『ゼロ秒思考』(ダイヤモンド社)などのベストセラーで知られるコンサルタントの赤羽雄二氏は、独自のコミュニケーション手法「アクティブリスニング」によって、多くの問題を解決してきました。これは、「相手の話を真剣に徹底的に聞き、適切な質問で話を掘り下げることによって、問題の本質を把握し解決に導く」手法で、「ただ聞くこと」「傾聴すること」とはまったく異なる方法です。

アクティブリスニングの具体的なやり方については赤羽氏の新著『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』に譲りますが、ここでは、アクティブリスニングが部下とのコミュニケーションにおいてどのような効果があるのか、同書からピックアップします。

※以下は同書CHAPTER3「部下のやる気を引き出すアクティブリスニング」の一部を再編集したものです。


部下も楽じゃない

部下という立場は、上司より気が楽なようでいて、決して簡単なものではありません。

部下の多くはストレス過多だったり、パワハラの被害を受けていたり、上司への忖度疲れだったりして、やる気があまり出ない人が多いようです。部下の立場の方から週に何度も相談を受けています。

なぜそうなのか、背景を少しご説明したいと思います。

私は内外の企業の経営改革に長年取り組んできましたので、国籍を問わず、経営者、役員、事業部長、部長、課長、社員など、多くの方にお会いしました。上司の話を聞き、部下の話を聞くと同時に、「上司の上司」の話も聞き、「部下の部下」の話も聞きました。

そこから浮かび上がってきたのは、上司には結果を出すことに一生懸命なあまり、どうしても部下を追い立ててしまう傾向があることです。目標を達成できる部下ばかりではないので、特に悪意がなくても責めてしまったり、追及してしまったりします。

目標自体、妥当な目標というものはなかなかありません。低すぎるわけにはいかないため、高すぎて到底無理としか思えないような目標になりがちです。とはいえ、大ヒットしたiPhoneなども、理不尽なまでの水準をスティーブ・ジョブズが要求し、何とか成し遂げた結果、現在の成功がある、とも理解されていますので、むずかしいところです。途中で何人が精神を病んだか、というようなことは現実としてはあまり問題にされません。

そういう状況ですので、悪意はないものの、現実としては部下にストレスを与え、やる気を削いでいる状況が多いと思います。

部下は上司を信頼していない

自分は部下時代には辛い思いをしたのに、自分の部下には似た思いをさせている、というケースは珍しくありません。

また、部下の話をあまり聞かない上司は大変に多いですし、聞いているという上司も横で見ていると6〜7割は自分が話しているようです。もっとかも知れません(皆さん、ぜひ同僚に、自分と部下が何秒ずつ話したのかをストップウォッチで測ってもらってください。あるいは、部下との10分ほどのやり取りを何度か録音して、自分が何分、部下が何分話しているか把握するといいです)。

一部の部下はそれでも状況を説明したり意見を言ったりしますが、本音をどこまで言えているかというとかなり微妙です。意見を言うふりをして、上司の意見をうまく反映していることはざらでしょう。

ほとんどの部下は上司を信頼していないか、少なくとも警戒しており、上司とのコミュニケーションを避けようとします。避けられない場合は上司の機嫌を損ねないような内容のもののみ、注意して話します。

こういうことですから、上司は「裸の王様」になりがちです。本人はそのつもりが全くなくても(ないからこそ「裸の王様」なのですが)、好きなだけ話し、一方的に演説をして、耳障りのいい報告だけを聞く、というわけです。

したがって、こういう状況で上司が本気でアクティブリスニングを始めると、大きな効果があります。即座に部下に響きます。大変喜んでくれます。

部下の顔色が変わる!

私は、大手小売り企業で数年間、意識・行動改革に取り組みました。そのときの経験をお話ししたいと思います。

各支店の支店長のもとには部下のスーパーバイザーが10人ほどいます。支店長は自分もそういうふうにやられていたし、売上目標も大変なので、部下の話を聞くというよりは「あれやれ、これやれ」「あれはどうなった、何でやってないんだ」「売上をもっと上げろ」の連呼になります。

部下の話をゆっくり聞く気持ちの余裕も時間もありません。部下は部下で、常に支店長の顔色を伺いながら緊張して仕事をしていました。

私は全国の支店を順次回り、アクティブリスニングとポジティブフィードバック(編集部注:どんな場合でも肯定的に話す。褒める、感謝すること)の重要性を説明し、ロールプレイングなどの練習もして、その日からの実施を支店長にお願いしました。アクティブリスニングを100%できたか、ポジティブフィードバックを20回できたか、というメールを2週間にわたって毎日送っていただくようにお願いもしました。

そこでわかったことが、いくつかあります。

  1. 数日にわたってメールでのフィードバックをすると、どんな支店長でもアクティブリスニングの度合いが飛躍的に高まる
  2. アクティブリスニングをすると、これまで萎縮していた部下が明るくなり、悪い話でもどんどんしてくれるようになる
  3. 暗い雰囲気だった支店のオフィスで笑い声が出るようになる
  4. スーパーバイザーが担当店舗を回るときに、同じようにアクティブリスニングができるようになる
  5. 担当店舗のオーナーも影響を受けて、部下の話を少し聞くようになる
  6. こわもての支店長、生真面目そうな支店長、部下に過度に厳しそうな支店長、どういうタイプであってもこの変化が起きる

