——社会全体で高齢者介護を支えるしくみとして、2000年4月にスタートした介護保険制度。3年に一度の改正を重ね、2021年4月から新しい制度が施行される予定です。今回は、何が変わったのでしょうか。〈前編〉では、介護保険の基本的なしくみについてお話ししました。〈後編〉では、介護サービスにかかる費用と利用者に直接影響のある改正ポイントについて見ていきましょう。

※本稿は『〈図解〉2021年度介護保険の改正 早わかりガイド』をもとに再編集しています。

介護保険の利用者負担割合は1〜3割

介護サービスにかかる費用は、利用者が全額を支払うわけではありません。次のとおり、前年度の所得に応じて、かかった費用の1〜3割を負担するのが原則です。ただし、居宅介護支援、介護予防支援について、利用者の負担はありません。

2021年4月から自己負担額が増える人も…

介護を受けるようになっても住み慣れた地域で暮らし続けるには、おおむね30分で行ける範囲内に、「介護」「医療」「予防」「住まい」「生活支援」の5つの要素が必要といわれます。

そこで、2015年から推進されているのが「地域包括ケアシステム」です。これを強化するため、今回は介護だけでなく、医療や社会福祉など関連する分野も含めた広範囲の改正が行われました。その多くは「地域共生社会」の基盤づくりのための施策です。

介護保険の利用者に直接影響があるものとしては、次のとおり、「高額介護サービス費」「補足給付」の見直しがありました。所得の高い人や資産状況によっては、2021年4月から自己負担額が増えます。

〔改正ポイント①〕高額介護サービス費の見直し
最初にお話ししたとおり、介護サービスの利用者負担割合は、前年度の所得によって1~3割と異なります。その負担が過度に重くならないようにするため、1か月ごとに設定した上限額を超えた場合は、その超えた分が払い戻される制度です。

これまで1世帯当たりの上限額は最大4万4400円でしたが、収入要件の区分が細分化され、年収770万円を超える所得者(世帯)の負担上限額が引き上げられました。

〔改正ポイント②補足給付の見直し
補足給付は、介護保険施設に入所した際(ショートステイ=短期入所も含む)、全額自己負担となる食費と居住費を、利用者の所得に応じて市町村が一部負担する制度です。

利用者の負担区分は、これまで第1段階(生活保護)から第4段階(給付対象外)までの4区分でしたが、第3段階を2つに分け、給付額を減額(=自己負担額の増額)することになりました。あわせて、給付を受けるための資産要件も厳格化されています。

早め早めに情報を得ることが大切

介護保険制度は、細かいルールが多いうえ、法改正で頻繁に変わるため、すべてを理解するのは難しいものです。介護を受ける人も、介護する人も、困ったり、わからないことがあれば、まずは市町村地域包括センターなどに相談してみましょう。制度に詳しい職員や介護の専門知識をもった人が適切なアドバイスをしてくれます。

とくに、要介護認定や各種サービスの申請から利用までは時間がかかることもあります。介護の負担を少しでも軽減し、深刻な状態にならないためにも、早め早めに情報を得ることが大切です。

「どんなサービスがあって、どうすれば利用できるのか」「費用はどのくらいかかるのか」……制度の基本的なしくみや上手な活用法を知っていれば、いざというときにも慌てなくて済むでしょう。

 


著者プロフィール:井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとしても活動。「むずかしいことでもわかりやすく」をモットーに数々の雑誌や新聞に連載を持つ。著書に、『〈図解〉2021年度介護保険の改正 早わかりガイド』(日本実業出版社)ほか、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『受給額が増える! 書き込み式得する年金ドリル』(宝島社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(日経BP社)などがある。