管理職は配慮のしすぎも要注意

──大企業だと毎年当たり前のように産休・育休の取得者が出るかもしれませんが、中小企業では頻繁にあるわけではない。手引きのような従業員に渡すことのできる資料があると、ありがたいでしょうね。特に、管理職に向けての説明はあまり見かけません。

管理職向けをつくろうと思ったきっかけは、2つありました。

ひとつは、お客様に直接言われたことです。「取得者向けの手引きをつくろうと思っている」と話したら「管理職向けもぜひほしい」と提案されて、なるほどと思った。

もうひとつは別のお客様で、上司がおっかなびっくりで、妊娠したり、育児をしている社員の言うがままに配慮してしまっているケースがあったんです。

妊娠中に体調不良だという申し出があると、細かな内容も考慮せずに希望どおりに休ませる。

配慮は必要だけど、その必要な配慮をきちんと判断する必要がある。

上司にきちんと法令と会社の制度を理解させて、会社は仕事をする場だということを基本に考えて行動するようにしてもらいたい。妊娠したから、育児があるから、といって必要以上に配慮したり仕事を免除したりするのは、組織としておかしいでしょう。

──過剰な配慮の結果、軋轢が生まれているという話も聞きますね。

そうなると会社にとっても不幸ですし、本人のキャリアにとってもよくありません。残業できるかもしれない人を、育児があるからということだけで残業させないのはおかしいですよね。

私も産休・育休を取得したんですが、産後6週で、在宅で仕事の一部をすることにしたんです。

会社から仕事をできる範囲でやってくれないかと言われていて、私自身仕事から完全に離れるのも怖かったし、残してきたメンバーに負担がかかることが気になっていました。ちょっとしたブログの更新なら、家でもできますから。

私が妊娠して出産し、産休・育休を取得することについて、特に何も言わずにカバーしてくれたメンバーは本当にありがたかった。

──社会の変化が速くて、離れるのが怖いという人も多いですね。

働き方改革で仕事が整理されていくと、これまで働いていた部署がなくなるかもしれない。

産休・育休を取得する際には、そうなる可能性まで想定したうえで、自分のキャリアをどうするのかを考えていかなければならないとも思っています。

男性のサポートは育休取得でなくてもよい

──ところで、女性の育休取得率が高い水準を示す一方、男性の育休取得率はなかなか上がりません。これについてはどう思われますか。

男性の取得率も上がったほうがよいとは思いますが、上げることが目標になっていることには違和感があります。

なぜ男性は育休を取らないのか、取りたくても取れないのか、取りたくないのか、その分析も必要だと思っています。

──取得する人が増えてくれば、周囲の意識も徐々に変わっていくでしょう。

もちろん、育休を取りたいと思う男性が取れる社会が必要だと思います。ただ、パートナーへのサポートの形は、育休だけが答えではないと思います。

男性のほうが職場から離れることの恐怖心は大きいと思います。それは当たり前のことで、2~3日の形だけの育休をとっても、本来の目指すところではない。キャリアの連続を考えて、たとえば短時間勤務であれば、職場から離れないで済みます。男性の育児参加や女性が働き続けられることを考えるのであれば、選択肢はもっと多くあることを伝えたい。

いま当社では、時差出勤制度を採り入れているんです。育児のほか、通院や資格取得のために必要なときに出勤時間を繰り上げ・繰り下げられるようになっています。

あるメンバーは、共働きで育休を取得していた奥さんの復帰のタイミングで、出勤時間を繰り下げて子どもを保育園に送っていました。朝は遅く来るけど残業はできる。彼に育休取得を周りは勧めたけれど、取らないのは彼自身が決めたことでもあります。それはそれでよい判断だと私は考えたいです。もちろん、彼が取りたいと思っていたのであれば別ですが。

女性にのみしわ寄せが来ることはおかしいと思うのですが、家庭のバランスとして最適な状況を考えて、制度を利用できることが重要です。

こうした事例も集めて、積み上げていきたいと思っています。

──時差出勤もその他の制度も、いろいろなやり方で応用がききそうですね。

リモートワークという方法もありますが、自分自身が在宅で仕事をしていたときに問題も感じました。

子どもが寝ていると思って仕事をしいてると、泣き出したりする。預けて在宅で仕事をすることもできると思うのですが、なかなかそうはいかない。子どもがいるところで集中してできるかといったら、できることは限られると答えるでしょう。

本格的なリモートワークを検討するのであれば、リモートの環境を考えることは必須でしょう。

働き続ける意味をいかに考えさせるか

──昔は正社員しかいなくてその処遇だけ考えていればよかったものが、雇用形態が多様化してきて、さらに産休・育休にも配慮することが必要になる。担当者は大変になってきていますね。

育休取得者のカバーとして雇った派遣社員や契約社員が優秀で、その方に継続して働いてもらいたいという相談も多いです。

あと、募集をかけたら妊娠しているのではないかと思える女性が面接に来ていて、雇用したあとで実は妊娠してましたと言ってくる、という話もしばしば聞きます。あるいは育休を取得している間に第二子、第三子ができて、最長9年、出社していないケースもありました。

少子化を考えると、純粋にたくさんの子どもを産む女性は素晴らしいと思いますし、それだけの子育てをしようと決意している夫婦を尊敬します。

その一方で、制度の活用により休むことを中心に考えているのではないか、と感じる人には正直、疑問を抱きます。

──産休・育休取得後のキャリアまで考えている人と、権利意識が強いだけの人との振り幅が大きい。

「女性が活躍できる社会をつくる」という趣旨はわかるのですが、国が女性活躍というのもおかしくて、女性自身が活躍したいと思うからこそ女性活躍ができるんです。これからも職場で活躍したいのであれば、女性自身も、当然やらなければならないこともある。

仕事やキャリアを考えたうえで、産休・育休をどのように捉えるのかも考えてほしいですし、総務担当者にも制度の利用の説明や相談対応にとどまらず、キャリア形成についても従業員の力になってほしい。今回の著書が、その一助になればと思います。

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著者プロフィール

宮武 貴美(みやたけ たかみ)

社会保険労務士法人名南経営 特定社会保険労務士・産業カウンセラー。中小企業から東証一部上場企業まで幅広い顧客を担当し、実務に即した人事労務管理のアドバイスを行なう。インターネット上の情報サイト「労務ドットコム」の管理者であり、人事労務分野での最新情報の収集・発信は日本屈指のレベル。現場に詳しく、わかりやすい解説には定評があり、企業担当者・社会保険労務士には多くのファンがいる。主な著書に『社会保険の手続きがサクサクできる本』(日本実業出版社)などがある。