「大阪市立の中学校で3年前、女子生徒が不登校に 第三者委「いじめあった」と認定」
「大人になっても続く「普通じゃない」の呪縛 不登校経験者の苦しみ」

今、不登校にひきこもり、虐待や貧困など、大きな問題に悩み苦しんでいる子どもが多くいます。子ども達は誰かに助けてもらいたいと思いながらも1人で悩み、将来に不安を感じています。

どうしたらいいかわからない君のための 人生の歩きかた図鑑は、そうした救いを求める子ども達や、困っている子ども達を救いたいと思っている大人達のために、それぞれの悩みの相談先や解決方法をまとめた1冊です。この本を著したノンフィクション作家の石井光太さんに、今の子ども達が置かれている状況や、著書に込めた思いについてお話をうかがいました。(文責:日本実業出版社)

どうしたらいいかわからない子ども達が増えている

子どもの悩みに寄り添ってきた、石井光太さん。

ーここ数年で増えている子どもの悩みはありますか?

僕が取材を続けてきた中で感じるのは、今までの子どもの多くは「いじめられたから」とか「学校の先生が」といった明確な理由があって、不登校になっていました。

でも最近は、大人からすると一つひとつは些細な事、たとえば友達とケンカした、成績が落ちた、好きな子とうまく話せなかったとか、そんな少しずつのつまずきから、なんとなく不登校になる子が増えていると聞きます。

その“なんとなく”をもう少しくわしく分析してみると、人と人との関係の中で自分のポジションを見つけられず、気づけば居心地の悪さから孤立していく子が多いようです。とくに、今の子どもは情報をたくさんの方法で手に入れていて、頭でっかちになっているように感じます。社会一般にある価値観・常識に全てを当てはめようとして、そこから少しはずれると不安になってしまう。それが生きづらさにつながります。

そうしてレールから外れた瞬間に、居場所を失い、福祉の救いも届かない、いわゆる“漂流”状態になってしまう。学校を休みがちだった子が、ずっと来なくなって、卒業式にも居なかった……。というように、いつのまにか「消えた」同級生がいたという人も少なくないですよね。

ー漂流するか、あらたな道を見つけられるかの境目は何でしょう?

それはやっぱり、どこに助けを求めていいのか、その先でどのようなサポートを受けられるのかを知っているかどうかが大きいと思います。ただ、SOSを求めることは子どもにはとても勇気がいることなんです。

相談することで、もっと悪い方向にいってしまうんじゃないか、自分はどうなるのか……って子ども達は不安を感じるんです。「相談窓口に電話をかけてね」と、いわれても、実際にかけられる子ってほとんどいないと思います。

この本の1つの目的が、それを可視化するということでした。この番号にかけるとどこにつながるのか? 悩み相談のとき、名前や住所は聞かれる? そんな疑問にこたえています。

また、いったんレールを外れた子どもが漂流してしまう理由として、様々な挫折が積み重なることで、現状を変える気力をなくしてしまうというのがあるのかなと思います。

大人も感じることがあるかもしれませんが、自己責任論だったり失敗を許さない風潮が強まっていたりして、1回失敗した子は挫折を乗り越えづらく、さらにドミノ式に悪い方向に倒れてしまう。中卒や高卒の子が社会で一生懸命生きようと思っても、それが受け入れられないし、認めてもらえない。これでは彼らが社会の中で居場所を無くすのはのは当然だといえます。

そうした状況は子ども一人の力では覆すのは難しい。だったら、そうした人生をはずれてしまった子でも受け入れる職場を紹介してくれる窓口に相談してみるのも一つの手です。自分の状況をわかったうえでサポートしてくれる職場で成功体験をつんでいく。そうした自己肯定感を高める場所を見つけることで、生きやすい人生へとつなげることができます。

色々な選択肢や生きかたがある

ー『人生の歩きかた図鑑』というタイトルにある通り、その場かぎりではない先を見据えた視点が大切ということですね。

そうですね。子どもはどうしても「目の前の問題から逃げ出したい」ということで頭がいっぱいになりがちです。そうした子ども達が、逃げ出した先でどう生きていくのかまでを考えてアドバイスをするのが大人だと思うんです。

