著者累計40万部のベストセラー著者・天野敦之氏がストーリー形式で「会計リテラシー」を解説する『会計の神さまが教えてくれたお金のルール』(天野敦之著)第1章、4回に分けて全文公開します。今回は第3話(これまでのお話:第1話第2話)。

「会計の知恵」の活かし方について、ルカ・パチョーリに教えを乞う僕。会計リテラシーがビジネスパーソン以外にも必要だということが分かったが、具体的にどういうスキル? ロジカルシンキングとはなにが違うの?

お金には「コスト」がかかっている

「会計リテラシー、つまり会計の知識を活用したり応用したりする力の中で、一番ベースになることを教えたるな」
「はい、お願いします」
「まず大切なのは、お金にはコストがかかってることを意識するっちゅうことや」
「お金にはコストがかかってる。それって銀行からお金を借りたら利息がかかるってことですか?」

それくらいなら僕にもわかる。そんなことが会計リテラシーの一番のベースなのか?

「それだけやないで。自己資本にもコストがかかっとるやろ?」

自己資本か。僕は貸借対照表を思い浮かべた。左側が「資産の部」で、右上が「負債の部」、右下が「純資産の部」だったはずだ。資産がお金、商品、建物など、負債が借入金などの借金、差額が純資産で、この純資産が自己資本だったと思う。うん、それくらいは覚えてるぞ。

貸借対照表の基本/本書28ページより

「おまえ、まさか自己資本がわからんちゅうことはないよな?」
「えーと、株主から出資されたお金のことですよね」
「せや。株主から出資されたお金が資本金と資本剰余金になる。それ以外にこれまで累積してきた利益が利益剰余金やな。他にも細かいものがあるけど、資本金と資本剰余金と利益剰余金が自己資本だと思っておけばええ。

そうだった。でも、負債にコストがかかるのは借入金の利息を考えればわかるけど、株主から出資された自己資本のコストとはなんだろうか? 配当のことか?

「この自己資本にもコストがかかっとるんや」
「それは配当のことですか?」
「それも一部や。でもそれだけやないで」

配当以外のコスト。そういえば大学時代になんか勉強したような気がする。なんだったかな。

「あ、『資本コスト』ですね。思い出しました」

僕はふと思い出したキーワードを口にした。きっとこれだ。

「ホンマに思い出したんか? じゃあ資本コストについて説明してみい」
「え、いや、あの……」

パチョーリは僕を冷たい目で見ている。

「でも資本コストなんて社会人になってから使ったことないし、忘れちゃいましたよ」
「だからそれが表面的な理解やって言うてんねん。資本コストっちゅう用語は使わんでも、その本質を理解していれば、仕事や人生に活かしとるはずやからな」
「すみません」

僕は本質的にはなにも理解していなかった。試験に出るから覚えただけだ。