こういうものです。

私の結論は、アクティブリスニングがむずかしいからできない、というより、アクティブリスニングなどやってもらったことがないから、それが大事だと知らなかったからできなかっただけだ、というものです。ぜひやってみてください。部下の顔色がすぐに好転し、仕事の話もしやすくなります。

部下を生き返らせるポイント

アクティブリスニングを始めると、部下は最初やや戸惑います。今まで話などほとんど聞いてくれなかった上司が真剣に話を聞いてくれるからです。「意見はいろいろあるけれど、言ってもいいのだろうか。前に意見を言った人が飛ばされたし」と普通は思います。上司の顔色をじっと観察します。

ですので、最初はおっかなびっくりですが、上司が数日継続し、一貫してアクティブリスニングの姿勢を見せ続けると、安心して明るくなります。意見も言ってくれるようになります。驚くほどすぐに慣れてくれます。

萎縮したり、殻に閉じこもっていたりした状況から抜け出て、生き返ってくれるのです。

部下を生き返らせるポイントは、

  1. 部下の話をともかく聞く。安心して話し出すまで気長に待つ
  2. 部下の話は最初は1時間、それ以降、隔週で20〜30分程度聞く
  3. 部下への仕事の指示は、タスクシートなどに書いて伝える
  4. 部下の質問には即座に答える。それ以外はひたすら聞くだけ
  5. アクティブリスニングを始めたら、三日坊主にならずやり抜く
  6. アクティブリスニングをしているかどうか、同僚にチェックしてもらう。録音し、自分と部下の話している時間を測る

などです。

部下が自信を持ち、育つ

アクティブリスニングをされると部下が生き返るだけではなく、仕事への取り組みが真剣になります。前向きに取り組んでくれるようになります。そうすると、仕事の成果が出やすくなり、自信を持ちます。自信を持つと、意欲が湧き、成長が加速します。

上司が自分のことをわかろうとしてくれた、自分の話を聞こうとしてくれた、と感じるだけで気持ちが明るくなるからです。

それまでとは打って変わって、仕事の面白みを感じ始め、前向きになってハキハキし、上司とのコミュニケーションも改善されて結果を出しやすくなります。

部下に対してアクティブリスニングをするだけで、これほど変わるのです。

むずかしいことは何もありません。どうしたら部下がもっとやる気を出してくれるのか、どうすれば部下が育つのか、という質問をよくされますが、答えは簡単、部下の話を聞く、アクティブリスニングをするだけです。

逆に言えば、アクティブリスニングをしていない状況で部下の成長を期待するのはナンセンスと言ってもいいでしょう。車のキーをONにしないで車が動かないことを不思議がるようなものです。

あらゆる上司、リーダーは、アクティブリスニングをして、部下に自信を持ってもらうとよいと思います。人材育成のむずかしい話は不要です。

最後に、部下が自信を持ち、育つようになるためのポイントをあげておきましょう。

  1. アクティブリスニングにより、部下の話をしっかり聞く
  2. 特に前の上司の経験や、社会人になった後どういう辛いことがあったのかを聞く
  3. 部下の価値観、特に何をいいと思っていて、何をよくないと思っているかを聞く
  4. 部下が仕事上の課題を早めに相談できるよう、短時間でも週次で機会を作る。対面が望ましいが、むずかしいときは電話でも構わない
  5. 部下全員がアクティブリスニングを身につけるように、コーチングする
  6. 特に、部下が同僚、後輩、外部の人、プライベートでもアクティブリスニングをするように、フォローし、助言する
  7. 部下同士で助け合いやすいように、ベストプラクティスの共有を進める
  8. 部下全員が自身の長所、成長課題、成長目標などを正しく認識するように、コーチングする

アクティブリスニングの具体的な方法については、『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』をご参照ください!

 

著者プロフィール

赤羽雄二(あかば ゆうじ)

ブレークスルーパートナーズ株式会社 マネージングディレクター東京大学工学部を卒業後、コマツで超大型ダンプトラックの設計・開発に携わる。スタンフォード大学大学院に留学し、機械工学修士、修
士上級課程を修了後、マッキンゼーに入社。経営戦略の立案と実行支援、新組織の設計と導入、マーケティング、新事業立ち上げなど多数のプロジェクトをリード。マッキンゼーソウルオフィスをゼロから立ち上げ、120名強に成長させる原動力となるとともに、韓国LGグループの世界的な躍進を支えた。
マッキンゼー14年の後、「日本発の世界的ベンチャー」を1社でも多く生み出すことを使命として、ブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業。企業の経営改革、人材育成、新事業創出、ベンチャー共同創業・経営支援に積極的に取り組んでいる。

著書に『ゼロ秒思考』『速さは全てを解決する』(以上、ダイヤモンド社)、『マンガでわかる! マッキンゼー式ロジカルシンキング』(宝島社)など21冊がある。

メール : akaba@b-t-partners.com
ウェブサイト : https://b-t-partners.com