中には、「助けてあげるよ」といって、その場限りの甘い言葉で近づいてくる大人もいます。でも、そんな人ばかりじゃない。この本で紹介したように。子どもたちを助けたいと思って待っている大人たちがたくさんいるのを知ってもらいたいです。

たとえば、取材でお話を聞きに行った、子ども食堂運営者の栗林さんは、「いつでも相談にのります」と私用の携帯番号を書籍に掲載するようにいってくださり、ビックリしました。そんな、子どもたちのSOSを真剣に受け止めようとしてくれる25名以上の大人達の声を本に収録しています。

挫折して困っている、あきらめかけている子どもに対しては、たくさんの失敗を経験してきた大人が、うまくいかないことがあっても前に進めばいいんだと励ましてあげる必要があります。

そういう意味で、大人にはまずは「そんなに心配しなくても大丈夫。なんとかするよ」と第一声で答えてあげてほしいですね。こんな生き方があるんだというのを見せるのが大人の役割だと思うんです。「学校にいけなくても、こんな進路があるんだ」と気づけば、悩みで頭がいっぱいになっていた子どもも、ほっとしますよね。

どんな人生でも、人って素晴らしい

ー虐待やいじめ事件を取材し続け、本を執筆し続けるモチベーションは何ですか?

一言でいうと、人が好きなんです。とても悲惨な状況の中でも、希望をもって生きている人達がいる。たとえば、海外のスラムの町で、子ども達が貧困によって栄養失調になりながらも、普通にサッカーをしたり恋愛したり結婚したりっていうのを見ると、なんだか感動するわけです。そんな風に、色々な人生を取材して、人間や人生は素晴らしいということを伝えたい。

素晴らしいこと、美しいことだけでない、しんどい出来事やつらいこと、そういう人間本来のエネルギーによって世界がなりたっている。だからこそ、人は魅力的だと思うし、人生を生きる価値があるんだなと思うんです。

だから、ノンフィクションを書くときには、マイナス面も含めた人間の不思議さや魅力を書きたい。社会とか政治じゃなくて、人間を書きたいんです。

石井さんはデビュー当時から“子ども”の問題を扱った作品を数多く執筆されていますが、それはなぜなのでしょうか?

単純に、子ども達には幸せになってほしいからです。だからこそ、今回の本でも、困っている子ども達に「こんな生きかたもあるよ」「だいじょうぶ。人生はきっとうまくいく」という道を少しでも示せたらと思い執筆しました。

色々な出来事によって、一旦レールからはみだしてしまってもいいんです。「社会のルールに100%沿って生きるのはつらい」のは当たり前の話。学校の中で行き詰まっている子には、型からはずれた価値観や楽しみ方も世の中にはたくさんあること、そして、その価値観を認めてくれる大人もたくさんいることを知ってほしいです。

人と関わることが少なくなった時代だからこそ、関わる場所をきちんと示してあげる。そうした役割をもつ本が必要なのかなと思っています。現場の大人達はみんな、子どもが相談しにくるのを待っている。ただ、大人達は広報をしているつもりでも、それが子ども達には届いていないんです。だから、僕達のような作家やメディアが、その橋渡しができれば、と考えました。

ですから、子どもを助け、導く役割を担う教師や親といった大人達にもぜひ、この本を手にとって知っていただきたいです。そしてこの本が、子どもの悩みに風穴をあけ、今までとは違う人生の歩きかたを見つけるヒントになることを願っています。



石井 光太(いしい こうた)


1977年、東京生まれ。『物乞う仏陀』でデビューし、国内外を舞台したノンフィクションを精力的に発表。『レンタルチャイルド』『浮浪児1945–』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『漂流児童』など、子どもの問題を扱った作品も多い。児童書に『ぼくたちはなぜ、学校に行くのか。』『みんなのチャンス』『幸せとまずしさの教室』『君が世界を変えるなら(シリーズ)』などがある。他に小説など著書多数。

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