『会計の神さまが教えてくれたお金のルール』の発売にあたって、著者の天野敦之さんに、本書のテーマである「会計リテラシー」とはなにか、具体的にどのようなお金の使い方がNGなのかを聞いてみました。(聞き手:日本実業出版社編集部)

会計の専門家が「お金の大失敗」から学んだ知恵

──今回、「会計リテラシー」をテーマに執筆したきっかけは?

かつて僕自身が「会計の知識」は十分にあったにもかかわらず、「会計リテラシー」が欠けていたために、お金に苦労した経験があるからです。

──会計本のベストセラー著者でもあり、コンサルティングファームや証券会社でもご活躍されていた天野さんなのに、意外です。どんな経験ですか?

本当にお恥ずかしい話ですが、僕は独立したあと、業務上はまったく必要がないにもかかわらず、社員を4名も雇い、会社のお金がどんどんと減っていき、本書でも「悪魔の商法」と書いたカードローンで社員の給料を払い続ける、という愚挙を犯してしまいました。

また僕の周りでも、自己啓発セミナーやネットワークビジネスで多額の借金をして抱えてしまう人も多かったのです。だから、僕が失敗から学んだ知恵をお金に苦しんでいる多くの人たちに届けたいと思いました。

さらに、「老後2000万円問題」をきっかけに「お金」への関心が高まっています。お金への関心が高まるにつれ、「情弱(情報弱者)」と呼ばれる人を対象とした詐欺のような投資話も急速に増えており、会計リテラシーがないためにだまされてしまう方も少なくありません。とくにこの1年ほどで、だまされてお金を失ってしまったという方たちからの相談が本当に増えました。

また「お金を稼ぐ」ことへの偏見や思い込みを持つ人もたくさんいます。もっとニュートラルにお金を捉え、お金を稼ぐ楽しさを知ってもらいたいと思ったんです。そのために必要な会計リテラシーを伝えたい。それが、本書を執筆しようと思った動機です。

「お金にはコストがかかっていること」を意識する

──「会計リテラシー」とはどういうものでしょうか?

「会計リテラシー」は僕の造語ですが「会計の知恵を仕事と人生に活かすこと」です。

具体的には、

1.お金にはコストがかかっていることを意識していること
2.資本コスト以上にお金を増やす責任を自覚していること
3.レバレッジを活用すること
4.お金の流れをイメージできていること
5.お金を増やすための損益構造を理解していること

の5つですね。

会計リテラシーの基本は、「1.お金にはコストがかかっていることを意識していること」です。お金のコストについては本書で詳述していますが、例えばリボ払いでショッピングする場合はその金利がコストにあたりますね。また、ローンでなくても機会損失(後述)というコストもかかっています。

多くの人たちがこれを自覚しないまま、借金を重ねたり、稼いだお金を活かすことなく無駄づかいしてしまったりして、お金に振り回されてしまっています。お金にコストがかかっていることを自覚してお金を活かし、お金を増やす責任を自覚するだけで、お金の使い方は大きく変化していきます。

先ほど述べたような失敗から僕自身が学び、これらを意識することで仕事も人生も好転しました。今ではこの会計リテラシーをクライアントや受講生の方々に伝えていますが、会計リテラシーを身につけた方は皆さん、僕と同様に仕事も人生も好転し、お金の不安とは無縁の人生を手に入れています。

──「会計リテラシー」と聞くと難しそうに感じましたが、ストーリー形式でどんどん読み進められました。

そう言ってもらえるとうれしいですね!

おっしゃるように、今回の本はストーリー形式で、「近代会計の父」ルカ・パチョーリが現代に降臨し、冴えないサラリーマンに会計の知恵を教えるという設定になっています。

ストーリー形式にすることで、読者は主人公に感情移入して自分自身と重ね合わせることができ、ただ文章で説明するよりも深い気づきや学びを得ることができると思います。「会計リテラシー」がどういうものか、わかりやすく伝わるように意識しながら執筆しました。

個人的には、ルカ・パチョーリをお茶目な関西人のような設定にしたことで、所々ギャグを交えて書けたのが楽しかったです。

会計リテラシーを身につけるには、簿記の勉強しかない?

──「会計リテラシー」を身につけるには、 簿記を勉強すればいいんですか?

その必要はないですね!

