言葉だけではコミュニケーションできない

Q. 「もっと表情豊かにお客様に接しようよ」といわれます。笑顔でいればいいというものでもないと思うのですが……。

A. 表情を意識した「非言語コミュニケーション」は大事です。

コミュニケーションには、言葉を使う「言語コミュニケーション」と、言葉以外の伝達手段を用いた「非言語コミュニケーション」があります。

言語コミュニケーション……話す言葉の内容、手話、筆談など。抽象的・論理的表現に優れている。

非言語コミュニケーション……身振り、手振り、表情、声のトーン、見た目、印象など。対人関係において、感情、態度、パーソナリティなどの情報を伝達する際には、言語コミュニケーションより、非言語コミュニケーションのほうが多くの情報を与えることができる。

福岡県に、博多明太子を販売する「ふくや」という会社があります。福岡県内に多くの店舗を持っているのですが、同社が行なっている顧客アンケートで、とても興味深い結果が出ています。それは、お客様に店員の「接客態度」に加え、「商品の味はどうだったのか」「値段は適正か」というアンケートでした。

その結果は、「店員の接客態度がいい」と答えた人は、ほぼ100%「味もよく、価格は適正」とも回答し、「価格が高い」という回答をしたお客様は1人もいなかったということです。ところが、「店員の接客態度がよくない」と答えた人の大多数が、「味がよくない、価格が高い」と回答したそうです。商品はまったく一緒なのに、店員の接客態度によって味が変わってしまう、価格に対する印象が変わってしまうというのです。

これを受けて、同社は徹底的に社員教育をして業績を上げていきました。接客態度をよくすることで、お客様の満足度を上げていき、結果として売上も上がっていったという素晴らしい事例です。

接客態度というのは、まさに非言語コミュニケーションの集積です。お客様が質問したいときに、「店員同士でしゃべっている」「やる気がなさそう」「挨拶に元気がない」ではいけません。明るく、健康的で、何でも聞いてくださいといった、気持ちのいい接客が大事です。

この非言語コミュニケーションは、表情、姿勢、語調、声のリズム、行動の量とスピードなど、多岐にわたります。このなかで、もっともインパクトが大きいのが、「表情」です。営業として、戦略的に表情を切り替えられるスキルをまず身につけましょう。

表情で気持ちを伝える

コミュニケーションとしての表情は、大きく次の3種類に分けられます。

オープンフェイス……笑っている表情、心を開いて微笑んでいる表情。緊張感を緩め、周囲にリラックス感を与える。

ニュートラルフェイス……「素」の表情。何も意識せずにいるときの表情であり、周囲に対して影響を与えにくい。

クローズドフェイス……真剣な表情、厳しい表情。周囲に緊張感を与える。

表情を意識した非言語コミュニケーションでは、「オープンフェイス」「ニュートラルフェイス」「クローズドフェイス」を局面に応じて使い分けていく必要があります。

日本人(東洋人)は、西欧人に比べると表情に乏しいため、かなり意識して表情をつくらないと、「表情の変化」を相手に伝えることはできません。

私は営業コンサルタントとして、私が営業や販売スタッフに「話し方」の研修をする際には、「どのように表情をつくればいいか」をシチュエーションごとに解説しています。

[シチュエーション 1] お客様との単純接触・製品説明・商談
オープンフェイスで対応。柔らかい笑顔でリラックス感を与える。

[シチュエーション 2] お客様への(比較的強い)クロージング
クローズドフェイスで対応。製品説明を「オープンフェイス」でしているので、真剣な表情に変化したときに「ギャップ」が生まれ、相手にインパクトを与えられる。

[シチュエーション 3] お客様からお断りされたとき
ニュートラルフェイスで対応。残念な結果になっても、苦々しい表情(クローズドフェイス)を見せない。

[シチュエーション 4] お客様から注文をもらったとき
とびっきりの「オープンフェイス」で対応する。微笑みではなく、大きな喜びを表現する。

営業とお客様との「心の摩擦値」を取り除くためには、まずは柔らかいオープンフェイスで接し続けます。そして「ここぞ!」というときにクローズドフェイスで押していきましょう。摩擦抵抗がなくなってから背中を押すことが重要です。


著者プロフィール

横山信弘(よこやま のぶひろ)

株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長。企業の現場に入り、目標を絶対達成させる営業コンサルタント。営業支援先は、NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで。3大メガバンク、野村證券などでも研修実績がある。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。『日経ビジネス』『東洋経済』『PRESIDENT』など、各種ビジネス誌への寄稿、多数のメディアでの取材経験がある。ベストセラー『絶対達成シリーズ』の著者であり、メルマガ「草創花伝」は4万人の経営者、管理者が購読している。コラムニストとしても人気で、日経ビジネスオンライン、Yahoo ! ニュースのコラムは年間2000万以上のPVを記録する。著書に『絶対達成する部下の育て方』『絶対達成マインドのつくり方』(以上、ダイヤモンド社)、『最強の経営を実現する「予材管理」のすべて』(日本実業出版社)、『空気で人を動かす』(フォレスト出版)などがあり、その多くが中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されており、現地でも人気が高い。

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