加し、サービスの利用者も増え続けています。2000年4月末時点での要介護(要支援)認定者は218万人でしたが、2019年4月末には659万人と、3倍に増加しました。

内訳をみると、在宅でのサービスを利用している人が97万人から378万人で約3.9倍、施設サービス利用者は52万人から95万人で約1.8倍に増加し、2006年4月にスタートした「地域密着型サービス」の利用者は87万人を超えています。

〔地域密着型サービス〕 
在宅での生活が困難になったときに、住みなれた地域を離れずに暮らしていけるようにするためのサービス。市町村(特別区を含む)がサービス事業者を指定し、地域の特性を活かした計画を整備して、施設から在宅へという流れの受け皿となるサービスが提供されます。要介護度により利用できるサービスが異なり、要介護1〜5の人の場合は次の9種類です。このほか、要支援1または2の人が利用するサービスもあります。

はたして、今後も介護保険の利用者は増え続けるのでしょうか。結論からいえば、2回のピークを迎えた後、利用者は減少する見込みです。

最初のピークは、団塊世代が75歳以上となる2025年。そして次のピークは、その団塊世代の子どもが65歳以上となる2040年です。とくに2040年は、高齢者の人口がピークを迎え、介護ニーズの高い85歳以上が急速に増加する見込みです。

ちなみに、65歳以上の人口は、2000年4月末は2165万人でしたが、2019年4月末には3528万人になっています。

ただし、各市町村別の推計によると、徐々に介護サービスの需要が減少する市町村もある一方で、都市部を中心に2040年まで需要が増え続ける市町村もあります。今後、介護保険のサービスは、市町村ごとにその対応が異なってくるでしょう。

課題② 介護サービスの多様化への対応

もう1つの課題は「介護サービス」の内容です。高齢者の1人暮らし、あるいは高齢者夫婦のみの世帯、認知症を患っている人の増加などによって、求められる介護サービスは多様化しています。

また、介護が必要となった場合、約4人に3人が「自宅で介護を受けたい」と希望しますが、認知症の人については、急激な環境変化は、その症状に良い影響を与えないこともわかってきました。

そのため、高齢者に必要なサービスを提供するためには、おおむね30分で行ける範囲内(日常生活圏域)に「介護」「医療」「予防」「住まい」「生活支援」の5つの要素が必要とされています。

こうした事情を鑑みて、2015年度から始まったのが「地域包括ケアシステム」です。要介護状態になっても、住み慣れた地域で自分らしく暮らすことができるよう、先の5つの要素を一体的に提供する体制づくりが推進されています。2021年4月からは、法改正により、さらに取り組みを強化していくことになりました。

たとえば、上図のとおり、「生活支援・介護予防(いつまでも元気に暮らすために)」が老人クラブ・自治会・ボランティア・NPO等により提供されていますが、これらを支援しているのが、介護保険の地域支援事業です。

すでに、国民健康保険と後期高齢者医療制度により、疾病予防や重症化予防のために75歳以上の後期高齢者に対して健康相談、健診や保健指導が行なわれており、この地域支援事業に医療や保健事業の専門職が加われば、要支援・要介護の状態でない期間をより長くできるなどの効果も期待できます。

介護保険も地域格差の時代に…!?

介護保険は、市町村が保険者となって運営しています。先の地域包括ケアシステムの流れのなかで、医療や住まい、支援団体との調整など、介護を支える中心的役割を担っています。

その財源は、40歳以上の加入義務のある人たちからの保険料が全体の半分を占め、残りは公費、つまり税金でまかなわれています(国が25%、市町村と都道府県が12.5%ずつ負担)。

ただし、すでに述べたとおり、高齢者の人口、そのうち介護が必要な人と支える人の割合は、各地域によって異なります。重度の人が多く、介護サービスを使う割合が高い(たとえば、施設入所の利用率が高い)など、介護費用が多くかかる市町村では、当然ながら、利用者が負担する保険料も高くなります。

制度を財政的に破綻させることなく、持続可能な制度とするためには、各施策を充実させる一方で、保険給付の必要性や優先順位を考慮し、限られた財源の中で効率的にサービスを提供するしくみを考えていかなくてはなりません。そのうえで、市町村は、それぞれの地域の特性や実情、サービスの需要を考慮して、利用者にとって満足度の高い制度をつくり上げる必要があるのです。

介護される人も介護する人も、安全かつ安心できる老後を考えるとき、これからは地域格差をふまえて、「実力のある市町村」を選ぶことが当たり前になってくるでしょう。そして、お金・体力・心の限界を超える前に制度を上手に活用したいものです。


著者プロフィール:井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとしても活動。「むずかしいことでもわかりやすく」をモットーに数々の雑誌や新聞に連載を持つ。著書に、『〈図解〉2021年度介護保険の改正 早わかりガイド』(日本実業出版社)ほか、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『受給額が増える! 書き込み式得する年金ドリル』(宝島社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(日経BP社)などがある。