勘違いしている人が多いのですが、簿記と会計は違います。簿記は帳簿記録の方法なので、どうしても無味乾燥とした、細かいルールを覚えるだけの勉強になりがちです。せっかく会計を学ぼうと思ったビジネスパーソンも、簿記がつまらないので会計もつまらないと思ってしまうのは、大変もったいないことです。簿記は、会計という深遠で美しい体系の中のごく一部にすぎません。

もしこのインタビューをお読みの方の中に、会計を学ぼうと思って簿記に挑戦したけど挫折してしまったという方がいたら、それは会計のほんの一側面に過ぎないので、ぜひ本書を読んでいただいて、会計の面白さや美しさを感じて欲しいなと思います。

私自身がそうだったように、会計や簿記の知識と会計リテラシーは直接関係ないのです。

会計リテラシーから見て、NGな「お金の使い方」とは?

──その「会計リテラシー」の点で、多くの人がやりがちなNGなお金の使い方は、どういうものでしょうか?

先ほども言いましたが、「リボ払い」などは典型的なNG行動ですね。

最近は、カード会社も「ポイントプレゼント」「キャッシュバック」など、カジュアルな感覚でリボ払いを勧めているので、リボ払いなら大丈夫だろうくらいの気軽な感覚で利用する方も多いようです。実は、これはもうサラ金と同じです。

リボ払いの金利設定は、だいたい15%くらいになっていますが、あり得ないほどの高金利です。どれほど条件の良い金融商品でも15%以上の利回りのものはほとんどなく、あるとしたらきわめて高リスクのものだけです。つまり、お金を15%以上の利回りで増やすのはきわめて困難であるにもかかわらず、平気でそんな高金利で買い物をしてしまうのです。

──リボ払いに簡単に手を出してはダメなんですね。お金に困ったときには、ついやってしまいそうです。

「ついやってしまう」といえば、かつての僕がそうであったように、ちょっとお金を稼ぐとすぐぜいたくに使ってしまう方も少なくありません。もちろん、ぜいたくが悪いわけではなく、いい経験にもなります。自分を幸せにすることにお金を使うのはいいことです。

でも、そのお金を無駄づかいせずに活かしていれば、「お金がお金を生み出す仕組み」を作ることもできたはずなのです。とくに、「複利のパワー」を活かせば、時間はかかりますがお金は着実に大きく増えていきます。贅沢をするときは、そのチャンスをみすみす逃していることを自覚したほうがいいでしょう。いわゆる機会損失ですね.

──「複利のパワー」について教えてください。

たとえば、会社の同僚と居酒屋で愚痴を言い合って、二次会でもう一軒居酒屋、三次会でカラオケに行って、10000円使うというのがお決まりのパターンになっているとしましょう。このお金は、なにか生産的なものを生み出すわけではないので、無駄づかいだといえます。このお金で、たとえば、投資信託の積立をしていれば、「複利(再投資型)」で運用できます。複利とは、投資で得られた利益を元本に含めてそのまま運用する方法です。これで運用すれば、長期的には圧倒的に有利だといえます。「複利は魔法」といっても過言ではありません。

このような機会損失を避けるためには、やはりお金にコストがかかっていることの自覚、お金を活かしお金を増やす責任の自覚が大切だと思います。お金は活かされたがっています。お金はうまく活かせば、人を幸せにしてさらに増えて戻ってきます。

ぜひ、本書『会計の神さまが教えてくれたお金のルール』を手にとっていただき、会計リテラシーを身につけ、一生お金に困らない知恵を手に入れ、豊かさが循環する生き方をしていって欲しいと願っています。


【著者プロフィール】
天野敦之(あまの あつし)
本名:山本敦之。一橋大学商学部在学中に公認会計士第二次試験に一発合格。アクセンチュア株式会社、野村證券株式会社を経て2008年に独立し、人を幸せにする会社総合研究所株式会社を設立。

ヨガをきっかけにスピリチュアルに目覚め、現在はお金・スピリチュアリティ・健康美を統合した観点から、経営者・リーダーが最高の自分に調えるためのセルフマネジメントや、お金の稼ぎ方・増やし方のコンサルティング、講演、執筆など複数の事業を営んでいる。

会計入門書のベストセラー『会計のことが面白いほどわかる本』(中経出版)、『君を幸せにする会社』(日本実業出版社)、『宇宙とつながる働き方』(総合法令出版)、『宇宙を感じて仕事をしよう』(サンマーク出版)など著書多数、累計40万部を超える。