「アナロジー発想で新しいやり方を試す」

個人も組織も、長くビジネスをやっているとどうしても思考パターンがマンネリ化してきて、打ち手が行きづまってきます。まったく新しい発想というのはそう簡単に出てくるものではありません。

そんなときには、他の業界や業種でうまくいっているやり方を導入することが有効です。それがアナロジー(類推)発想です。他業種で成功した施策を、自社のサービスにカスタマイズして追加したり、掛け合わせて導入したり。イノベーションは、まさにこうしたアナロジー発想から生まれることが多いのです。

楽天には、新しいアイデアをどんどん取り入れる柔軟なカルチャーがあります。会社が急成長する過程で、中途入社した優秀な人材が持ち込んだアイデアによって新しいサービスができ、仕事のやり方も洗練されていく。これは、楽天が成長し続ける大事な要素でした。

たとえば、大きな収益源のひとつである楽天市場の店舗向け広告販売の仕組みの設計には、リクルート出身者が大きな役割を果たしたそうです。

また、店舗のサポート体制の充実には、「店舗カルテ」と呼ばれるツールが貢献しました。これは各店舗の売上状況を定量的に分析できるものですが、その手法には、銀行の融資先企業向けのサポート手法が取り入れられました。銀行出身者の活躍があったことは言うまでもありません。

このような外部からもたらされたアイデアと、それをアナロジー発想で積極的に取り入れる楽天のカルチャーが、成長の原動力のひとつだったのです。

「全員掃除が当事者意識を育てる」

週1回は全社員が参加する「朝会」を行っている企業は比較的多いようです。しかし、毎週1回、全員で掃除をする会社は少ないでしょう。

楽天でも、毎週火曜の朝8時から全員参加の「楽天朝会」が行なわれていますが、その直後に三木谷社長も参加する「全員掃除」を実施するそうです。自分が使うデスクや椅子はもちろん、使われていない椅子の脚まで丹念に磨く。先進的なIT企業には少し意外に思えますが、その狙いは、チームとしての一体感や、自分もチームの重要な一員であるという当事者意識の醸成にあります。

小林さんの入社時、楽天の社員数は100人程度だったそうです。その後どんどん増えていき、卒業時には15000人ほどいました。その中で、人が多くなるほどに当事者意識が薄れていくことに気づいたと言います。

当事者意識は、一定以上の人数がいるチームで目標を達成しようとするときにとても重要なものです。他人任せではチームワークに悪影響が出ます。さらには、いつも全員が高いパフォーマンスを発揮できるとは限らない中で、自分事として他人をフォローできるメンバーがいるかいないかでは、結果が大きく違ってきます。

自分たちが使うオフィスは自ら掃除をして丁寧に使う。当事者意識はそんなところから生まれるのです。


同書を一読すると、楽天という企業とその社員には、「試し、考え抜いて、結果を出すまで徹底的にやりきる」カルチャーがすみずみまで浸透しているように感じられます。この「徹底する力」こそが、楽天の強みなのではないでしょうか。

成果を上げるために日々試行錯誤している皆さんへのヒントが、たくさんつまっている1冊と言えます。