日本実業出版社のビジネス書ロングセラーに、ツートーンカラーの表紙でおなじみの「この1冊ですべてわかる ○○の基本」シリーズがあります。そのラインアップに、『プランニングの基本』(高橋宣行・著)が加わりました。

「プランニング」というと何となく企画を立てること? と思いがちですが、広告業界で長きに渡りプランニングに携わってきた著者、高橋氏は次のように定義します。

「プランニングとは包括的思考であり、『情報』を集め、『問題』を探り出し、『仮説』を立て、『発酵』させ、それを『カタチ』(表現)」に定着していく一連の流れを言う」

ここでは、著者のねらいが込められた同書の「はじめに」を掲載します。

『この1冊ですべてわかる プランニングの基本』「はじめに」より

『そうだ、私は「考え方」を学んでこなかった』とKさん

「私はプランナーになりたい」と熱望するKさんとの出会いが、今回の『プランニングの基本』を書き始めるきっかけになりました。

Kさん(41歳、女性経営者)から連絡が入ったのは、2年前でした。

「プランナーになりたい。しかし、私は考え方を学んでこなかった。ついては考え方のイロハを教えていただきたい」と。
 
その言葉の裏には、

「もっと新たな領域で広く社会との関わりを持ちたい/そして深く関わることで、人に喜んでもらえる、人の幸せをもたらす仕事につなげていきたい/そのためにはビジネスの核心である「プランニング」の基本を知っていないと、自らを磨いていくこともできない/それでは新しいステージに立てないと思う。だからお願い!」

という強い想いがありました。

ビジネスキャリアのあるKさんの熱い想いに押され、〈41歳、ピカピカのプランナー1年生〉を目指すことになりました。月1回、1対1のひとり塾「P塾」のスタートでした。

本書は、その時のカリキュラムとは違う内容ですが、逆にKさんとのキャッチボールから、今どきのプランナーは何を求められているか、本書をどうアプローチして組み立てるか。そのヒントを手に入れました。

「How to think」(いかに考えるか)を知る

当時、Kさんには、こんな話から始めました。

走ることは誰でもできるが、
速く走るには「走り方」がある。
考えることは誰でもできるが、
ビッグ・アイディアを生むには「考え方」がある。

「ただ考えているレベル」では、多様な仕事に対応することも、プロになることも、その世界で頭ひとつ抜け出すこともできません。

どうしてもすべての基盤となる「How to think」(考える基本姿勢)が、必要となります。ここを自分の基礎知力(原理・原則)と技術として持っていない限り、プロとしての第一歩は踏み出せません。そこから、深く考え、深く悩み、数多くの体験を積み重ねていくのです。

「そもそも、何ができてプランニングか」
「そもそも、何ができてプランナーか」

つねにここを意識することで、一発屋でなく、持続的に成長し続けられるマルチプランナーを目指すことができると思っています。

あえて、提案。「そもそも…」は本質をとらえるコツ

私たちは「考える仕事」の中で、言葉をとてもあいまいなまま使っています。それは言葉の意味を深く考えない、ということでもあります。

同じオフィスの中ですら、同じ言葉を使いながらイメージはそれぞれ違っています。ビジョンもコンセプトもマーケティングもアイディアもクリエイティブもデザインもテーマも、どの言葉もルーティンワークの中で、あいまいなまま使い、飛び交っています(たまたま上記の言葉はカタカナで、輸入ものということもありますが…)。

ここで、あえて「そもそも…」という言葉を置いてみることを提案します。
 
「そもそも、アイディアとは」
「そもそも、コンセプトとは」

「そもそも…」をつけることで、その本意は、その心は、その根っこは何か。「そもそも今、どうなりたいのか?」「どこを目指すのか」「何を求められているのか」…その本質を問うことにつながっていくからです。

例えば、「〇〇のアイディアを考えろ」と言われる

そもそもアイディアは、創造性と一体となったものです。創造には「人と違うもの、今までにない新しいもの、他でやっていないもの、まったく見たことのないもの」といった意味が込められています。

その本来の意味を引き出さなければ、考えたことになりません。合わせてアイディアには、新奇性、意外性を求められますから、膨大な情報収集から始まります。手持ちのもので組み立てるわけにはいきません。

専門領域はもとより、時代・社会・市場・生活者情報に加え、文化や科学を含めてアプローチは拡がっていくのです。

言葉の本質がわかると、仕事の仕方が変わっていくのです。

いつの時代にも変わらぬ価値観もあれば、時代や人の動きに合わせて変わっていく価値観もあります。そういう意味でも、この変化の時代に「そもそも、何を求めているのか」を思い起こして「プランニング」に向かうことが大切になります。どんな仕事でも「本質にせまる」ことで解決策は見えてくるからです。

本書は7つの基本からなります

私は3つの問題意識から「プランニングの基本」を組み立てました。

(1)プランニングは総合力であること、(2)IT、AI、5G、デジタル化社会の中で、創造性を核とするプランニング力が求められること、(3)プランニング能力を高めるには、情報、知識、経験、感性、社会性、人柄などなど個人力にかかっていること。

この3つの問題意識の上で、本書を7章に構成しました。

第1章 考えなくていい仕事はありません

変化対応をつねに求められる競争社会では、仕事とは「考えること」。この置かれた環境の中で、私たちは何を考え、どう動くのか。まず時代の、社会のバックボーンをしっかり知ることから始まる。

第2章 プランニングとは

そもそも仕事とは、考えるとは何か。何ができてプランニングかを確認する。ここからスタートするからブレがない。

第3章 プランニングの工程

4つの基本STEP(ワークデザイン)の紹介と、レベルアップ(自分らしさ×差異化)のための6つのコツの提案。

第4章 プランニングの実践

課題やテーマに合わせ、9タイプのプランニングシートを提供。考え方の流れであり、必須の要素であり、企画書への叩き台でもある。

第5章 プランニングの商品化

プランニングという知恵をどんなカタチにして売り物にするか。自分らしい企画書づくりと、相手へのプレゼンテーションの心得を知る。

第6章 ひとつ上のプランナー視点

創造的思考は、個人差が色濃く出る。それは個人の視点やものづくりの姿勢にあり、その気づき(9つのヒント)を手渡す。

第7章 プランナーの考え方・働き方・生き方

専門力ではなく総合能力で、複雑な課題を解決するプランナーは、固定した職種とは言えない。ボーダーレスに広告の世界で生きてきた人たちの経験や知恵から、考え方・働き方・生き方のヒントを提供する。

とくにビジネス書では、書き手と読み手が用語や文章を通して「一緒にわかり合っているか」「イメージが共有できているか」がとても大切です。そのため、図解、CASE、事例を多用し、文章から絵やストーリーや現場感が浮かび、共有・共感できるよう心がけました。

2020年9月
高橋宣行

たかはし・のぶゆき

1968年博報堂入社。制作コピーライター、制作ディレクター、制作部長を経て、統合計画室、MD計画室へ。制作グループならびにMDU(マーケットデザインユニット)の統括の任にあたる。2000年より関連会社を経て、現在フリープランナー。企業のブランディング、アドバイザー、執筆活動などで活躍。

著書に『高橋宣行の発想ノート』『高橋宣行の発想フロー』『高橋宣行の発想筋トレ』(以上、日本実業出版社)、『博報堂スタイル』『今どきの、発想読本 「コラボ」 で革新』(以上、PHP研究所)、『オリジナルシンキング』『コンセプトメイキング』『「人真似は、自分の否定だ」』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『発想職人のポケット』(小学館)他がある。