クレーム対応の初期段階で使うのは「限定付き謝罪」です。これは、文字通り限定的、部分的に謝ること。一方の「全面的謝罪」は、言うまでもなくすべての非は自分たちにあることを認めて謝ることです。企業が不祥事を起こしたとき行う記者会見はこれにあたります。

「最初にやるべきことは謝罪」なのですが、クレームの原因が把握できていない状況では全面的に謝る必要はありません。お客様の話を聞いてみたら単なる思い込みだった、というのもよくあることです。

「限定付き謝罪」の方法

しかし、状況がわからない初期段階に、どの部分に限定して謝ればいいのでしょうか。谷さんの答えはこうです。

ここで、まだ状況を確認していなくてもわかっていることが1つあります。それは、自分たちは良かれと思って、お客様に対してきちんと仕事をしていても、目の前で怒っているお客様は自分たちの仕事に満足していない、嫌な気持ちになっていることです。

そのお客様の怒りの気持ちに対して謝る手法が、限定付き謝罪であると理解してもらって結構です。
(114ページ)

つまり、クレーム対応の初期段階では、全面的に謝るのではなく「そのお客様の怒りの気持ちに対してのみ謝る」こと。これが初期対応を間違えない秘訣だそうです。

ちなみに本書には、限定付き謝罪の具体例として「業界別・頻出クレームに対するお詫びの言葉リスト(例)」が載っています。あくまで例ですが、参考までに一部を紹介します。

●不動産業界

新しく入居したお客様から「マンションのエントランスが汚い」と言われた場合
「ご紹介した物件でご不便をおかけしているようですね、申し訳ございません」

●ホテル業界

チェックインしたお客様から「禁煙室なのにタバコの臭いがする」と言われた場合
「私どもに不手際があり、嫌な気持ちを与えてしまいましたこと、深くお詫びいたします」

●ネット通販

商品をご購入されたお客様から「思っていたのと全然違う!」と言われた場合
「お送りした商品がご期待に応えられない部分があったこと、心苦しい限りでございます」

(117ページ)

謝罪によって「対立」を「対話」に変える

クレームがあったとき、お客様との間にあるのは「対立関係」です。お客様は冷静さを欠いており、攻撃的な姿勢で向かってきます。

謝罪することでお客様に冷静になってもらい、話し合いができる状態に変える。対立関係から対話できる関係に変えられれば、お互いが話し合い、納得できる「落としどころ」を探ることができます。

谷さんは、クレーム対応を「究極のビジネスコミュニケーション」と捉えていますが、その理由の1つはここにありそうです。クレームをきっかけにお客様と対話できれば、それを通じて自社に有益なアドバイスをしてくれる貴重なお客様、ファンになってくれる可能性があるからです。

クレーム対応という究極のビジネスコミュニケーションを手に入れることができれば、悪魔だと思っていたクレーマーが天使だったことに気づき、自分たちの強い味方、つまり一番のお得意様にすることができると思います。
(プロローグより)

クレーム客をお得意様にしてしまうノウハウが書かれた本書には、その他にも「絶対にやってはいけないNG対応」や「最低限知っておくべき火消しのルール」「大ピンチでも何とかしてしまう超一流の技法」など、谷さんの経験に裏打ちされた貴重なアドバイスが詰まっています。

クレーム対応という仕事には、「ストレスがたまる」「電話をとるのが怖くなる」といったイメージがあります。本書は、そんなイメージを変えてくれる1冊かもしれません。